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第5節 ― 体育館の本人確認

 母の顔をした人が、廊下の奥に立っていた。


 朝倉かなえ。


 ミユにとって、それは世界でいちばん見慣れた顔のはずだった。


 寝不足の朝に、容赦なくカーテンを開ける顔。

 夕飯の味見をしながら、「ちょっと薄い?」と首を傾げる顔。

 ミユが変な言い訳をした時、すぐに見抜いてくる顔。

 怒っている時ほど、声が低くなる顔。


 その顔が、いま、夕陽の届かない廊下の影に立っている。


 けれど、ミユは走り寄れなかった。


 足が、床に縫い止められたみたいに動かない。


「ママ……?」


 呼んだ声が、自分でも頼りなく聞こえた。


 かなえは、ミユを見ていた。


 困ったような、心配しているような、けれど少しだけ距離を測っているような目。


 それが本物の母の目なのか、偽物が作った目なのか、ミユにはわからなかった。


 隣で、偽ミユが静かに笑う。


 ミユの顔で。

 ミユより落ち着いた顔で。


「ねえ、ミユ」


 偽ミユは、今度はかなえの声で言った。


「ママは、どっちを信じればいいの?」


 廊下にいた生徒たちが息を呑む。


 本物のミユ。

 偽ミユ。

 かなえ。


 その三つの視線が交差するだけで、廊下全体の空気が息苦しくなった。


 ミユは右手の袖口を握った。


 布の下で、μブレスレットが硬い感触を返す。


 変身すれば、今すぐ偽ミユを殴れる。

 カメ・レオンのところへ行ける。

 母を助けられるかもしれない。


 けれど、目の前には生徒がいる。

 母かもしれない人がいる。

 自分の顔をした偽物もいる。


 ここで光を放てば、もう隠せない。


 朝倉ミユが科学少女プリティミューだと、誰かに見られる。


 いや、もしかしたらもう見られているのかもしれない。


 カメ・レオンは、その迷いを見たいのだ。


 ミユは歯を食いしばった。


「……ほんと、趣味悪すぎ」


 その時、校内放送が鳴った。


 ざざ、とノイズ。


 そして、獅堂レオンの穏やかな声。


《全校生徒ならびに教職員の皆さんへ。安全確認のため、体育館へ移動してください》


 ミユは顔を上げた。


《校内に偽装犯が侵入しています。本人確認は、体育館で一括して行います。繰り返します。安全確認のため、体育館へ移動してください》


 廊下の奥にいたかなえが、ゆっくりと視線を外した。


 まるで、放送に従うように。


 偽ミユがにこりと笑う。


「行こう、ミユ。本人確認だって」


「その顔で言うな」


「本物なら、怖くないよね?」


 ミユは答えなかった。


 答えれば、また何かを取られる気がした。


 偽ミユは、くすりと笑って、かなえの後を追うように歩き出す。周囲の生徒たちも、不安げに顔を見合わせながら体育館の方へ動き始めた。


 メグが、ミユの袖を軽く引いた。


「先輩。今は追いましょう」


「……うん」


「お母さまが本物かどうかは、まだ判断できません」


「そんな冷静に言わないでよ」


 ミユは、思わず低く返した。


 メグは少しだけ口をつぐんだ。


 けれど、すぐに言う。


「冷静でいないと、先輩が動けなくなります」


 それは、優しい言葉ではなかった。


 でも、必要な言葉だった。


 ミユは一度だけ目を閉じた。


 心臓が痛い。

 喉が苦しい。

 足が震える。


 でも、止まっている場合ではない。


「メグちゃん」


「はい」


「私、今かなり判断力落ちてると思う」


「はい。見ればわかります」


「もうちょっと言い方!」


「だから、私が見ます。先輩は、動いてください」


 ミユは、メグを見た。


 小柄な後輩は、眼鏡の奥でまっすぐにこちらを見ていた。怖がっている。指先も震えている。それでも、端末を握る手は離していない。


 ミユは、息を吐く。


「……頼む」


「はい」


