第2話 全滅させる
「確か、うちの外に背が高い石の鉢があったわよね」
ビオトープは簡単!手軽!放置でも飼える!
元の世界にいるとき、何か生き物を飼いたかったイリビア。YouTubeでそんなメッセージを見て強烈に惹きつけられ、今度ビオトープに挑戦してみようと思っていた矢先、異世界転生したのだ。
「ある意味、神様からこっちの世界でビオトープをしなさい、って言われてるようなものよね?」
イリビアは縦に長い石鉢に、バケツで水をザバザバと大量に入れる。
石鉢から溢れた水がふちから流れ落ち、下のコンクリートの色を濡らしていく。
「これで良しっ!と。あとは…」
ビニール袋に入った宝魚を持ち上げると、じっと見つめる。
「このお魚さん達を入れてあげるだけねっ!ごめんね、こんな窮屈な袋の中じゃ嫌だったよね」
イリビアは袋の結び目を解くと、ゆっくりとビニール袋を鉢の上で傾ける。
「さっ、入っていってね〜ゆっくり〜ジャポジャポ〜…」
宝魚たちは、袋の中から水の中へとジャポン、ジャポンと滑り落ちていく。
イリビアが石鉢の中を覗くと、宝魚たちが狂ったように上下に左右にと、激しくグルグルと泳ぎ回っていた。
「わぁ〜元気だあ〜!やっぱり、ビニール袋の中から出られて嬉しいんだね!」
イリビアは嬉しくなって、しばらく中を見続けていた。
「そうだ、餌とかどうするんだろう?貰ってない…っていうか、何あげるかも聞いてないんだけど」
少しイラッとしたイリビアは、目を瞑って1回深呼吸をする。
「だめだめ、ルイス王太子もお忙しかったのよ、私に預けたいっていうお気持ちだけでも、十分に感謝しなきゃ。ルイス王太子のお陰で、この国に住めてるんだし。それより、やっぱり宝魚だから、すごい高い餌とか食べるのかなぁ…えぇー…どうしよ〜…」
貴族落ちしているとはいえ、イリビアにもある程度の資産は残されてはいるが、毎日贅沢して生涯暮らせるほどの余裕はない。
「とりあえず、どこで餌を買えばいいか分からないし、今から街に行って探すのにも時間かかり過ぎて夜になっちゃうから、また明日行こうかな」
イリビアは、宝魚が水の中を勢いよく旋回しているのを眺めて満足し、家の中に入った。
「ん〜!よく寝た!さーてっ、宝魚さんたちは元気かな〜?」
朝起きて、真っ先に家の外に出てるイリビア。
「ん?」
石鉢の置いてあるコンクリートの上に、何かが1つ、ポツンと落ちている。
「…え…なに…あれ…?」
昨日までは無かった異様な物体に、イリビアは心がざわざわする。
恐る恐る近付くと、その物体はキラキラと鈍く光っていた。
「きゃーーー!え!うそ!どうしよう!?なんで!?え、え、え!?」
宝魚だった。
横になっている1匹の宝魚と、その下で少ししめる水分。
「えっ?えっ?えっ、ここから出ちゃったの?!どうしよう、どうしよう!」
パニックになったイリビアは、家の中から持ってきたピンセットで宝魚をつまむ。
そして、そっと水の中に入れてピンセットの力を緩める。
ふわっとしながら、ゆっくりと底に向かって落ちて行く宝魚。
「あ、え、え、えっ、やだやだ!」
沈んでいく宝魚を、慌ててピンセットでつまむ。
「と…と、とりあえず、どうする…?う…埋める…?いやいや…ていうか、そういえば他の宝魚は!?どこにいったの!?」
石鉢の中を覗き込むも、魚の姿が全く見当たらない。
落ちていた長い枝で水の中を掻き回すが、中には何もいない。
「……え?」
同じように飛び出して落ちたかと、石鉢の周囲を確認するが、他にも落ちた魚はいなかった。
「え…あ…あれれ…えーっと……。うそでしょ」




