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25「大勝利!」

 女王への反乱は意外な形で逆転しはじめていた。すべては王と名乗るドラゴンのような鳥のような何者か、オウロソ。彼の強化魔法を受けた戦士たちは、強化を受けたナイトメア・ドラグーンたちを圧倒していた。


「すげえや、すげえや! 体がまるで羽みたいに軽いぞ! こんな重いモーニングスターだって片手でぶん回せる!」


 ユナンは片手でモーニングスターを振り回し、怪力にも磨きがかかり、重い一撃を何度もぶつける。そのうえ、素手でぶん殴っても同じような結果が得られる。そして、上空には風をも上回る素早さで飛び回り矢を放つクーホとイグルがいる。


「まるで風になったかのような気持ちだ!」


「とんでもないバフだな!」


 魚人族や虫人族もまた力があふれて止まらず優位に立つ。その様子を見てオウロソはニヤニヤと笑う。


「フフフ、王がために臣下が動く。その臣下のために王が力を与える。素晴らしい光景ではないか!」


「あ、あのオウロソさん……なぜ私たちに力を……」


「言ったであろうセラ女王陛下。我が力を貸すのは我が主が貴殿らの勝利を望んでいるが故だ。今は我の中で眠っているが、この戦が終わる頃に主は目を覚ますだろう」


 胸に手を当て、さするオウロソ。だが、その中では洋介が苦しんでいた。以前見た精神の空間で、スタロト、バフォーメ、シェイドに四肢を押さえつけられていた。


「お前ら、なんでこんなことするんだ……! オウロソが出るために俺を押さえつけて……!」


「この状況を変えられるのは、オウロソのクソ能力以外になかった。だがお前はオウロソを出すのはやめろとか言い出すからだ」


 スタロトが呆れたようにライフルを肩に担ぎながら洋介の右手を踏み、そう吐き捨てた。


「フゥ~フッフッフ……オウロソのバフはまさしく王のバフ! どんな人間にもどんな輩にも等しく限界近くまで強化を与える……!」


 バフォーメが妖しく笑いながら、洋介の両足を押さえつける。


「ほかにもこの状況をなんとかできる奴はいるが、ソイツらは一人でなんとかしてしまうからな。女王や国の権威を貶めるわけにはいくまい」


 シェイドが静かに理詰めで洋介の言葉を遮った。三人が口々にそういう中、洋介だけが危機感を抱いていた。


「わかってない、わかってない! アイツは強力なバフを与えられる代わりに、自分にはかけられないんだ。それに……オウロソには一番の欠点があるんだぞ!? それに……中だと……苦しい……」


 焦る洋介に対し、どうしてそうなのかわからない三人。


 そして、外。ナイトメア・ドラグーンと化した貴族たちと戦う亜人たち。だが、凶暴化したナイトメア・ドラグーンもまた抵抗し、城の一部が崩れ、その破片が落ちて……オウロソの頭にぶつかった。その瞬間、オウロソは押し黙る。


「ど、どうした?」


 スティングが問いかけると、オウロソの金色の瞳に大粒の涙がみるみると浮かび上がり――。


「うぅ~……痛いよぉぉぉぉ! わあああんっ!」


 まるで子供のように大泣きし、その巨体を地面に投げ出してじたばたするオウロソ。その瞬間……。


「な、なんだっ……急に、体が……!」


 チシャの動きが急に鈍くなる。重くなったのではない、オウロソがかけていたバフが解けてしまったのだ。ほかの戦っている騎士団や亜人たちも、動きや攻撃が弱まってしまう。セラはオウロソを心配する。