 二人は、生徒たちの流れから少し距離を取りながら体育館へ向かった。


 廊下の空気は、さっきよりさらにおかしくなっていた。


 同じ制服の生徒が二人ずついる。

 同じ教師が、別々の場所で違う指示を出している。

 見慣れた友人の声が、少し離れた別の場所からも聞こえる。


 誰かが泣いていた。


 誰かが怒っていた。


 誰かが、何度も同じ質問を繰り返していた。


「昨日、私たち何話した?」


「合言葉って何?」


「先生、本物ですよね?」


「本物って、どうやってわかるの?」


 その問いは、廊下全体に染み込んでいた。


 本物って、どうやってわかるのか。


 顔でも、声でも、仕草でも、記録でも、全部真似されるなら。


 自分が自分であることを、どう証明すればいいのか。


 ミユは、前を歩く偽ミユの背中を見た。


 背筋が伸びている。

 歩幅が安定している。

 クラスメイトに声をかけるタイミングも上手い。


 その背中を見るたび、胸の奥がじくじく痛む。


 あれが、自分より朝倉ミユらしく見えてしまう。


 それが、一番きつかった。


 体育館の前に着くと、扉はすでに開け放たれていた。


 中から、ざわめきが漏れている。


 体育館の照明は半分だけ点いていた。放課後の薄暗さの中、天井の鉄骨が黒く沈み、バスケットゴールの影が床に長く伸びている。


 生徒たちと教師たちは、学年ごとに集められていた。


 表向きは、避難待機。


 しかし、入り口付近や壁際には、見慣れない教師や用務員の姿が点々と立っている。よく見れば、その姿勢が硬い。人間らしい落ち着きがない。


 偽装した戦闘員だ。


 体育館は、すでに避難場所ではなかった。


 人質を管理するための場所になっていた。


 ミユとメグは、正面から入らず、体育館裏口側へ回った。古い体育用具倉庫の脇、暗幕の陰から中を覗く。


 ステージの上に、獅堂レオンが立っていた。


 白いシャツにベスト。

 細身のジャケット。

 柔らかな笑顔。


 その姿だけ見れば、まだ臨時教師に見える。


 けれど、ミユにはもうわかっていた。


 あれは、教師ではない。


 カメ・レオンだ。


 その横に、かなえが立っている。


 ミユの心臓が、強く跳ねた。


「ママ……」


 思わず一歩踏み出しかける。


 メグが、すぐに腕を掴んだ。


「先輩」


「わかってる。でも……」


 かなえは、ステージ上で不安そうに周囲を見ていた。手にはスマホを持っている。顔色は悪い。口元に力が入っている。


 本物に見える。


 いや、本物であってほしい。


 そう思った瞬間、判断が鈍る。


 ミユは唇を噛んだ。


「ママ……本物?」


「まだ判断できません」


「そんな冷静に言わないでよ」


「冷静でいないと、先輩が動けなくなります」


「さっきも聞いた……」


「何度でも言います」


 メグは、端末を構えたままステージを見つめている。


「かなえさんの歩き方、表情、手の位置。朝の違和感よりは自然です。ただ、偽装フィールドの影響で映像解析が安定しません」


「つまり?」


「本物の可能性があります。偽物の可能性もあります」


「一番しんどい答え!」


 ステージ上では、偽ミユがかなえの少し後ろに立っていた。


 制服はきれいなまま。

 顔は穏やか。

 母の隣に立っても、違和感がない。


 その光景に、ミユの胸がさらに痛んだ。


 自分の母の隣に、自分よりちゃんとした自分がいる。


 その事実だけで、息が詰まる。


 レオンがマイクを手に取った。


 スピーカーから、柔らかな声が体育館全体に広がる。


「皆さん、落ち着いてください。現在、校内では危険な偽装犯が確認されています」


 生徒たちのざわめきが少し小さくなる。


「先生方の誘導に従って体育館へ集まっていただいたのは、皆さんの安全を守るためです。ここで、本人確認を行います」


 本人確認。


 その言葉に、生徒たちが顔を見合わせる。


 レオンは、やさしく微笑んだ。


