22「セラ女王即位三十年記念式典」
リナからの招待状を受けて、首都テラリアへと戻って来た洋介。テラリアは前に見た時とは違い、女王セラの即位三十年記念式典へ向けて、式典を祝う飾りつけや女王による統治を喜ぶ言葉にあふれていた。式典と言う、一つのイベントへ向けて国が一つになっていることを感じた。
「やっぱり、セラ女王は慕われているんだな。国民たちが総出で、自分から祝おうとするなんて……うんうん、良い国だなあ」
「良い国に決まっているでしょ、元は酷い国だったんだから」
「あっ、リナさん。招待状、ありがとうございます」
「招待状を持っている人間は、城内の立食パーティーに参加できるからね。他の王侯や種族の長達が来るから、粗相のないように」
「は、はい~っ……それにしても、なんで自分なんかがそんな御大層なパーティに参加できるんですか? 自分は一介の冒険者なのに……なぜ?」
「女王様が、奴隷貿易の壊滅に協力してくれたのと壊滅のきっかけになってくれたあなたを是非招待したいってね。ドレスコードはちゃんとしなさいよ」
「わかりました、なるべくちゃんとした格好で行きますね」
「じゃあ、私は仕事があるから。式典では粗相のないように」
「仕事……? ああ、王都の警護ですね。式典にかこつけて騒ぎを起こしたり、悪さをする輩もいるかもしれませんからね」
「それだけならまだいいんだけどね、奴隷貿易に関わっていた古参貴族共が一斉に消えたのよ。アイツら何かやらかすんじゃないかと女王様が思って、王立騎士団の半数が王都の警備や調査に乗り出しているの。私はこれから王都を離れて逃げた連中を捜索する予定」
「大変そうですね」
「それじゃあ、私はこれで。式典であなたもだけど、アイツらがやらかさないことを祈るわ」
そう言ってリナは、腰に刺したレイピアを直しながら門から外へと出て行った。その背中にはどこか緊張感のようなものがあり、この大事な節目を必ず成功させなければいけないことへの使命感も感じた。
「ふーむ、おめでたムードの中にも迫る危機感……か。実際このままアイツらが何もせず、国外逃亡でもしようとして捕まってくれればそれでいいんだけれど、そういうことは無いかもしれない。向こうには魔王信仰の連中がついているらしいからな。立場を無くしたアイツらのことだ、きっと最後に女王様に向かって何かするかもしれない……となると、警戒が強くなるのも当たり前か」
そんなことを思いながら、洋介は手ごろな宿屋へと入り、式典の日を待つのだった。
そして数日後、女王セラの即位三十年記念式典の日がやってきた。賑やかな首都テラリアが、王城を中心にさらに賑やかになり、花火や様々な出し物が出ていた。そして王城の周りには女王を一目見ようと、大勢の人々が駆けつけていた。
「はえ~、やっぱり大勢の人々がいるものだなあ。やっぱり王国の式典ともなると、大勢の人々が集うものなんだな」
すると、王城の門が開く。そこから出てきたのは、顔が良く見えるように作られた馬車に乗った女王セラと、その両隣にいるはセラの子供であるカインとエレナ。騎士団の警護と先導を受けながら、セラは道行く人々に微笑みながら手を振り、国民たちも自らの意志で女王様万歳などといった喜びの言葉を返す。素晴らしいパレードだ。傍らで見ていた洋介も、これには。
「パレードってのはテレビでよく見ていたけれど、こういう国民的なパレードを見るのは初めてだ……こういうのも絵になるよな~」
女王セラは、天使のような笑顔で国民に対し手を振る。背中にある白い三対の翼も、キラキラと輝いている。セラの子供らしき二人、カインとエミリーもまた笑顔で国民たちに手を振っていた。
そうして、女王たちを乗せた馬車は首都テラリアを一回りした後、王城へと戻り王城の中へと入っていった。洋介は一応警戒していたが、ここで襲撃はしないか……と安心した。そして、服をタキシードに変え、立食パーティへと向かうのだった。
