24「オウロソ」
「そんな……女王セラ様が……!?」
「なぜ、こんなことが……!」
女王セラがアクシデントによって倒されてしまったことを、受け入れられない亜人たちや騎士団たち。女王セラは長い髪の毛を乱暴に掴まれ、高く掲げられまるで墓標のようになっている。そして、女王の子供であるカインとエレナもまた握られ人質となってしまっている。
「この国の女王は失墜した! これからは我々がこの国の最高権力者だ! お前たち、ひれ伏せ! 新たなる王の誕生だ!」
威厳を示すかのように黒竜の姿で咆哮するランドたち。だが、そんなことでひれ伏す亜人たちや騎士団たちではない。むしろ余計に反抗心を高め、武器を掲げる。
「お前たちなんかに誰が従うものか!」
「この薄汚い悪徳貴族どもめ! 我々は断固戦うぞ!」
チシャをはじめとした人間たちが、ランドの方へと向かっていこうとする。だが……。
「まだわからんか! 女王は我々の手中にあるのだぞ! つまり、生かすも殺すも今や我々の自由だということだ」
セラを持つ手を持ち替え、体を握るようにする。そして力を入れ、握りつぶそうとする。セラの苦しむ声が聞こえる……。
「ぐっ、ああっ……!」
「女王様!」
「このまま握りつぶし、女王を亡き者にしてくれよう!」
「ああ、セラ様!」
亜人たちは女王を助けるべく動き出す。だが、セラはこれくらいで動じるタマではない。
「落ち着きなさい!」
セラが苦しそうな顔をするも力を振り絞り、自身を掴んでいるランドの手を外させる。そして、エレナとカインを握っている手も解かせ、二人を離させ……二人を抱きかかえる。
「ぐっ……」
だが、子供二人を抱きかかえたまま、落ちていく。自慢の翼を動かす力もないまま自由落下で落ちる。
「女王様ァッ」
亜人たちや騎士たちがこぞって女王たちを受け止めようとする。そして、一番に受け止めたのは虫人族のスティングだった。まるで忍者のような動きで子供二人を抱えるセラを受け止めた。
「女王様、大丈夫か」
「私は、大丈夫です……ふ、二人を、エレナとカインを、安全な所へ……! 私は、戦います……!」
杖を突いて立ち向かおうとするセラだったが、先程の攻撃を受けたことで、その足はふらついており、立っているのもやっとという状態だった。エレナとカインも、母を止める。
「ダメだよお母さん! そんな体じゃ……!」
「僕らを守るためにお母さんが、ボロボロに……!」
スティングは女王を建物の影に寝かせ、自分が隣につく。そして、戦っている者たちに大声で叫ぶ。
「女王は無事! ここで俺が守る! お前たちは戦いに集中しろ!」
「わかったよスティング!」
チシャやユナンがスティングの言葉を受けてナイトメアドラグーンと化した貴族共へと向かっていく。スティングはセラに向き直るが、セラはどう見ても重症だった。
そして、戦うユナンたち。戦いはユナンたちが優勢で、仮面を割られて元の人間に戻ってしまった者たちが大半だった。
「ええい、この役立たずどもめ!」
「我ら、女王たちのため戦う一人一人! てめえら烏合の衆に負けたりなんかしねえよ!」
「あとはお前たちだけだ! もうお前らはおしまいだ!」
騎士団、亜人たちがそろって城の上に立つランドたちを見上げる。どれだけ強い力を持っていても、女王が手塩にかけた騎士団たち、そして戦う術を沢山持つ亜人達にとっては、女王が見せた弱点を突くことなど容易い。もはや反乱は押さえつけられる寸前だった。ランドもまた、この状況に焦っている。
「は、反乱さえも……」
「おいランド! 女王を八つ裂きにできるとか言ってなかったか!?」
「も、元から無理があったんだ! そもそも女王にあんな重症を負わせられたのも偶然があったからで……」
「もはや処刑一歩手前の状態だぞ!」
そうドラゴンの姿でぎゃあぎゃあわめきたてる悪徳貴族たちを見て、もはやこの反乱も治まるだろうと思っていた。
だが、その瞬間空が曇り、黒い稲妻が落ちた。その一瞬の出来事に、驚く一同。敵さえも驚くその光景に、セラは見覚えがあった。
「この、黒い稲妻……! そして、この気配……! そんなはずは!」
「どうした、女王様。何が起こっているんだ」
そして、黒い稲妻が落ちる雲に、靄のような黒い何かが浮かび上がった。それに、セラは見覚えがあった。
「ま、魔王……!? そんな、奴は勇者様たちが倒したはずなのに……! こ、これはいけない……!」
セラは立ち上がろうとする。だが上手く立てない。そして驚きと威圧感によって動けない両者、そして靄こと魔王はランドたちに語り掛ける。
「ランドよ、お前に力を与えたというのに、このざまはなんだ? 女王を倒すのではなかったのか? この我、魔王の力によって」
「なんだと!? ランド、お前に仮面を与えたのは、かつて我々にこの国で好き放題できる土台を作ったあの魔王だったのか!?」
「そ、そうだ! 魔王から授かったのだ! ど、どうだすごいだろう!」
自慢げにするランドだったが、空に浮かぶ魔王は威圧感を放ちながらランドたちに言う。
「力を与えてやったというのに、この体たらくはなんだ? 女王を倒すのではなかったのか?」
「し、しかし魔王様! 女王は……」
「黙れぃ! 意気揚々と女王を倒すと意気込んでいながら、亜人や騎士団共に抵抗されているではないか? せっかく力を与えたというのに……よし、こうなれば我がお前たちに力を与えてやろうではないか!」
「な、なんですと!?」
「さすれば、この雑兵共も楽に倒せるだろう……!」
すると、黒い雷がナイトメア・ドラグーンと化しているランドたちに直撃する。ランドたちはその一撃に苦しむが、背中の翼が鋭利な刃物状になり、体中のあちこちから棘が生えるなどしてより凶悪な姿へと変わった。
「な……!」
亜人や騎士団は驚くも、靄の魔王は。
「フフフ、これでいいだろう。それがあれば女王たちなど余裕で倒せるだろう……!」
そう言い残し消えてしまった。すると……。
「グオオオオッ!」
知性の感じられない咆哮。そして、大勢のドラゴンたちが暴れまわる。亜人たちや騎士たちは少し驚きうろたえるが、慌てず再び額の仮面へと攻撃する……が。
(割れない……!?)