「そして、ここに危険人物がいます」


 ミユの背筋が冷たくなる。


「プリティミューに関わり、怪人事件を呼び寄せる人物です」


 体育館の大型スクリーンが点灯した。


 映像が映る。


 ミユだった。


 駅前広場にいるミユ。

 ネオ・アキバタウン近くを走るミユ。

 廃劇場付近の防犯カメラに映ったミユ。

 《ルージュ・ピッチャー》の近くでメグと話すミユ。

 アイン科学研究所付近の裏道に入っていくミユ。


 そして、それぞれの映像の横に、プリティミューの出現記録が並べられる。


 時間。

 場所。

 怪人名。

 被害状況。


 映像自体は、嘘ではない。


 ミユは確かにその場にいた。


 でも、前後がない。

 理由がない。

 助けた人のことも、走った理由も、怖かったことも、何も映っていない。


 ただ、怪人事件の近くにミユがいたという事実だけが、冷たく並べられている。


 ミユは、奥歯を噛んだ。


「今度は切り抜きと偽装の合わせ技かよ……!」


 声が震えた。


 マンティスシザーの時に見た悪夢が、別の形で戻ってきている。


 切り抜かれた言葉。

 今度は、切り抜かれた存在。


 自分という人間が、都合のいい形に編集されていく。


 レオンは続ける。


「彼女は、怪人事件のたびに現場付近にいました。そして、プリティミューの出現地点とも一致しています」


 ざわめきが大きくなる。


「朝倉さんって……」


「嘘でしょ」


「でも、映像あるじゃん」


「プリティミューに関わってるって、そういうこと?」


「怪人を呼んでるの?」


 ミユは拳を握った。


 違う。


 そう言いたい。


 自分が怪人を呼んでいるわけじゃない。

 むしろ、止めようとしている。

 助けようとしている。


 でも、声が出ない。


 自分でも、思ってしまったことがあるからだ。


 自分がいるから、怪人が来るんじゃないか。


 自分がプリティミューになったせいで、メグも、母も、学校も巻き込まれているんじゃないか。


 胸の内側で、冷たい声がする。


 偽ミユが、マイクを受け取った。


 彼女は少し震える演技をしながら、生徒たちへ向き直る。


「私、怖い」


 その声は、ミユの声だった。


 けれど、本物のミユよりずっと上手に、怯えているように聞こえた。


「あの子がいると、また怪人が来る」


 体育館の空気が揺れた。


 何人かの生徒が、本能的に周囲を見回す。


 ミユは、喉の奥が詰まった。


 その言葉は、痛かった。


 なぜなら、自分でも一度はそう思ったからだ。


 自分がいなければ、みんな普通の放課後を過ごせたのではないか。


 自分がいなければ、メグは危険な事件ログを追わなくて済んだのではないか。


 自分がいなければ、母は怪人に狙われなかったのではないか。


 メグが、隣で小さく言った。


「先輩」


「……わかってる」


 本当は、わかっていなかった。


 でも、ここで崩れたら終わる。


 レオンは、そんなミユの心を見透かすように、ステージ中央へ進んだ。


「さて」


 その声が変わる。


 教師の柔らかさが薄れ、舌の奥で笑うような音が混ざる。


「本人確認をしましょう」


 レオンの皮膚がざわりと揺れた。


 顔の輪郭が波打ち、両目が左右別々に動く。首元から、緑と紫の鱗模様が浮かび上がった。


 生徒たちが悲鳴を上げる。


 ステージ上の獅堂レオンは、もう教師の姿を保っていなかった。


 長い舌。

 色を変える皮膚。

 ライオンのたてがみのような襟飾り。

 ホログラムのように揺らめく偽装フィルム。


 ジョーカー偽装工作怪人、カメ・レオン。


「ここにいる二人の朝倉ミユ」


 カメ・レオンは、大きく腕を広げた。


「どちらが本物でしょうか」


 体育館の視線が、一斉に動いた。


 ステージ上の偽ミユ。

 そして、暗幕の陰にいる本物のミユ。


 見つかった。


 ミユは反射的に後退しかける。


