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16「闇闘技場」

 チシャの妹自慢をどれくらい聞いたのだろうか。近くの拠点にいた騎士団を呼び、奴隷たちを売りに出そうとしていた人間たちや、奴隷にされかけた人たちを引き渡した洋介たち。その後、騎士団の尋問が完了するのを待って、リナからの報告を受けた。


「騎士団の情報曰く、ルスダの町に闇闘技場があり、そこで特に高値が付きそうなヤツを、闘技場で賭けているという話があるらしいわ。そこには、強欲な商人や貴族なんかもいるという情報もある」


「そこに、妹がいるのか」


「たぶんね。ただこの近くで、また強力な魔物が出たという話があって、騎士団の大部分が調査に乗り出せないという話もあるわ。私たちの後、ついてくる人はいるらしいけれど」


「となると、俺たちの出番ですね。俺たちがなんとか潜入して、妹さんを救出するという作戦ですね。リナさん、その闘技場の場所聞き出せましたか?」


「残念ながら、向こうは知らないらしいわ。いくら聞き出しても、本当に知らないというからね」


「とりあえず、向こうへ行ってから調査をするしかないわね。洋介、さっきの鳥になれる?」


「うーん、まだ巨大なものにはなれないですね。でも早く行かないと、誰かさんがうるさそうですしね」


「ああ、俺の妹を早めに助けないといけないからな。さっさと行くぞ! ついてこい!」


 チシャがリーダー気取りで行こうとするのを、やや辟易しながらルスダの町へと向かうことになった洋介、リナ、チシャの三人。リナは馬に乗り、チシャは水操術波乗りで滑るように移動し、洋介もスライムを足に纏わせ、走りながら目的地へと向かっていく。


 そうして、三日ほどかかってやっとルスダの町へとたどり着いた三人。その町は、王都と同じくらい賑やかで、派手な建物や店があった。そして、店の種類も豊富で酒場やレストランはもちろん、女性と遊べるお店や賭場といった娯楽も豊富だった。ストリートパフォーマーなども多数存在している町だが、この町の裏には薄汚い奴隷貿易や闇闘技場の影があることをわかっている。


「こんなに鮮やかでスケッチしたい街並みなのに……裏には酷いことが横行している。鮮やかさの影にはいつもどす黒い影がうごめいているのが常なのか……」


「洋介、また変なこと言って……しかし闇闘技場だなんて、三十年前に流行っていたあんな酷い娯楽場がいまだにあるなんて……」


「えっ、昔流行っていたんですか?」


「ええ、正規の闘技場と違って、血生臭い戦いや下手すれば虐殺ショーまである非常に悪趣味な闘技場よ」


「はあ……殺人ショーなんて一部の悪趣味な人間以外見ませんよ。それにそんな試合にどれだけの選手が集まるんです? かなり無理があると思う……けど、三十年前は集められる要因があったんですよね?」


「ええ、あの時の腐敗していた貴族が面白がって支援していたからね。それに、かなり悪趣味な話だけど今回のように美しい女性を景品にしたり、闘技場で戦わせるために一から虐待じみた調教する輩もいたわ」


「うへえ、酷いですね。そういうのも女王様が禁止にしたはずなのに、裏で行われているなんて……」


「全く酷い話だわ」


「そのころは魚人も多数景品や戦士にされたという話も聞いた。全く嘆かわしい話だ。とにかく! その闇闘技場へ乗り込み、妹を救出するのだ!」


「チシャ、まだどこにあるかわからないのにそういうのは止めなさい。さて、どうしたものかしら……」


 リナは悩む。聞き込みをすればいいのかもしれないが、向こうに感づかれては対応されては困る。どうしたらよいのかと悩んでいると、後ろから声をかけられた。


「あの、何かお困りかな?」


 三人が振り向くと、そこにいたのはボサボサの白髪に、無精ひげの男。だがよく見ると顔は整っており、整えればかなりの美男子になりそうな男……。リナたちは「なんだコイツ」と怪訝そうな表情を浮かべるも、洋介はその人物に見覚えがあった。


「あっ、ユーさん! この間ぶりですね。今日はどうしてこんなところに?」


「いや、ちょっと……また道に迷ったんだ。迷って迷って歩いていたら、いつの間にかこの町に来ていたんだ」


「……また道に迷っていたんですね」


「何この人、ヨースケの知り合い?」


「知り合いというより、目標を見極めさせてくれた恩師みたいな人ですね」


「ふーん。それで、私たちに何の用?」


「いや……君たち何か困ってるみたいだから、何か手伝えることがないかと思ってね。ちょうど知り合いもいたし、王立騎士団の人がいるということは、何か事件でもあると思って」


