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箱入りお嬢さまは王子の魚を全滅させる  作者: めんだCoda


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第6話 ビオトープのはじめ

「あ!このお魚可愛い〜!あ!これもいいなぁ〜!迷う〜っ!」


 イリビアは、店内にたくさん設置された水槽を見て回る。


「好きなのを選べばいいと言いたいところだが、宝魚に似た魚を考えているのだとしたら、それらの小型の種類ではなく、中型から選ぶべきだな。こっちに来れるか」


 大きめの水槽が並ぶ前にしゃがむアンドレに呼ばれ、イリビアも隣にしゃがみ込む。

 中型の魚が泳いでいる水槽の中で、ある1つの水槽に目が止まる。


「あっ、これ…宝魚に似てる!」


「そうだ、宝魚はもともと、この魚をベースに品種改良されたものだ。体が金色に光って見えることから、ゴールドフィッシュと呼ばれている。宝魚はこれにラメだとか手が何層にも加えられているが、元を辿ればこのゴールドフィッシュと同じで、生態はほぼほぼ一緒だ」


「えっ—!…てことは、このゴールドフィッシュたちを宝魚にすることも…できるってことですよね!?」


「今の話からはそうなる。だが、まず、品種改良には何十年と時間がかかる。それから、品種改良に成功したとしても、宝魚と全く同じ魚になるとは限らない」


「あぁ……そうですよね…そんな楽な方法はないですよね…」


 イリビアはゆっくりと立ち上がると、大きく息を吐く。


「でも…まあ…いいです!生態がほぼ同じなら、なんとかいけるかもしれないですしっ、そのゴールドフィッシュを売ってください!宝魚の代わりに育ます!あとは、なんでしたっけ…えっと、気象条件の揃った日?に、ルイス王太子様に見せれば奇跡起こるかも…!!あとはなるようになれって感じです!」


「——あはははっ!」


 急に笑うアンドレに、驚くイリビア。


「え…な、なんですか…」


「いや、ごめん。なんていうか、死刑かもしれないっていう最悪な状況でも、常に前向きだなーって」


「だって、考え込んでも無駄ですし、かと言って、こうなったことで相談する相手も…いないし…」


 イリビアは貴族落ちしたときに、今まで親しくしていた友人達を全員失った。

 国王の怒りをかった家の者から離れていくことは仕方がないことだが、それでもイリビアは毎日1人で過ごすことに、どこか寂しさを感じていた。


 イリビアは、水槽の前でしゃがむアンドレからじっと見られているのに気がつき、慌てて顔を逸らす。

 親しい人がいないことを口にした途端、少し涙が出そうになってしまったから。


「……あー。それなら俺も同じかなー…」


「え?」


「俺はこの薄暗いところで魚とずーっと一緒でさ、お客以外と接点ないからお客が来なければ、1日中誰とも喋らないってのも普通にあるしな」


 アンドレは立ち上がって、イリビアを見る。

 微笑んでいるアンドレは、普段のクールな印象とはかわり、笑うと人懐っこく見える。

イビリアは距離が縮まったと錯覚させられるその笑顔に、少しドキッとする。


「今日は友人サービスで、ゴールドフィッシュを少し安く売るよ」


「えっ…あ…ありがとうございます」


「ただ、問題がなー…金額はこれなんだけど」


 イリビアは、アンドレが指差す値札に視線をうつす。


「えっと……えっ…えええええっ!?な…!こんな高いの!?」


 小さい借家なら借りられるほどの値段だ。


「驚くだろ。だから、無理してこれを飼う必要はない。安価で取り扱い安いのは右の水槽の…」


「いい。これを飼う。だって、どうせ死刑になったら、財産残しておいても仕方ないし」


「—分かった。それなら、とりあえず1匹にしておいた方がいい」


 アンドレは水槽からゴールドフィッシュを優しくすくいだすと、透明の袋に入れる作業を始める。

 その間、イリビアはカウンターに行きお金を払う用意をしていると、カウンターに並べてある本の中からある1冊の本が目に止まる。


「あ、あのっ…!この本て、誰が書いたんですか!?」 


 イリビアが本を手に取り上に掲げ、作業中のアンドレに見せる。


「あー、それな。俺は知らないんだよね。祖父がこの店番しているときから、あるんだ」


「この本、買ってもいいですか?」


「ああ、それなら無料でやるよ。何十年と置かれていても、誰も手にとらなかったやつだ。そもそも、その本のタイトルの意味も、誰も分からないからな」


「ありがとう」


 イリビアは嬉しそうに本を手に取る。

 本の表紙には、『ビオトープのはじめ』とあった。

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