21「式典に向けて」
タイクーン王国に巣食う過去の遺物。奴隷貿易の本拠地を潰してからは完全に騎士団の優勢で、本拠地にいた奴隷貿易の中心人物を尋問した結果、各地にあった拠点も明るみとなり、次々に潰されていった。まるで、女王セラの即位三十年式典にちょうど間に合うように、怒涛の勢いで駆逐されていった。
そして、奴隷貿易に関わり、支援していた悪徳貴族たちにも捜査の手が入ったが、どこからか情報が入ったのか、貴族たちは使用人などを残しすでに逃げられていた。だが、全てに共通点があることはわかっていた。それは、三十年前からある貴族だということ。それは、女王が即位した時潰したくても潰せなかった国の膿とも言える者たち。
「やはり、あの時潰しておくべきだったのですね……」
騎士団たちからの報告を受けて、女王セラは苦々しい顔をした。それはそうだろう、混乱期にあった国のためとはいえ、堂々と不正をしていた貴族たちを残さなければいけなかったのは苦渋の選択だった。
「ですが、女王様の選択は間違っていなかったと思います。そして、今その問題を解決できつつある以上、この奴隷貿易殲滅を平行しつつ、式典の準備を進めるのも大丈夫だと思います」
「そうですか、リナ……ですが、向こうに魔王信仰の連中がついている以上、何かを仕掛けてくるかもわかりません。警戒を怠るに越したことはないでしょう」
「はい、関わっていた貴族の所に向かった騎士団曰く、今のところ全員逃げて行方知れずとのことですが……おそらく魔王信仰の所にかくまってもらっているのではないかと」
「わかりました。では、騎士団の半分を逃げた貴族の捜索にあてつつ、もう半分はこの王都テラリアにて怪しい動きが無いか見回らせましょう。リナ、あなたは王都での調査に回ってください」
「はい、わかりました。では、行ってまいります」
リナはそうして玉座に座るセラの前から去る。いなくなったのを見つめた後、ふぅとセラは息を吐く。
「どうやら、この国の悪いところは徐々に出せつつあるようですね。よかった……でも、まだ終わってはいない……奴らを捕えなければ……そして、即位三十年式典は完遂する。勇者様、あなたが救ってくれた国は、絶対に私の手で守ってみせます」
一人の女王として、勇者一行の一人として、この国を守り抜く。あの日勇者たちと誓った約束を守るため、玉座で一人気を吐く。すべては勇者のため、この国のために。女王は一人玉座で勇者や国のことを思う。自身の即位三十年式典は、もうすぐだ。
「ようやく、女王様の悲願が達成されるのね……」
リナはテラリアの街中を歩きながら、そう呟いた。
「女王様が苦々しく思っていた奴隷貿易を、今ここで潰すことができる……私も嬉しいわ」
テラリアの町を眺める。そこには、笑顔で日々の営みを行う商人、騎士団の一員、親子に冒険者たち……。リナにとって素敵な景色がここにはある。しかし、自分が生まれる前、それこそ三十年前は悪徳な貴族が我が物顔で闊歩し、人々は虐げられ奴隷として扱う。そんな酷い光景が広がっていたのだから、信じられないことである。そんな荒れ放題だった国を、しっかりと時間をかけて立て直した女王セラは、やはり偉大なことを知った。
「でも、今回の密貿易の調査において一番の立役者は……ヨースケよねえ。あの能力はもちろん、私の無茶ぶりとも言えた依頼に積極的に了承してくれた。彼がいてくれなかったら、式典に間に合うこともなかったでしょう。いや、そもそも式典なんてやっている場合じゃなかったでしょうね」
今までの戦いを思い出すリナ。最初のとんでもなく破廉恥な出会いから、その能力を買って奴隷貿易捜査の依頼をお願いした。最初はちょっと役に立ってっくれればそれでよかったのに、潜入捜査においては積極的に入ってくれただけではなく、ちょっとした戦いもしてくれた。最終的に戦ったのはチシャやユーとかいう人間らしいそうだが、それでも最初に先陣を切ってくれたのは洋介だ。それは変わらない。
「彼は当然、式典には呼ばないとね。それに、あとで個人的に報酬も渡しておかないと……」
自分が使っている伝書鳥を呼び寄せる。そして、洋介宛の手紙を足に結んだ後、洋介に向けて飛んでいくよう伝え、空に飛ばす。
「向こうがどんな状況か知らないけれど、たぶん式典の日までには届くだろうし、式典にはちゃんと来てくれるわよね。向こうも移動手段には困っていないでしょうし。だから……私はやるべきことをしっかりやらないとね。あの悪党どもはテラリアに潜んでいるかもしれないし、式典にかこつけて何かをしでかす悪人もいるかもしれないし……」
テラリアの町を歩きだす。今のところ表立ったところに怪しい人間はいない……が、どこかにはいるのかもしれない。だから、裏路地などにも目を通し、本当に悪い人間がいないか確かめる。
表通りは先程見かけた景色だけではなく、式典に向けて飾りつけなどをする人々もいる。このおめでたムードを守らなくてはいけない。貿易は壊滅しつつあるが、それでも油断はできない。あの時力を貸してくれた洋介の力を使わず、自分で守らなくてはいけない。
「私も、頑張らなくちゃ」
一方その頃、洋介は宿屋でここまで書き記してきたネタ……というよりタイクーン王国におけるテラリアと魚人族のアレコレを記したノートを眺めていた。それらは非常に魅力的な資料ではあったが、どうしても一抹の不安がぬぐえなかった。
「う~ん……確かに、良い設定資料になっているとは思うけれど……コレ、元の世界じゃすでに既出だったりするかな……? 魚人とか、現代っぽさのある首都とか……」
