第3話 宝魚売ってませんか!?
イリビアは動かない宝魚を石鉢の中に入れ戻すと、ピンセットを放り投げそのまま街へと勢いよく走り出す。
「どこか…どこか、お魚を取り扱ってるお店…!!」
半ばパニック状態のイリビアは街中に入って走り回るが、人々で賑わう店が集う場所が余計に自分を混乱させるので、気を沈めるために1本奥の道に入った。
すると、1件の看板が目に入る。
『魚取扱い店』
「魚…あー…でも、食べる魚販売の方だよね、絶対…。…うーん、でも、えーーい!入るだけ入ってみちゃえ!」
期待せずに店のドアを勢いよく開けるイリビア。中は薄暗く、外が日中で明るかったせいか目が慣れずよく見えない。
「こんにちは〜…」
恐る恐る中に入ると、だんだんと慣れてきた目にうつったのは、店内に置かれたたくさんの透明の水槽だった。
そして、中には様々な魚が泳いでいた。
「わぁーー…!!すご〜い!」
イリビアは目と口を大きく開け、上から下へと水槽を見回す。
「…らっしゃいませー」
奥から出てきたのは、白いシャツにベージュのエプロンをした男性だった。背が高く、黒髪にメガネをしていた。
「あの…、すみません、ちょっとお聞きしたいことがあって、ここの店内にいるお魚は購入できるんですか?」
「できますけど、まずは魚を飼うための水槽から検討してもらった方がいいですねー。まずは、あそこに置いてある水槽の中から、どれにするか決めてもらってー…」
「大丈夫!あるんです!水槽みたいなの!だから、そうじゃなくてっ、えっと、あのっ、そのーっ」
「…はぁ」
店員の男性は、少し訝しげな顔をイリビアに向ける。
高い鼻に整った顔立ちが、一見クールな印象を与えるが、少し垂れ目なところが、優しそうでセクシーだ。
「あのっ…!…こ、ここに宝魚って売ってますか!?」
イリビアの張り上げた声に、男性の店員は驚いて固まる。
「…今、宝魚と言ったか…?」
「い、言いました…!」
すると、男性の店員は足早にイリビアに近付くと、イリビアの手首を掴み壁際にイリビアの体を押しつける。
「あんた、なんで宝魚のことを知っているんだ?あれは、この店の者と王族しか知らない魚だ。——あんた、何者だ?」
近付く男性の店員の顔に、イリビアは動揺する。鋭い視線からくる怖さと、…そのイケメンさに。
「わ、私はっ、ルイス王太子様から宝魚を預かった者です!」
「——殿下から…直接か?」
「そうですっ!昨日、遠征に向かわれる前に私の所へ立ち寄って下さいまして、そのときに宝魚をお預かりました!国の存亡を左右するほどの、大切な魚だと…!」
「ほう…そこまで知っているのか…。なら、今も預かっているはずだろう?ならなぜ、ここに宝魚がいるかと尋ねに来たのだ?」
「そ…それはっ…!…ま、まだお名前も教えていただいてない方に、お話はできません…!」
両手首を掴まれ、顔を近づけてくる男性の店員。イリビアは怯むことなく、じっと顔を見つめ返す。
「…はっ、まあ、それもそうだな。俺の名前はアンドレだ。あんたの名前は?」
「私はイリビアです。アンドレさん、もし宝魚を売っているなら買いたいんです!お願いします!!売ってください!」
「悪いが、売れないな」
「あ…あの!お金なら…!こう見えても、私たくさん持っています!払えます!」
「いや、そういうことじゃない。宝魚は、100年以上前にうちの店から国王に進呈した魚で、進呈して以降、繁殖させていない」
「え……じゃ、じゃあ、もう…手に入らない…」
「当たり前だろう。国宝である宝魚を、王族以外の人間に売るわけがないだろう。だいたい、代々大事に育てられてきたその宝魚は、今あんたの所にいるだろうが」
呆れ顔のアンドレは、掴んでいたイリビアの両手首から手を離し、後頭部をかきながらため息をつく。
「…いない…」
「え?なんだって?」
「…ううっ…わ、わたしっ、その宝魚を全滅させちゃったんですーーっ!」