王城の中で始まった立食パーティ。そこには、タイクーン王国と交易のある王国が使わせた大使、そしてタイクーン王国に存在するきちんとした貴族に、魚人族をはじめとした異種族の長達。その中にはもちろん……。
「おーい! ヨースケ、ヨースケじゃないか! お前もここに来ていたんだな!」
魚人族のチシャが駆け寄って来た。長であるエルホ王と共に、妹のフィンも来ていた。おそらく儀礼用の礼装なのだろう、元の世界におけるサンバのようなフリフリの衣装を着ていた。
「あ、チシャさん! あなた方もここに来られていたんですね」
「お前もここに来ていたんだな、この記念式典のパーティに呼ばれるなんて……お前は女王様にとって、とても重要な人間なんだな」
「なんでも、女王様にとって俺は奴隷貿易壊滅のきっかけを作ってくれた恩人らしいそうですから……」
「そうだな。確かに実際に壊滅させたのは騎士団たちだが、きっかけを作ってくれたのはヨースケ、君だ。君がきっかけとなって妹フィンも助けられた。俺たちも感謝しかないぞ」
「私も、兄と共にこうして式典に参加できることを感謝しています」
「ウム。我々魚人族を代表して、改めて例を言わせてもらおう」
深々とお辞儀をするエルホ王に、そんなに改まらなくても……とエルホ王に遠慮する洋介。すると、その会話に割って入って来た者がいた。
「パーティで世間話か。それとも何かの談合か?」
そういいながら割って入って来たのは、洋介の世界におけるインディアンのような恰好をした鷹のような鳥人。隣には鷲のような鳥人もいれば、インコのような鳥人もいる。反応したのは、チシャ。
「鳥人族の気高き戦士、イグルか。それに隣には部族長クーホに……娘さんのセキセイか? お前たちもここに来ていたんだな」
「俺たちが敬愛するセラ女王様の式典なんだぜ、そりゃあ行くだろ。俺たちなら空を飛べばすぐ行ける。それにしても、このヨースケとかいう人間が魚人族の恩人なのか? 見るからにへなちょこそうだが……」
「イグル、あまり人を甘く見るな。仮にも裏で行われていた奴隷貿易壊滅のきっかけとなった人物なのだぞ。何かしら強い強い能力があるに違いない」
「ヘイヘイよー」
クーホにたしなめられたイグル。セキセイも微妙な顔をしており、少々言い過ぎたことを自覚したイグルは、慌てて頭を下げた。
「あぁ、いや……すまなかったヨースケ。ちょっと言い過ぎた」
「いえ、謝ってくれたならこちらは別にいいです」
「なんだァ? 揉め事かァ?」
「揉め事、良くない。今日、女王様のめでたい日」
そしてさらに割り込んできたのは、魚人族や鳥人族よりも高い二メートル以上の体躯を持った女の竜人と、緑色の甲殻に覆われ、黒いツメを持った昆虫人間。
「竜人族のユナンに……虫人族のスティングか。お前たちもここに来ていたのか」
「女王陛下のめでたい日だぜ? それに酒やウマイ飯も食えるんだからそりゃあ来るだろ」
「ユナン、俺たちは女王様祝うためにいる。飯食うためじゃない」
「カタイねえ、体と同じくらいカタイねえ。ちょっとぐらい羽目外せよ」
目の前にいる二人の異種族。いつの間にか洋介は、異種族だらけになっていた。こんな光景に圧倒されつつも、こういうのも異世界の景色だなあとしみじみと思っていた。
すると、急にパーティの明かりが消え、会場にあった大きな椅子のみが照らされる。両隣には小さな椅子が置かれているその椅子に、人々の視線が集中する。
「えー、お集まりの皆様。だいぶお食事やお酒が進んだところでしょう、ここで女王様より、即位三十年記念のお言葉があります」
司会のその言葉と同時に、横から女王セラと子どものエレナとカインが大きな椅子に座り、真ん中の椅子の前にセラが立つ。咳ばらいをした後、大きく口を開ける。