「ど、どうなされたのですかオウロソさん……」


「痛いぃぃぃ……瓦礫の破片が頭にぃぃぃ……痛いのは嫌いだぁぁ……!」


「は、はあ……? なぜそんなことで……」


「だから……コイツは『絶対的な王として周囲に過保護に甘やかされて育った』っていう設定の奴だから……ちょっと小突かれただけでもピーピー泣いちゃうんだよ……」


 すると、オウロソの胸の部分がぐにゅぐにゅと不自然に歪み、メリメリと肉を突き破るような音を立てて洋介の顔が飛び出してきた。


「ぶはっ。や、やっと出られた……」


「よ、洋介さん!? なぜそんなところに……」


「はっ、はっ……コイツは俺が生み出した奴なんです……中に埋まっているとガワが自立しちゃうんですけど、こうして俺が顔を出せば……」


「びええええんっ!」


 だが、オウロソは止まらない。まるで幼児のように泣きわめき、手足をばたつかせ、どうにもならない。その間に、バフが解かれた王国軍と貴族との形勢は逆転し始めていた。


「く、クソ……! さっきまでのとの落差がありすぎて……動きが……!」


 先ほどまでオウロソが与えていた強化が強力すぎて、いきなり解除されたことにより体がついていかないのだ。それにより、凶暴化したナイトメア・ドラグーンたちに押され始めていた。


 そして当のオウロソ本人は、主である洋介が体から顔を出しているにも関わらず、幼子のように泣いておりまるで使い物にならない。


「びええええんっ!」


「オウロソ、落ち着け! 今この状況でお前がそんなんじゃ……」


「どうしたものか……」


 スティングやエレナ、カインもこの状況に呆れると、凛とした声が聞こえた。


「落ち着きなさい、王よ」


「……!」


 声の主はセラだった。傷ついていながらも立ち上がり、動きを止めたオウロソに語り掛ける。


「オウロソよ。あなたの王としての威厳や矜持は、その程度なのですか?」


「ぐすっ、ぐすっ……威厳……? 矜持……?」


「恵み、与えるだけが王なのですか? 違うでしょう。王とはもっと、強くたくましいものなのです」


「強く、たくましく……」


「王とは君臨するものなのです。人々の上に立つ者として、そんなみっともない姿を晒して人々がついてくるわけがありません。もっと威厳を持って……! 堂々と胸を張り、人々に宣言するもの! さあ、立ち上がり、見せつけるのです! あなたが王だということを……!」


 セラの激励。その言葉に気を良くしたのか、背筋をピンと伸ばし、また悠々と座る。


「フ、フフ……同じ王として……お前もまた威厳にあふれた者なのだろう……よ、よかろう! お前に……王としての最大級の力を与えよう! 『王の寵愛ロイヤル・アフェクション』!」


 セラに指先を向け放たれた、虹色の光。その光を受けたセラは、負っていた致命傷の数々が一瞬で光の中に消え去り、背中からオーラを放つほどの力があふれていた。


「この、力は……!」


「さあ行け、王としての力を見せつけてやれ」


「ええ、感謝します」


 背中の三対の翼を羽ばたかせ、杖を握り戦場へと飛び立っていく。戦場ではバフが切れて苦戦している騎士団たちや亜人。そこへ、セラ女王が高らかに叫ぶ。


「皆の者! ここまでよく戦ってくれた! この戦いは……私が終わらせる!」


 その言葉に、大丈夫なのかと心配する人々。だが、セラは杖を振り、高く掲げ振り回す。そして、天高く杖を突きあげると、そこから光の矢が大量に放たれ、凶暴化したナイトメア・ドラグーンの集団へと降り注いだ! 


「グギャアアアアアッ!」


 光の矢が仮面を砕き、黒竜たちは浄化されていく。その光景を見て、人々は感動し歓声をあげた。一時はどうなるかと思われたこの反乱、最終的には女王によって片づけられた。改めて、女王の偉大さと強さを思い知らせた瞬間だった。


 そして、倒された悪徳貴族たちはというと……。


「ア゛ア゛ア゛……」


 仮面を割られ、変身が解かれた悪徳貴族たちは、体がメキメキ、ミシミシと音を立てて元の人間へと戻っていく……はずだったが、魔王による強化の影響か、それとも何度も変身した影響なのか、肉体が中途半端に龍だったり崩れたりしてマトモな人間の体には戻らなかった。特にランドの体はひどく、体は殆ど液状気味だった。


「こ、これはァ……」


「ランド、お前たちのその体は自業自得。先程高らかに死刑を宣告しましたが……その体では逆に生きる方が辛いでしょう。騎士団に命じます、この不届き者たちを地下牢に閉じ込めておきなさい!」