先ほどまで攻撃すればあっさりと割れた仮面が割れなくなり、変身は解除されなくなっていた。そのうえ、力や炎の威力も強くなっており、状況が一気にひっくり返ってしまった。
「ま、まずい……! わ、私が行かないと……!」
その状況を見て、セラが動こうとする。だが、セラは動くのもやっとの状態なのは変わらず、スティングや子供たちに止められる。すると、目の前に人が現れる。それは、シルクハットに黒マントの黒い人間シェイド。
「大変そうだな、女王様」
「だ、誰だあんたは! 敵か、味方か!?」
カインがおびえながらシェイドに叫ぶ。それに対しシェイドは淡々と返す。
「一応、味方だ。だが、この状況を変えうる程の力は持っていない。私にはな……」
すると、ぐにゃりとシェイドの体が黒いドロドロとなり形を変えると、今度はバフォーメへと変わった。それに対し驚く三人。
「しかしアワレですねえ女王様。このとんでもない状況、女王であるあなたがどうにかしないといけないのに、あなたは傷つき倒れている……」
そして今度は、スタロトへと姿を変える。
「だが、俺たちとて今はこの状況をなんとかできる状況にはない。この状況を変えられるのは『王』の力を持つ奴が必要だ」
「王の……力?」
セラの疑問に答えるかのように、スタロトだったものは黒いドロドロへと変わり、グチャグチャドロドロ、ネチョネチョズルズルと気持ち悪い音を立てて形を変えていく。そして、セラたちよりもはるかに大きな存在、猛禽類のような手足、羽毛と鱗が混じった体皮、背中には黒い翼、そして頭はドラゴン。そしてそのドラゴンの頭部にはドーム状の王冠が乗っていた。そんなものにいきなり変わったのを見て、四人はうろたえていた。
「ここに……王の顕現だ。我が名は『オウロソ』王の力を持つ者よ」
「オウロソ……? よくはわかりませんが、あなたが戦ってくれるということなのですか?」
恐る恐る聞いたセラの言葉に、ニヤリと笑いながらオウロソは返す。
「いいや、違う。王は動かぬ。動くのはお前たちだ」
圧倒的に長い爪を持つ指先で、セラたちを指さしたオウロソ。その言葉に、思わず「は?」といった表情となる。だが、オウロソはニヤニヤと笑いながら続ける。
「王と言うものは玉座に座って、使えん部下に施しをして使えるようにすればよい。そう、このような施しをな!」
スティングを指さし、その指先から光を放つ。その光に当たったスティングは、少し苦しんだ後その力に驚く。
「この力……すごい。今までの力がウソみたいだ」
「あなた、一体何を……」
「『王の恩寵』……そいつに限界一杯までのバフをかけてやっただけよ。これでもはやあのドラゴンどもは相手になるまい」
「これなら、負けない。行くぞ!」
その言葉と同時に、スティングは目にも止まらぬスピードで戦場へと駆け出していく。それを見てオウロソは満足げに笑う。
「良いぞ良いぞ、王は施しをすればよいのだ。さて、女王の先兵共にも施しを分けてやらねばならぬなあ?」
指先を天に向け、そこから再び光を放つ。
「『王の恵み』! 我と女王のために動け、先兵どもよ!」
その光が騎士団や亜人達に降り注ぐと、とんでもない力が沸き上がって来た。まるでこの戦いに勝てと言わんばかりの力が、彼らに降り注いだのだ。
「なんだ!? この力は!?」
「この力、圧倒的だ!」
強化されたスピードやパワーによって、理性を無くし暴れまわるランドたちを圧倒していく。その様子を見て、オウロソは座り、セラは驚いていた。
「あ、あなた……私たちのためにこんなことを……何者なんですか?」
「なあに、我はただの王よ。我々の主がお前たちの勝利を望んでいるからこそ、我はこの世に顕現したまで。今は、我の中で眠っているがな」




