↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/38

3.蜜を装う猛毒

次の日の夕刻、私は約束通り『霞森神社』の鳥居を潜った。

ゆっくりと石段を上りながら、胸の奥で渦巻く冷たい熱に息をのむ。

——復讐だ。

前世の残酷な運命に一矢報いるための、最初で最後の好機。


前世の私と、最愛のあの人を殺した男。そして目の前にいる東雲聖真が「別の存在」であることくらい、頭では理解している。

だが、だから何だというのだ。

私自身を突き刺した激痛と、大切な人を奪われた底なしの絶望。あの地獄のような暗闇の記憶が、今も私の魂を焼き続けている。

罪のない子孫への八つ当たり?筋違い?くだらない。

この煮え滾るような憎しみを抱えたまま、大人しく生きていくなんて絶対に嫌だ。

どのような理由があろうと、私からすべてを奪った人間の血筋を狂わせて何が悪い。


霞森神社の境内には、人の気配が一切なかった。

鳥居をくぐった瞬間に肌を撫でる空気は、息をのむほど清らかで澄み渡っている。

ふと視線を遣ると、古い灯籠の陰や参道の端に、半透明の光の玉のようなものがぽつぽつと漂っていた。


(……無害な幽霊たち、か)


清浄な境内の空気に引き寄せられ、ただ静かに佇んでいるだけなのだろう。

(こんな風に霊が集まってしまうほどの聖域……。あの男、ただのお人好しではないようね)


「花さん! 来てくれたんだね」


本殿の前に差し掛かると、拝殿の奥から着物姿の聖真が爽やかな笑顔で現れた。

整った容姿に夕庵の光が落ち、絵画のように様になっている。その瞳にはどこまでも澄んだ純粋さが宿っていた。


「あ……東雲さん」


……よし、油断させるために一仕事するとしよう。

私はその場でとっさに思考を切り替え、ほんの少し首を傾げ、伏せ目勝ちに彼を見上げた。


「……今日、すごく楽しみにしていました。私……東雲さんに会えると思うと、なんだか緊張してしまって……」

(……言えた。言えたけど……っ、恥ずかしすぎる!! 何言っちゃってんの私!?)


即興で演じたものの、心の中で猛烈な恥辱が吹き荒れ、顔に熱が集まるのを必死で耐える。

対する聖真は一瞬だけ目を丸くし、それから――どこか照れたように、ほんのりと頬を朱に染めた。


「そっか……。俺も、花さんが来てくれるの楽しみにしてたよ。緊張させてゴメンね」


彼は照れくさそうに頭を掻きながら、まっすぐな笑顔を向けてくる。


(……よし、効いてる。 照れてるわ)


心の中で勝ち誇りかけた私だったが、聖真の続く言葉に固まることになる。


「花さんって、すごく感情が素直なんだね。不安な気持ちをちゃんと伝えてくれて嬉しいよ。俺も指導する側として、もっとリラックスしてもらえるように頑張るね」


「……え?」


「さ、中に入ろうか。喉乾いてない? お茶淹れるよ」


屈託のない笑顔で拝殿へ歩き出す彼の背中を追いかけながら、私は呆然とした。

(……待って。もしかしてこの男……私の『あざとさ』に一切気づいてない??)


必死に演じた計算ずくの演技が、彼にとってはただの「可憐で素直な可愛い言動」としてすんなり受け流され、純粋に感動されただけ。

アピールとしては綺麗に空振りしていた。


(な、なによそれ……。恥を忍んでやったのに、私の努力は!?)


即興とはいえ、必死に演じた仕草がただの「素の自分」として見られたことに、猛烈な恥ずかしさと屈辱が込み上げてくる。

気づけば私の方が顔を真っ赤にして、彼の無防備な後ろ姿を睨みつけていた。


(……ふん、いいわ。その無防備な懐に潜り込んで、後悔させてやるんだから……!)


悔しさをプライドで塗りつぶし、私は強気に顎を上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。