20「洋介とリナ、それぞれの夜」
その夜、洋介は不思議な夢を見た。宇宙空間みたいな空間の中、ふわふわ浮かんでいた。洋介の周りには、自分が今まで変身してきたり、ノートに書かれていたキャラ達が浮かんでいた。
(なんだろう、この景色は)
なんとなく自分が夢を見ていることを理解してはいるが、なんでこんな夢を見ているのかわからなかった。すると、スタロトが銃を突きつけながら迫って来た。
「おい、ご主人様。お前はなんで俺を否定した?」
「否定? なんの話?」
「お前が俺を被った時に、俺を引きはがそうとしていただろう。俺がやろうとしていたことを止めて……」
「それに、ワタクシのことも止めましたよねえご主人様」
後ろからバフォーメが洋介の肩を掴む。その握る手は妙に強い。
「あんな魔物ごときワタクシに好きにやらせておけばよかったのに……なんであんな小娘に邪魔させたんですか?」
「い、いや……さすがに余計に痛めつけたりとかは……というかなんで君たち自立してるの? 生きてるの?」
「生きているに決まっているだろう、生み出されたら生きるのは当然だろう」
ダークシャドウもまた洋介の前にふわりと浮かび、返答をする。その様子に、驚きを隠せない。ノートに書き連ねた設定やイラストでしかなかったはずの彼らが、夢とはいえこうして自立し自分と会話をしている。今までは纏い、使う程度で時折彼らに乗っ取られそうになった程度の者たち。
「ワタクシたちは、あのノートに書き連ねられた存在でしかなかった。しかし、お前がスライムと呼ぶあの謎の物体により、実体を持ちこの世に顕現した。だが……あなたはなぜワタクシたちの意志を無視するのですか?」
「バフォーメ、それは……君があの魔獣を必要以上に痛めつけようとしたから……」
「それがワタクシの生き方であり、性格なのをあなたはご存じなのでは? ワタクシをそういう作ったのはあなたでしょう?」
バフォーメがヤギの頭をずいと近づける。確かに洋介は、キャラとしてバフォーメをそういう風に作った。だが、まさかこんな形で邪魔になってしまうとは思ってもいなかった。スタロトもまた、ライフルを向けながら洋介に詰め寄る。
「ただの絵と文字でしかなかった俺たちが、初めて『存在』を実感できた。自在に動く体、吹き抜ける風の冷たさ、弾丸を放つときの感触。なのになぜ、お前は俺たちを封じ込めようとする?」
「創造者故の傲慢か? お前は我々の支配者なのか?」
ダークシャドウにも詰め寄られ、タジタジになる洋介。自分の生み出したキャラ達にこんなことを言われるなんて、思ってもいなかった。確かに彼らは洋介にとって被創造物ではある。可愛い子供たちとは思っていたが、ひょっとしたら気づかないうちに彼らに傲慢になっていたのではないのか……? という疑問が洋介の中に生まれていた。
「き、君たちの言いたいことはわかる。確かに俺は君たちをそういう風に作った。ごめん……君たちのことを考えていなかった……君たちは……どうしたいの?」
「……それが、わからない。我々は、お前の描いた物語の中ではそういう役割をこなしながらも、その物語じゃないこの世界では、紙に描かれた我々の設定上の何かがわからない」
ダークシャドウの困惑したような表情。スタロトがライフルを抱えながら座る。バフォーメが胡坐をかく。それはそうだ、あのノートに書かれた自分の設定以上の何かが彼らにはないのだ。
「君たち……」
被創造物たちの彼らの存在意義。ゆえに彼らは書かれたことしか実行できない。だからこそ、彼らはこの世界に現れた時、必死で存在しようとしていたのだろう。故に、自分を飲み込もうとするほどに……。洋介は彼らをどうすれば満足させてやれるのだろうか、わからないでいた。それでも、今できることをしようと思った。
バフォーメを、抱きしめる。同じように、スタロトも、ダークシャドウも抱きしめる。自分が生み出したキャラクター達へ、精一杯の愛情と、罪悪感を込めて。
「俺はさ、確かにダメな創造者かもしれない。けれど俺は君たちが大好きなのは変わらない。それだけはわかってほしい。わかってほしいんだ……君たち一人ひとりの、その『生』を肯定したいんだ」
これで何かが変わるわけではないと思う。けれど、思いだけはわかってほしかった。すると、彼らも洋介を抱きしめ返す。そこには、彼らが生きているという鼓動を感じていた。
「ハッ!?」
宿屋で目を覚ます洋介。暗闇の中、しかし……先程まで見ていた夢を思い出す。スライムという形ではあるが、この世に生まれ出た以上生きたいと思うのは当然なのだろう。それを、少し邪魔してしまった。
「作品を作った以上、その作品には作者の責任が付きまとう……か。彼らも生きたかったのだろうか……」
以前どこかで誰かが言っていた言葉を思い出す洋介。創作者としての自分、この世界でもそれを実感するとは思っていなかった。
一方、リナは奴隷貿易の本拠地を襲撃していた。森の中にあり、霧で通路を隠していたようだが、闇試合で捕まえた貴族の青年から聞いた情報によって、すでにルートは掴んでいた。そして、本拠地が見えた時、大勢の騎士団が本拠地を襲撃した。
「タイクーン王国王立騎士団、突撃ーッ!」
大勢の武装した騎士たちが、奴隷貿易の拠点へと駆け出していく。見張りが何人かいたものの、大勢の騎士団には対応できずそのまま倒されていく。魔王信仰の連中も、数の暴力に対応できず制圧されていく。
そんな中、リナは特に頑張っていた。今まで洋介と一緒であったが、今回洋介がいないことで余計に張り切っていた。
(今までアイツに頼り切りだった……だから、今回は私が頑張らないと!)