 そういうユーに対し、リナは制する。


「悪いけど、見ず知らずの男性に騎士団の情報を教えるほど、私たちの仕事は……」


「へえ、この町にある闇闘技場の話なんかも聞きたくないのかあ……」


 そう言うと、リナやチシャが食いついてきた。それはもう、鬼気迫る勢いで。


「し、知っているの!? 教えて!」


「早く教えろ! 妹の命がかかっているんだ!」


「ま、まあ落ち着いて……案内しますから」


 ユーに連れられ、三人は闇闘技場へと向かう。案内される途中、リナは洋介に耳打ちする。


「ねえ、あの人何者……? 私たちの目的をわかっているのもともかく、案内もしてくれるなんて……」


「さあ……わかりません。自分だって会った時に飯を奢ったり、何かいい話を聞かされたくらいの仲ですから。その時、マッドボアを倒した時の金も殆ど使っちゃいました」


「なんなのよあの人……」


 そうして、奥まった路地裏に連れてこられた。そこには扉が一枚。その前には武器を持った人間が二人いた。扉に向かおうとすると、武器で扉をふさがれた。


「誰だお前たちは」


「ここは特別なお客様以外立ち入り禁止だ。それか金をいくら払え」


 やはり簡単には通してくれないか……と思っていると、チシャが。


「料金は、コイツだ!」


 といって、顔面にグーパンチを浴びせた。すかさず二人目にも回し蹴りを浴びせ、気絶させる。それを見て、リナは呆れる。


「あーあー、こんなことしちゃって……まあいいわ、こいつらその辺のゴミ箱に閉じ込めて、さっさと入りましょう。ユーさんは……」


「ああ、俺はいいよ。君たちだけで行っておいで」


 ユーを置いて扉を開けて、地下への階段を下る四人。そして、そこにあったのは……檻のようなリングが中央に置かれた、まるで立食パーティーの会場みたいな部屋。そこにいる人間や亜人たちは、強欲そうな顔を晒した人物もいたが、一部の人間は仮面をつけていたりして正体がわからない。


 そして、リングでは血で血を洗う格闘技のような殺し合いが行われていた。レフェリーらしき人物もいて、武器は持っていないが、獣人と人間が殴り合っていた。それを酒を嗜みながら眺める者たち。


 そして、人間の顔に獣人のハイキックが直撃した瞬間、人間の意識が吹っ飛びレフェリーがすかさず止めようとするが、そのコールが告げられる前に顔面を踏みつけた。顔面が潰された。それに対し拍手をする悪趣味な連中。


「うわあ……」


「これは酷い」


 隠れながら、リナと共に吐き気を催すような感情に襲われる洋介。そして、担架ではなく台車で負けた人間が運ばれると、主催者らしき人物がリングに立つ。そして、大きな声で会場にいる者たちに告げた。


「えーみなさん、本日はお集まりいただきありがとうございました。それでは、本日のメインイベントへと参りましょう。本日、我が闇闘技場(ダーク・ファイト)の会場に、選りすぐりの闇の戦士たちを連れてきたスポンサーたちによる、トーナメントを行いたいと思います!」


 その言葉に、沸き立つ会場。そして、奥から運ばれてきたのは、水槽に浸かった一匹の魚人……まるで、水辺に咲く蓮の花のように美しく、イルカのような意匠を持つその女性の魚人。それに、チシャは反応した。


「妹だ……フィンだ! やはりここにいたのか……! アイツら……!」


「ちょっと、待ちなさいよ!」


 すかさず飛び出そうとしたチシャを止めるリナと洋介。今ここで出たところで、多勢に無勢なのは明らかだ。


「私はこの様子を後から来る騎士団へと伝えるわ。あなたたちは……」


「わかりました。チシャ、俺たちでフィンを取り戻そう」


「どうやって……?」


「俺たちも、このファイトに参加するんだよ」




 そして、奥からぞろぞろと貴族に連れられた、いかにも暴力しか取り柄がありませんと言いたげな野蛮人十六人が現れた。体は傷だらけ、筋肉は暴力的なまでに大きく、種族も様々。人間はおろか、獣人などもいて、中でも目を引くのは……。連れられた中で一番巨大な竜人。首輪をつながれ、轡もされておりいかに危険な存在かを物語っていた。それを従える仮面の男は、仮面越しでもわかるドヤ顔をしていた。


「えー、みなさん。本日はこの十六名を操る者たちが、この麗しき魚人をかけて戦います! もちろん、勝敗による賭博も随時行われておりますので、どうぞよろしくお願いします!」


 拍手が起こりそうになった、その時だった。


「ちょっと待った! その大会、私も参加させてもらおう」


 声がした方へ皆が顔を向ける。そこにいたのは、はちきれんばかりの体躯に無理やりタキシードを纏い、シルクハットを被ったオークだった。隣には、首輪と鎖でつながれ、ダイバーマスクのような鉄の仮面を身に着けた魚人。だが、司会者はうろたえる。


「あ、あの……大変申し訳ないのですが、すでに参加者は決まっておりまして……」


「そうだよ、邪魔しねーでくれねーか?」


 参加者の中で一番傷だらけの男が、オークに突っかかってくる。いかにも挑発的な態度をしている。


「そうか、すでに参加者は決まっているか、なら……」


 鉄仮面の魚人が、無言でグーパンチを傷だらけの男の顔面に浴びせた。一発で広い会場の壁に吹っ飛ばされ「あへ、あへ、あへ」と言葉にならない声を上げるだけだった。


「これで一人空きができたな」


 紳士服のオークがそう言うと、会場は歓喜に包まれ、主催者も大声で叫ぶ。


「途中参加決定ェ!」


 そうして、参加が決まった二人。実はオークは変身した洋介であり、魚人はチシャ。果たしてこの二人は、フィンを助けられるのだろうか。


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