21.やさしい檻
「——琉弥っ!!」
自分の悲鳴で、跳ね起きるように目を覚ました。
荒い息が苦しく胸を上下させる。
額には冷や汗がびっしりと滲み、全身が嫌な汗で湿っている。
胸の奥を冷たい刃で貫かれた感覚も、琉弥の身体から体温が消えていった感触も、手のひらに生々しく残っていた。
(あの夢は……ううん、夢じゃない。前世の、私の惨劇の記憶……)
激しい過呼吸に襲われ、胸を押さえて荒く息を吐き出す。
その時、部屋のドアが静かに開いた。
「花さん……!? よかった、目を覚ましたんだね」
急いで駆け寄ってきたのは、聖真だった。
彼が心底心配そうな顔で私の肩へ手を伸ばしてくる。
その瞬間、私の頭の中で前世の記憶と現代が激しく混ざり合った。
白銀の刃を握り締め、涙を浮かべながら私と琉弥を突き刺したあの男。
そして、目の前にいるあの男の血を引く——東雲聖真。
「触らないで……っ!!」
半狂乱になった私は、差し出された聖真の手をバシッと激しく払い飛ばした。
「花さん……?」
「来ないで! 近寄らないで!! あなたたち東雲が……! 私から琉弥を、奪ったくせに……っ!」
正気ではなかった。
前世の惨劇の余韻と激しい絶望に呑み込まれ、パニックの中、私は聖真の胸を衝動的に何度も叩いた。
「来ないで……お願いだから、私を一人にして……っ!」
ポカポカと必死に叩く私の拳には力など入っておらず、ただ怯えた子供が暴れているようなものだった。
聖真の服を掴み、乱暴に押し退けようとしても、彼の身体はビクともしない。
聖真は叩かれるままになりながら、痛みなど微塵も感じていないような、悲しいほど穏やかな瞳で私を見つめていた。
「……怖かったんだね、花さん」
「嫌……離して、触らないで……!」
「ごめんね。辛い夢を見たんだね」
私の乱暴な抵抗を制することなく、聖真は静かに両腕を伸ばすと、震える私の身体をそのまま自分の胸の中へと強く引き寄せた。
「……っ!?」
拒絶しようと身を捩ろうとしたが、包み込むような彼の温もりと、すっぽりと腕の中に収められてしまったことで、身動きが取れなくなる。
「大丈夫……大丈夫だから。俺はここにいるよ、花さん」
聖真の低い声が、胸元から心地よく響いて耳に届く。
彼は私の背中に優しく手を回し、まるで壊れ物をあやすように、ゆっくりと、何度も背中を撫で下ろしてくれた。
トクン、トクン、と聖真の規則正しい温かな鼓動が、私の頬を通じて伝わってくる。
「誰も君を傷つけさせない。俺が絶対に……君を守るから」
その腕の強さは決して逃がさないという執着のようでもあり、同時にどこまでも深く包み込む包容力に満ちていた。
(違う……この人は、あの時の男じゃない……)
自分を殺した仇の子孫。復讐しなければいけない対象の血筋。
それなのに、彼から伝わってくるのは一切の悪意もない、ただ純粋でまっすぐな体温だった。
「……あ、……ぁ……」
頭を覆っていたパニックの霧が、聖真の体温によって少しずつ溶かされていく。
荒かった息が次第に整い、突っぱねていた私の腕から徐々に力が抜けていった。
拒絶しなければいけないのに、この温もりがあまりにも優しくて、逃げ出す気力が湧いてこない。
私は彼の胸に顔を埋めたまま、ぽろぽろと零れ落ちる涙を止めることができなかった。
復讐相手の腕の中で安らぎを感じてしまうという、逃げ場のない絶望と矛盾に苛まれながら——。




