第7話 鈍感だな
「で、家はどこなんだ」
「え、い…家ですか?」
店の施錠を始めたアンドレに尋ねられ、困惑するイリビア。
「えっ…私の家に来る…ってことですか」
「嫌か」
エプロンを脱いでイリビアを見るアンドレ。
白いシャツごしからも分かる、アンドレの逞しい胸板に自然と目がいってしまう。
「え…嫌…とかじゃないんですけれど、なんで…」
「ゴールドフィッシュは1匹だとしても中型だ、持って帰るには重いだろ。持っていく」
宝魚をビニール袋に入れて押し付けて、しばらくイリビアに持たせていたルイス王太子のことが一瞬頭に浮かび、イリビアは慌てて頭を振り比較しないようにする。
「あと、亡くなった宝魚を見に行きたいんだが。まだ水の中にいるんだろう」
「あ、はい。たぶん…」
「魚が亡くなる原因にはいくつかあるが、まずは様子を見に行かないと、ゴールドフィッシュも同じようになる可能性があるからな」
「あっ、なるほど…!」
「行くぞ」
店を出て、アンドレと共に自分の家に向かうイリビア。
魚が入った荷物を持ったアンドレと並んで街の中を歩き出して暫くして、イリビアは周囲の視線に気がつき始める。
すれ違う女性達から向けられる、うっとりとした瞳に。
すれ違う女性のほとんどが歩く速度をゆるめ、アンドレの方を振り返りながら、口を開けて潤んだ眼差しで見つめている。中には立ち止まってしまう女性もいる。
(こんなに見つめられていて、気にならないのかな…?)
あからさまは女性達の態度に、全く反応を示さないアンドレを、イリビアは横からじっと見つめる。
「…なんだ」
「えっ?」
「さっきから、俺のことを見ているだろ」
「あっ…えっと…気にならないのかな?って思って…。すれ違う女性が、全員アンドレさんを見てますけど…」
「あ?そうか?全く気がつかなかった」
「えっ、あんなに見られてて?アンドレさん…鈍感だって言われたことありません?」
イリビアは驚いてアンドレを見上げる。
「そういう自分こそ、男達の視線が自分に向いてることに気付いていたか」
「えっ?私にですか…!?」
「あれだけ見られていて気が付かないとは、鈍感だな」
口角を上げ目を細めたアンドレは、イリビアを見て笑う。
「あーっ、ひどーい」
イリビアの反応に、アンドレは吹き出して楽しそうに笑い、イリビアもつられて笑ってしまう。
「ふふっ、1人暮らしを初めてから誰かと一緒に笑ったの、久しぶりな気がします。気持ちがいい〜!」
「1人暮らしは長いのか?」
「う〜んと…そうですね、長くもなく短くもなくかな…?以前は親と一緒に住んでいたので」
「そうか」
なぜ1人暮らしになったのか理由を聞かれると思い緊張していたイリビアだったが、アンドレから何も聞かれずホッと胸を撫で下ろす。
「あっ、ここです、私の家に着きました」
街の喧騒から離れた場所に、ポツンと建つ家が見えた。
「いい家だな」
アンドレの優しい言葉に、イリビアは自然と笑顔になる。と同時に、この家に初めて訪れたルイス王太子のことを思い出す。
「君にこんな場所は似合わない。私がもっと広い家を建ててあげよう」
イリビアは暗い表情で、小さく息を吐く。
「それで、例の宝魚がいるのはどこだ?」
アンドレの声に、ハッと現実に引き戻されるイリビア。
「その場所は——」