「皆様、この度は私の即位三十年記念式典に来ていただき、ありがとうございます。私がここにいられるのも、ひとえに王国の治安を支えてきてくれた騎士団、地方の統治を請け負ってくれた貴族たち、そして私が即位する前に不当な扱いを受けながらも私についてきてくれた異種族の方々……本当に、ありがとうございます」
その言葉に、シンと静まり返る会場の人々。そして、セラが次に続けた言葉は。
「そして、魔王を倒し私に外の世界の見聞を広めてくれた勇者たち……その勇者たちから学んだアレコレ、すべてが私を支えています。ですが、それでもいまだにこの国を蝕んでいたものはあります」
「それでも、私は人々に求められ女王としてここにいます。だからこそ、私は改めてここに誓います。この国、タイクーン王国をよりよき国へと導いていく、女王としてここにあると!」
女王セラの言葉が、会場に響く。そして、拍手が一通り起こると、会場は拍手に包まれる。洋介もまた、その拍手をしていた一人だった。短い言葉ではあったが、女王の決意の言葉に、会場は確かな手ごたえを感じていた。
だが。
「異議あ~り! セラ、お前は女王にはふさわしくない!」
その言葉が響き渡り、会場全体がざわつく。今の声一体誰だ? という困惑の声がざわざわと響き渡る。すると、会場の扉がバンッと開き、ぞろぞろと悪そうな連中が入って来た。その先頭にいたのは……。
「ランド……裏で行われていた、奴隷貿易を指揮していた古参貴族が何の用ですか?」
「セラ、お前が女王などと我々が認めない。貴様が即位してから、我々がどんな不当な扱いを受けていたか!」
そう睨むランドだったが、女王セラは毅然とした態度で返す。
「それは、私が即位する前、あなたたちがこの国を腐らせ、あくどいやり方で私腹を肥やしていたからでしょう。三十年前に王国で禁止された奴隷貿易を秘密裏にやっていたお前たちは、魔王に阿っていて凄くやりたい放題だった……だが、魔王が倒された後、私はあなたたちを切らなかった……いや、斬ることができなかった……魔王と言う強大な勢力が崩れた混乱期にある国において、治世的な問題からあなたたちを切ることはできなかった」
「だが、私たちに不当な扱いをしていたのは事実だろう。財産の没収に加え、監視の目も強固だった」
「それはあなたたちが信用ならなかったからです。一度野放しにしていたものは、再び自由を求めて裏であくどいことをする……それが、奴隷貿易というもの……やはり、あの時切っておくべきだったのですね。あなたたちも言いたいことがあるのでしょう? 自由にさせてくれない私が大嫌いなのだと」
「……ああ、そうだ。私たちはお前が大っ嫌いだ! 我々が本心から求めていたのは、三十年前の自由だ!」
「もはや、問答は無用ですね。罪人として探していたあなた方がここに来た以上、女王である私が下す判決はただ一つ、死刑! 今ここで私が処します!」
杖を貴族たちに向け、今にもやる気満々のセラ。戸惑うエレナとカイン。だが、悪徳貴族たちは不敵に笑った。
「セラ、なぜ私たちがわざわざお前たちの前に現れたと思う? お前に処刑されるためか? 違う! 我々には、お前たちを殺す術があるからだ!」
ランドが懐から取り出したのは、黒い仮面。他の貴族たちも一斉に取り出し顔に被った。それを見て、セラは驚いていた。
「なっ、それは……!」
仮面から黒いドロドロが噴出すると、それが頭を覆う。そしてだらんとうなだれると、ランドをはじめとした連中の体がボコボコと泡立ち、メキメキと音を立てて巨大化していき、城の天井を突き破った。額に黒い仮面が貼りついたその黒い龍は……。
「かつて、魔王軍が使っていたという兵器、ナイトメア・ドラグーンへと変身する仮面……!」
唯一、セラだけがそれを知っていた。




