第11話 水草探し
「こんにちは〜…」
翌朝、魚取扱い店のドアをゆっくり開けて、店に顔を出すイリビア。
店内は明るいが、シンと静まり返っている。
「あれ…誰もいないのかな…」
イリビアはゆっくりと店内に入り、キョロキョロと辺りを見回す。
「あぁ、すまないねえ」
奥から出てきたのは、昨日会ったアンドレの祖父だった。
「おや、お嬢さんは確か…昨日アンドレと一緒に来た子よのう」
「あっ、はい…!昨日は大変お世話になりました、ありがとうございます!いただいたもので、早速ビオトープが完成しました。本当に、ありがとうございます…!」
「そうかそうか、それは良かった」
ニコニコと笑うアンドレの祖父は、アンドレと同じベージュのエプロンを付けている。
「あれ…あの、今日はアンドレさんは…」
「ああ、孫のアンドレは今日は久しぶりに私用で休みを取っておってな、わたしが代わりに入ったのだよ。アンドレに何か用でもあったのかな?」
「あ、いえ…!用というか、そういうわけでも……」
昨日の帰り際に気まずくなったモヤモヤを、今日は直接会って解消したかったイリビア。
そんなイリビアを、柔和な笑顔でじっと見つめるアンドレの祖父。
「わたしで用が足りるようであれば、代わりに話を聞くがね」
「あ…実は…昨日作ったビオトープなんですが、私が持っている本によると水草が必要と書いてありまして。水草がどこで手に入るか分からなかったので、アンドレさんに聞いてみようかなと思って、今日ここに来たんです」
「あ〜あ、水草ね、はいはい。あれでしょう、農薬とかの薬品を使ってないものが良かったんだよねえ、確か。魚と一緒にいれるなら浮草とか鉢植えのものとか、色々使えるよねえ」
「そうなんですか」
「ほら、この辺来てみなさい」
水がはってある白いケースの中に、緑色の葉が円状に集まった草が、幾つも浮かんでいた。
「あっ!これ!本に載ってたホテイ草に似てる!」
「おお、気に入ったのが見つかったかな。それはホテイアオイと言うてな、わたしがここで開発した水草なんだよ。水に浮かべて鑑賞する植物でね、うちのは植物に薬品を使っていないから安心して使うといいよ。それから、魚と一緒に入れるならこれもおすすめじゃよ」
アンドレの祖父が指さしたのは、鉢植えに入った植物で、葉っぱが丸くて、茎がヒョロっと長い。
「これはね、マッシュルーム草と言ってね、水をたっぷりあげると成長が早いよ。水の中に沈めても大丈夫だから、一緒に入れてあげるといいよ。昨日あげた器は大きいから、これを鉢植えごと入れても邪魔にならないだろう」
「わぁ〜そうなんですね、ありがとうございます。では、ホテイアオイを2つと、マッシュルームを1つと…」
あっという間に入手でき、イリビアは安堵する。
「あのっ、昨日に続いて色々とありがとうございます」
「いえいえ。お嬢さんのお役に立てて良かったですよ。また何かあったらお店に来てください。アンドレにも今日来られたことを伝えておきますよ」
購入した水草が入った袋を手にしたイリビアは、足取り軽く店を出る。
「すごい、異世界でもこんなに簡単にビオトープに必要なものが揃うなんて!それにしても、アンドレさんのおじいさん、私が探してるものをすぐ分かってくれるし、おじいさんも昔はあのお魚の店で働いてただけあるわ!やっぱりその道のプロはすごいのね!」
イリビアが去った後、魚取扱い店ではアンドレの祖父がゆっくりと店内を歩いていた。
「そうか、まさかあのお嬢さんがねえ…」
カツカツカツと足音だけが、店内に響く。
「さてさて、これからどうしたものか…」
アンドレの祖父は歩くのを止め、ゆっくりと腰をかがめる。
「これは巡り合わせなのかの…」
じっと見つめた眼の前の水槽。
そこには、ゴールドフィッシュが静かに泳いでいた。