 その言葉を受けて、逆に絶望し叫ぶ反乱を起こした悪徳貴族たち。もはや抵抗する力もなく、騎士団たちに連れていかれるのであった。


 そして、女王が反乱を収めたことに歓喜の声をあげる臣民たち。


「セラ女王様、万歳!」


「やはりタイクーン王国の女王はセラ様でなくては!」


 そんな言葉が口々に聞こえ、セラは自分の子供であるエレナとカインの所へ降りた。


「お母さん、やったね! お母さんの勝ちだよ!」


「でも、お城だいぶ壊れちゃったねえ……」


「良いのよ、反乱を止めることができたし。それに……国とは人であり、城や建物ではないわ。私がみんなを支えているように、私もまた国の人々に支えられている……だからこうして力を振るうのです。城なんてまた作り直すから……ね?」


 二人を抱きしめるセラ。それを見ていたオウロソと洋介は。


「うむうむ……これが王であり、国なのだなあ……」


「お前は与えるばかりで、その見返りでよくしてもらってるだけだろうが」


 感動し涙を流すオウロソに、胸の部分から突っ込む洋介。しかし、洋介には疑問点があった。前はスライムで作り出したキャラから顔を出していればキャラを制御できていた。しかし、今は顔を出しているのに、オウロソは好き勝手動いている。これはどういうことなのか? と疑問が沸き立っていた。


「我の役目は終わったな。では、戻る」


 すると、オウロソは形が崩れて元の黒い光沢のあるスライムへと戻ってしまった。ほとんど全裸の状態で洋介はスライムをすくい、じっと見つめる。


「彼らは……一体なんなんだ?」


 崩れかけた城を背に、セラへの歓喜の声が沸き起こっている中、洋介は疑問を深めていった。





 城が反乱によって半壊したため、式典は中止となった。せっかく来てくれた他国の使者やタイクーン王国の亜人、そしてちゃんとした貴族に申し訳ないと頭を下げたセラ。今回のことはしょうがないと理解され、城の修理も請け負ってくれる人間もいた。城が直るまでの間、セラとその子供二人は城を離れ、首都テラリアで一番の宿へ泊まることとなり、政務もそこで行うことになった。


 そして、誰もが寝静まる深夜。宿に泊まっていたセラは、カインとエレナが二人でぐっすり眠っているのを確認した。そして、起こさないようにそっと着替えた。そして、ぐっすり眠っている二人をのぞき込む。


「頼むから、途中で起きて私がいないことに気づかないでね。私、大事な用事があるから……」


 そうささやき、荷物を持って宿を出た。ローブを身に纏い、ぱっと見ではセラとは気づかない恰好で、反乱を受けて夜警に出ている騎士団を縫うようにテラリアの町を歩いていく。


 そして、広場にたどり着いた。見回りをしている騎士団がいないことをセラが確認すると、奥から四人出てきた。傷だらけで瘦せてはいるが、その体には筋肉がついた男、眼鏡をかけた穏やかそうな男。そして、ユーとエミリーの二人。


「久々だね、セラ。あれほどわがままで奔放だった君が……今やタイクーン王国を盤石にした女王様とは」


「い、いやよ勇者様。それは最初の頃だけで、私はあなた様との旅で変わったのを見ていたでしょう。それに、あの反乱を止めるのは結構大変だったのよ。なんで来てくれなかったの?」


「そりゃあ、君の国だからね。女王である君が止めるのは、至極当然だろう。それに、俺たちはもういないことになっているからね」


「まあ、立ち話でもなんだから、どっか人人目のない場所でお話でもしようや女王様。お前が好きだった菓子持ってきたんだぞ」


「戦士のあなたまでそんなこと言わないで……それ、私がわがままだった頃に好きだったものじゃない」


「じゃあ久しぶりの再会と、女王様の即位三十年を祝って……あの丘にでも行きましょうか」


「賢者様まで、女王としての私を見ないで。今はただのセラ……勇者一行のセラとして扱って……昔のエミリーみたいに」


 エミリーはニコッと笑う。そして、夜警をしている騎士団に見つからないように、五人は深夜の町を歩くのだった。


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