 だが、体育館全体がざわりと揺れた。


 空気そのものが、薄い膜をまとったようになる。照明の色が少しずれ、床の線が歪んで見える。人の輪郭がぼやけ、視線がうまく定まらない。


 偽装フィールド。


 ミユは息を呑んだ。


 生徒たちの目には、きっと本物の自分がもっと怪しく見えている。粉まみれで、息を切らして、暗幕の陰から現れた不審者として。


 逆に、ステージ上の偽ミユは、きれいに整った朝倉ミユとして見えているはずだ。


 メグはすぐに端末を開いた。


「偽装フィールド、体育館全体に展開されています。視認情報と音声印象が補正されています」


「補正って!」


「生徒たちには、偽ミユが自然に見えている可能性が高いです」


「ほんと最悪!」


 メグは指を走らせる。


「フィールドの発生源は、ステージ周辺。カメ・レオン本体と、大型スクリーンの映像装置が連動しています。あと、前回の切り抜き技術の残滓が使われています」


「怪人の技、再利用しないでほしい!」


「解析します」


 メグの眼鏡に、スクリーンの光が反射した。


 その横顔は真剣だった。


 怖がっている余裕もないほど、集中している。


 しかし、カメ・レオンはメグを見ていた。


「記録する子は厄介ですね」


 カメ・レオンの舌が伸びた。


 ミユが気づいた時には、もう遅かった。


 長い舌が、空気を裂くように体育館を横切る。


「メグちゃん!」


 ミユは手を伸ばした。


 だが、舌の先端がメグのスマホを弾き飛ばす。


 端末が宙を舞い、床に叩きつけられた。


 画面に亀裂が走る。


「あっ……!」


 メグの声が漏れる。


 次の瞬間、舌が彼女の腕に絡みついた。


 ぬめるような動き。

 だが、力は強い。


 メグの身体が床から浮く。


「メグちゃん!」


「先輩、来ちゃ――」


 言い終える前に、メグはステージ上へ引き上げられた。


 生徒たちが悲鳴を上げる。


 カメ・レオンは、メグを横に吊るすように捕らえながら、にこやかに言った。


「本人確認には、観察者も必要ですから」


「放せ!」


 ミユは叫んだ。


 カメ・レオンは、楽しそうに首を傾げる。


「変身なさらないのですか?」


 その言葉に、体育館の空気が凍った。


 ミユは息を呑む。


 ステージ上にはメグ。

 その近くには、かなえの姿をした人物。

 体育館には生徒と教師。

 偽装した戦闘員も混じっている。


 全員が見ている。


 ここで変身すれば、すべてが終わるかもしれない。


 朝倉ミユとしての日常。

 母との生活。

 学校での居場所。


 隠していたものが、全部こぼれる。


 ミユの足が、動かなかった。


 ポケットの中で、通信が震える。


 ワトソンの声が、耳元の小型通信機から入った。


《ミユさん、偽装フィールド濃度上昇。メグさんの生体反応が乱れています》


「わかってる……」


 声がかすれる。


《舌表面から偽装ナノ膜反応。長時間接触すると、声紋および皮膚情報を読み取られる可能性があります》


「やめてよ、そういう怖い情報……」


《ですが、このままでは、メグさんが危険です》


 ミユは、ステージを見た。


 メグは腕を捕らえられ、痛みに顔を歪めている。それでも、落ちたスマホの方へ視線を向けていた。まだ、何かできないか探している。


 あの子は、逃げろと言った。


 でも、自分は逃げられない。


 逃げたら、たぶん二度と眠れない。


 蝙蝠伯爵の時もそうだった。

 メグが連れ去られそうになって、ミユは変身を選んだ。


 あの時と同じだ。


 いや、もっと悪い。


 今回は、学校中が見ている。


 母かもしれない人も見ている。


 それでも。


「ほんと、毎回こういう選択肢ばっかり」


 ミユは、低く言った。


 震えていた足に、力を入れる。


 正体がバレるのは怖い。

 普通の生活が壊れるのは怖い。

 母に知られるのは怖い。


