6章 実質、優勝やろ
「ねー、浅田っちー」
さっちんが浅田に絡みに行った。さっちん、怖いものなしか。
「おーっす。なに?」
「次のサッカーの試合、いつ?」
「お! 応援しにきてくれるの?」
「んー、行ってもいいかなーって」
「なんだそりゃー」
ほんと、なんだそりゃ。自分の席に座って聞いてたけど、何しに行くのそれ。
「なんかさ、スポーツの試合、ちゃんと観たことなかったな、って思って」
「初の観戦がオレのでいいのかよ?」
「いーんじゃない?」
「軽ぃー」
ゲラゲラと浅田が笑う。
「んじゃ、日曜の朝10時、河川敷のグラウンドで。差し入れとか絶賛受付中だから」
「あははー、期待しないでおいてー」
軽い。かるいな二人とも。
「なーに、面白そうやーん」
「あ、ほのかも行く?」
「行く行くー。楽しそうー」
え、ほのかも行くのか。
別に行きたいわけじゃないのに、二人が行くとなったら急にそわそわしはじめた。
「未来も行くー?」
五月の炎天下は、そこそこ暑い。
どうしてこうなった。
「見てみぃ、みんなアップしとるで」
「おべんと、楽しみだなー♪」
なんか、いいなあ、エンジョイ勢は。
こっちに気づいた浅田が腕をぶんぶん振ってくれた。
「がんばりやーーー」
ほのかのエールを聞いたからか、なんか浅田めっちゃ張り切ってるみたいだ。やっぱり嬉しいのかな、女子に見に来てもらえるって。
「こうして見ると、カッコええやん浅田っち」
さっちんの「〇〇っち」呼びがほのかにうつった。あたしは…うーん、キャラじゃないなーああいう呼び方は。
「スポーツ観戦って何すればいいの?」
さっちんの素朴な疑問だけど…そこから?
「フレー、フレー、言うてればええんよ」
「そっかー」
いやさっちん、それは素直すぎないか。
ほのか、雑すぎないか。
「こほん。あのね、サッカーにはポジションというのがあってね…」
せっかく観戦するんだから、調べてきたんだもん。誰か褒めて。
「あ! 始まるみたい!」
選手の身内とおぼしき観客…三十人くらいが一斉に応援を始め、あたしの声はかき消される。
あれー…ま、いいんだもん。機を待つ。
「え、浅田やばない?! めっちゃドリブル速い!」
フォワードの二人がパスを繰り返しながらゴール前に迫っていく。やば、カッコいいじゃん…。
「あ、あれはね、ワンツーパスって言って…」
「あぁーーーボール取られた…!」
「おっしーぃ!」
「もいっちょ行け行けー!」
浅田が全力で自陣に駆け戻る。うわ、アツい。浅田ってスポーツだとこんな熱量で動けるんだ。自然と応援にも熱が入る。そしてあたしの解説はまたも流された。くすん。
「はああ、ようやくハーフタイム…つかれた…」
「応援って、こんなにハードやったんや…」
「浅田っち、すっごいうまいじゃん!見直したー!」
サッカーの熱に当てられて、あたしたちはすっかり興奮してしまった。
「どお? どお? 見てくれた俺の活躍?」
浅田がわざわざ観客席まで来た。めっちゃ意識してるな。
「見た見たー! やるやん浅田っち!」
「すーごい興奮した! 後半も頑張れー!」
浅田くん、すごく嬉しそうだ。いい笑顔するなあ。ほのかがちょっと気になってたの、少しわかる気がする。
「後半も応援よろしくー!」
「任せときー!」
結局、試合は2-0で負けだった。
浅田は何度もゴール前までボールを運び、シュートやナイスアシストを繰り出したが、キーパーとディフェンダーにことごとく止められてしまった。そこから相手のカウンターに不意を突かれて一点、あとはファールを取られてからのフリーキックでもう一点失った。
「あーー勝てなくて申し訳ないー」
「いや、試合は負けたかもやけど、浅田っちのファイトは相手を圧倒してたで。実質、優勝みたいなもんや」
なんだその理論。
でも、やさしい。ほのかなりの励ましなんだろうな。
「今度はハットトリックをキメるから、また見にきてくれよー」
「ハット…手品?」
「さっちん、ハットトリックって言うのはね、一試合に一人で三点…」
「あーー浅田なんだよ、かわいい子たちと仲良くしてさ」
チームメイトが数人こっちに来た。む。苦手なやつかな…。
「ふふん、ま、俺のテクが光ってたってことよ」
「うるせー負けておいてエラそうにすんなって」
「ははは、わりぃわりぃ。じゃ、この後反省会行ってくるわ」
「たっぷりしごかれておいで〜」
「また来るで〜」
あたしの事前リサーチ…。




