19.瑠璃色の誓い
夢を見ている。
深い、深い闇の底。息が詰まるほどの過去の記憶。
(ここは……)
立ち込める鉄の匂いと、燻る煙の匂いで分かった。
前世——数百年前の、あの惨劇の夜だ。
その夜、私たちはとある人間の村を壊滅させたばかりだった。
その村の人間たちは、人間に害をなさぬ小さく弱い妖かしたちを捕らえ、見世物にしたり、馬車馬のように死ぬまで働かせるという惨酷な暴挙を行っていたのだ。
『我が子を助けてほしい』
泣きついてきた妖かしの訴えに応え、私たちは村へ乗り込んだ。
虐げられていた妖かしたちを解放し、非道な人間たちを成敗するのに時間はかからなかった。
「……ハッ、反吐が出るな。人間どもめ、よくもまあこれだけ痛めつけたもんだ」
千影は低く唸りながら、救い出した小さな妖かしたちの頭を強引に撫でまわしていた。
そして、怪我を負った妖かしたちを親元へ送り返すため、千影が一足先に村を離れることになった。
「花、琉弥。俺はこいつらを送ってくる。残りの始末は任せたぞ」
「気をつけてね、千影」
「ふん、この俺に気をつけろだと? ぬるいことを言うな、花」
不機嫌そうに鼻を鳴らしながらも、千影は子供たちと夜の闇へと消えていった。
残された私と琉弥は、村に残された妖怪を縛る呪具の破壊と、後始末を進めていた。
静まり返った村の外れ。燃える松明の火が、ゆらゆらと周囲を赤く染めている。
「……花、疲れただろう。あちらで少し休むといい」
穏やかな声に振り返ると、そこには美しい銀髪を月光に濡らした琉弥が立っていた。
その瑠璃色の瞳は、いつだって冷徹な彼の性格とは裏腹に、私に向けられる時だけはどこまでも優しく、暖かかった。
「ううん、大丈夫。……ねえ琉弥、人間はみんな、あんな風に身勝手で残忍なのかしら」
ぽつりと漏らした私の言葉に、琉弥は少しだけ哀しそうな目をし、私の白髪を細い指先で優しく掬い上げた。
「……誰もがそうではない。だが、人は己と違うものを恐れ、時に残酷になれる生き物だ。……だからこそ、俺たちは寄り添って生きねばならん」
琉弥の温かい指先が頬に触れ、胸の奥がじんわりと温かくなる。
「この後始末が終わったら、誰も来ない静かな山へ行こう。お前と、千影と……三人で穏やかに暮らせる場所へ」
「……うん、琉弥」
ふわりと微笑んだ琉弥の顔を、私は幸せな気持ちで見つめていた。
この後に訪れる、悪夢のような悲劇を知る術もなく——。