 でも、メグが目の前で傷つくのを見ているだけの自分には、なりたくない。


 偽ミユが、ステージ上から声を上げた。


「逃げるの?」


 その声は、体育館全体に響いた。


 ミユは、振り返らずに叫んだ。


「違う!」


 そして走った。


 体育館倉庫の影へ。


 床を蹴る。

 転びそうになる。

 それでも走る。


 倉庫の扉を肩で押し開け、マットや跳び箱の影に飛び込む。


 完全には隠れられない。


 扉の隙間から、体育館の照明が差し込んでいる。誰かが見ているかもしれない。いや、きっと見ている。


 それでも、もう止まれなかった。


 ミユは右手を上げた。


 μブレスレットが、白とピンクの光を灯す。


 心臓が痛い。


 怖い。


 でも、言う。


「サイエンスパワー・メイクアップ!」


 光があふれた。


 体育館倉庫の影から、白とピンクの光が漏れる。


 生徒たちのざわめきが遠くなる。


 制服が分解されるように光へほどけ、科学少女の装甲が身体に走る。ブーツが床を踏みしめ、グローブが指先を包み、胸元のコアが輝く。


 μブレスレットから展開された光が、ミユの髪をふわりと持ち上げる。


 怖さは消えない。


 不安も消えない。


 でも、足は前へ出る。


 科学少女プリティミューが、体育館倉庫の影から飛び出した。


 生徒たちが叫んだ。


「プリティミュー!」


「本物!?」


「え、どこから!?」


「朝倉さんは!?」


 その声が、ミユの背中に突き刺さる。


 でも、今は振り返らない。


 プリティミューは床を蹴り、ステージへ向かって跳んだ。


「メグちゃんを放せ!」


 カメ・レオンは、待っていたと言わんばかりに笑った。


「なるほど」


 彼の舌がメグを捕らえたまま、ゆっくりと揺れる。


「正体秘匿より、友人救出を選ぶ。これでまた、一つ確認できました」


「観察日記みたいに言うな!」


 プリティミューはミュー・ハンマーを呼び出した。


 ピンクと白の光が集まり、いつもの妙にかわいいハンマーが手の中に現れる。


 その姿に、体育館の誰かが小さく言った。


「ほんとにピコピコハンマーだ……」


「そこ注目しないで!」


 叫んだ瞬間、少しだけいつもの調子が戻った。


 でも、カメ・レオンはさらに笑みを深くする。


「では、次の本人確認です」


「まだやるの!?」


「もちろん。本人確認とは、一度で終わるものではありません」


 カメ・レオンが指を鳴らした。


 ステージ上の偽ミユが、ゆっくりと前へ出る。


 その身体の表面を、虹色の偽装フィルムが走った。


 制服の輪郭がほどける。

 髪が光を帯びる。

 ブレスレットに似た偽装パーツが腕に浮かぶ。

 白とピンクの装甲が、偽物の身体を包んでいく。


 生徒たちの悲鳴が上がった。


 もう一人のプリティミューが、そこに立っていた。


 姿は同じ。


 色も同じ。


 ハンマーまで同じ形をしている。


 けれど、その立ち方は違った。


 背筋が伸びている。

 足の位置が美しい。

 ハンマーを構える角度に無駄がない。

 いかにも正義の味方らしい、完璧な立ち姿。


 プリティミューは、思わず息を呑んだ。


 自分より、ヒーローらしい。


 その事実が、また胸を刺す。


 偽プリティミューは、にっこり笑った。


「こんにちは、プリティミュー」


 声まで同じだった。


 でも、やっぱり、少し違う。


 そこには、怖さがなかった。

 照れもなかった。

 文句を言いながら踏み出す、あのぐちゃぐちゃした感じがなかった。


 カメ・レオンが、ステージ中央で両腕を広げる。


「さあ、皆さん」


 その声が、体育館中に響いた。


「本物の科学少女は、どちらでしょうか」


 本物のプリティミューと、偽物のプリティミュー。


 二人の科学少女が、体育館のステージで向かい合った。

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