迫りくる護衛の賊たちや、魔王信仰の信者をレイピアで切り裂きながら、拠点を制圧していく。そんな様子を騎士団の連中は「あいつ今日はすげえな……」と思いながら必死で戦っていく。
そんな騎士団の勢いに気圧され、追い詰められていく奴隷貿易の商人や魔王信仰の信者たち。拠点の奥で、追い詰められ焦っていた。
「マズイ……マズイぞ……!」
「魔王信仰幹部様、これ以上はもう危険です!」
「外を見たのですが、この本拠地は王立騎士団に囲まれてしまっています! もはや我々も逃げることはできません!」
「もはやこれまでか……」
魔王信仰の連中も、闇商人もあきらめたかのようにうなだれる。抵抗したところで、多勢に無勢は変わらない。すると、魔王信仰の幹部らしき人物がニヤつきながら懐から何かを取り出した。
「ならば、最後にひと暴れしてもらおうじゃないか。かつて魔王軍が人間に使用していたという兵器で、この状況を一気に変えるのだ!」
「な、なんですかそれは!? な、なにをするんです! や、やめろおおおおお!」
奥からそんな悲鳴が聞こえ、しばらく声が途絶えた後、拠点に立っていた館が突然爆ぜた。騎士団の連中が吹っ飛ぶと同時に、その中央にいたのは。
「ガルル……ギャグルオオッ!」
「こ、これは!?」
騎士団にはその魔物に見覚えがあった。四つ足の、黒曜石のような体を持つ先ほどまでたっていた館ほどの大きさを持つ、巨大なオオトカゲ。かつて魔王軍が拠点制圧兵器として使っていた魔獣『ダークモニターリザード』であった。砂漠にいるオオトカゲを元とした、凶暴かつ力も強く、魔力も強い強力な魔獣。その額には、一枚の白い仮面。
「チィッ、なんだってこんなバケモノがいるんだよ!」
「まずいわね、これは……戦況が一気にひっくり返ってしまったわ」
騎士団が弓矢や剣などで対応するも、ダークモニターリザードの固い鱗は攻撃を通さない。リナのレイピアも意味をなさない。それにより、勝ち誇る魔王信仰の連中や闇商人。
「どうだ! これが魔王軍の力だ! これでお前たちを一捻り……」
馬鹿笑いをあげようとした瞬間だった。空から巨大な火球が飛んできて、ダークモニターリザードを吹っ飛ばす。空にいたのは……。
「ふむふむ、これは随分歯ごたえのありそうな魔獣だねえ」
「あ、アレは!?」
「『白の貴婦人』だ!」
「白の貴婦人!? 確かアイツは、以前歯ごたえがないから依頼を辞めるって……女王様に言っていたはずじゃ……」
リナや騎士団も驚きを隠せない。当然魔王信仰の連中や商人もまた、驚きを隠せていなかったが、空に傘でふわふわと浮かぶ三メートル大の貴婦人がそのまま指先からレーザーを射出し、ダークモニターリザードの鱗を貫いていく。
「相変わらず、タフさだけは凄いわね。この生き物は」
黒いオオトカゲは爪で貴婦人を攻撃するが、空にふわふわと浮かぶ貴婦人には当たらない。そして今度は火球を吐くも、バリアに弾かれ意味をなさない。
「さて、そろそろ終わりにしましょうか」
貴婦人が天に指をさすと、天に魔法陣が展開され、そこから強大な雷が振りダークモニターリザードに直撃。黒焦げとなって倒されてしまった。
「そんなバカなあああ!?」
「貴婦人が突破口を開いたぞ、一斉確保だああ!」
最大の切り札を失い、もはやまともに戦うことすらできなくなってしまった連中。そのまま一気に、騎士団たちに制圧されてしまった。
木端微塵になった館の後で、縄や特殊な枷で縛られる奴隷貿易の連中。魔王信仰の連中ももちろん、タイクーン王国で許可を取って商売をしている商人や、古参貴族たちも何人かおり、その酷さがうかがえた。
「タイクーン王国への裏切り、万死に値しますね」
「それでリナ、魔王信仰の幹部らしき奴はどこへ消えた?」
「それが……逃げられました。申し訳ございません」
「そっちもいずれは決着をつけないといけないが……今は奴隷貿易の完全壊滅が優先だ。まあ、ここを潰して関わった貴族のあてもある以上、式典には間に合うだろう」
「はい……」
すると、白の貴婦人が地面に横たわっているダークモニターリザードを、じっと見ているのが見えた。
「あの、どうかしましたか? その魔物について……」
「いや……まだこんなのを使う奴らもいるのねって……」
ダークモニターリザードの額に張り付いている白い仮面を、傘の先でガツンと突くと、仮面が割れる。すると、ダークモニターリザードの体がギギギ、グニャグニャと音を立てて小さくなっていき……裸の太ったおっさんになった。どうやら貿易に関わっていた商人だった。
「に、人間!? あの魔獣の正体が人間だったなんて!」
「魔王信仰の連中、随分酷いことを……」
「魔王軍の技術ね、どこで手に入れたのかしら。ま、どうでもいいけれど。それじゃあ後はよろしくね」
白の貴婦人が傘を開く。そして、風に乗ってふわふわと去って行ってしまった。リナはその自由さに呆れながらも、奴隷を助け捕縛するのだった。
「全く、気まぐれにもほどがあるわね、あの女」