ノートやスケッチをじっと見つめながら、自らが異世界で書き記してきたことが、すでに元の世界にあるものではないかと、不安になっていたのだ。
「よくあるよな……人の想像力で考えうることは、現実で起こりうることだって……こういう異世界だって本当は人間の想像力の範疇なんじゃないのか? すでに俺の世界じゃすでにネタとしてありうることなんじゃないのか? ということが、ずっと俺の中でぐるぐるしている……」
この間からずっと、ネガティブな思考が頭の中に貼りついて離れなかった。夢の中でキャラ達に詰め寄られたことも影響し、自分はひょっとしたら小説家としても創作家としても全然ダメなのかと考えていた……。
「なんだろう、せっかくの異世界に直接来てそのものをネタにしようとしたのに……考え付くのはこのネタを俺に生かせるのか? ということや異世界のネタは俺にとって必要なことなのか……? ということばっか……」
洋介は今、創作家としての岐路に立たされていた。自分は本当は創作家として、全然ダメではないのか? 異世界という最高のネタさえも、自分が台無しにしてしまうのではないのか? かねてより創作家としては自信を無くしつつあった洋介であったが、異世界というファンタジーそのものの光景を目の当たりにして、元から無かった自信をなくしつつあったのだ。そして、自らのキャラ達からの叱責……いろいろな要素が積み重なって、ネガティブ思考が離れないでいた。
「俺って……なんなんだろう……ただでさえ、スライムっていう異形の力が無ければマトモに生きることもできないのに、創作家としても二流以下なんて……現実に打ちひしがれるとは思わなかったよ……」
最高のネタ帳を前に、そんなことを考えてしまう自分。そんな負のスパイラルに陥る自分に、嫌気がさしてきていた。その時だった。
「フフフ……無理にそんな風に生きがいをみつけようとしなくても良いんじゃないかい?」
突如洋介の耳に聞いたことのない声が聞こえてきたのだ。
「いや、それはマズイだろ……ただでさえ、生きる目的が見えないのに……って、誰と話をしているんだ俺は? ついに気でも狂っちゃったのか? やれやれ、ネタ探しでもしてないと本当に気でも狂いそうだ……」
いきなり聞こえた声に驚きつつ、自分のことを心配する洋介。すると、窓の枠に鳥が一匹留まっていた。その足には、手紙らしきものが巻かれていた。その鳥に、洋介は見覚えがあった。
「これ……リナの鳥じゃないか。手紙か?」
足についていた手紙を取ると、鳥はさっさと飛んで行ってしまった。手紙を読んでみると、そこに書いてあったのは式典が開かれること、ぜひとも式典に参加してほしいこと、その招待状を送ることが書かれていた。
「リナからの招待状……かあ。よし、式典に行こう。派手なパーティに参加すれば、きっと気も紛れるさ」
招待状を懐に入れて、宿屋から出て行った洋介。不安を隠しながら、パーティへと参加を決めるのだった。
そして、ここはタイクーン王国のどこか。最低限の明かりをつけた部屋にて、身なりは良いが悪人面とも言える男たちが、一か所に集結していた。それはこのタイクーン王国に三十年前から存在する古参貴族たち。しかし、その顔には余裕がなく、焦燥に満ちていた。
「全く、お前の息子が捕まったのを機に、一気に我々が裏で行っていた奴隷貿易の全容が明るみに……拠点も全て制圧されてしまった! おまけに我々も指名手配状態! こんなことになるとはな!」
「大体お前が悪いのだぞ! 裏でこういうことをしようと言うお前が初めに言い出したのが……」
「なんだと!? そもそもお前たちだって乗り気だっただろう、三十年前の生き生きとしたあの日を思い出す~とか言って!」
そんな醜い責任の押し付け合いをする貴族たちを、傍らで見ているのは装飾のついた黒いフードを被った男だった。
「全く、醜い争いじゃねえか。ま、こいつらの貿易もそろそろ潮時か……」
それは、魔王信仰の中心人物エイドスだった。魔王信仰の資金源として、貴族の奴隷貿易をアシストした……だが、その貿易ももはや終わりが近いとにらんでいた。だが……。
「エイドス! お前がなんとかしろ! 魔王軍の技術があればなんとかなるだろう!」
「無理だ。いくら軍備があるとはいえ、政治的な状況をなんとかするのは俺たちにも無理だ。勝手に自滅してろ」
「そ、そこをなんとか!」
といって縋りつく貴族連中を、振り払うエイドス。すると、奥から一人の男が出てきた。
「今しがた……やっとお前たちに合流できてな」
「ランド! お前のせいで俺たちは……国から追われることになったのだぞ!?」
「奴隷貿易の中心人物たるお前が、あんなことをするなど……」
この男、ランドは三十年前から存在する古参貴族であり、奴隷貿易の中心人物であった。だが、今日はいつもと雰囲気が違う。
「もはや我々は詰みの状態にあるということだな」
「詰みどころではない! もはや明日処刑されるかもしれないのだ!」
「我々の三十年前からの威光が……」
そうのたまう貴族たちに、ランドは語る。
「そうだな、もはやこの状況にある以上下手に逃げ隠れしても意味はないだろう。ならば……女王に反逆するのだ」
「女王に……反逆?」
「その力が、私にはある。もはやエイドスなど必要ない。女王など一ひねりできる力が! 私にはある!」
それを聞いて、貴族たちは盛り上がる。エイドスを置き去りにして、勝手に盛り上がる貴族たちを見て、エイドスは思う。
「ケッ、付き合ってらんねーな」
そういい、暗所から出ていくのだった。




