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15「フィンの行方」

 魚人族の長エルホから、同胞の救助と娘であるフィンの救出を頼まれた洋介とリナ。そして妹を助けるべく強引についてきたチシャと共に、奴隷貿易の調査を行うのであった。


 怪鳥フランソワにスライムを変化させ、鋭い視線を周囲に走らせるリナと、血気にはやっているチシャを背中に乗せていた。空を飛んでいる洋介。凄まじい速度で流れる雲の合間、ずっと気になっていたことがあった洋介は、チシャへと尋ねる。


「ねえチシャさん、魚人族ってどんな種族なの? 魚人族の代表として教えてほしいんだ」


「なんだお前、タイクーン王国にいるのに魚人族のことも知らないのか? 潜りか?」


「ごめんなさい、この人どこから来たのか私たちにもわからないの」


「そうか、わかった。魚人族というのは……このタイクーン王国最大の水源、シーア湖を数千年に渡り守護してきた誇り高き一族。湖面に水草の浮島を編み上げ、水の恩恵と共に生きてきた魚と人間の特徴を併せ持つ水棲亜人」


「ふむふむ」


「魚などを中心とした食生活で、漁業を中心とした貿易で王国の経済を支えている。かつての王政時代には貴族から『鱗人間』と差別や迫害もあったが、セラ様が即位されてからは、我が里の魚介や水産品は王都の食卓に欠かせないものとなっている……セラ様には、一族全員が恩義を感じている」


「へー、そんな歴史と能力があるんですね。後でメモしておきますよ。それと、あなた方が住んでいる浮島や住居なんかも、スケッチさせてほしいですね」


「メモにスケッチ? なぜお前がそんなことをしたがる? お前は王立騎士団の雇われの身だろう?」


 チシャの質問に対し、リナが肩に手を置く。


「あんまり気にしないでほしいわ、このヨースケという男はテラリアの町や城などを熱心にスケッチしていたし、正直言って内面がわからないのよ。わかっていることは、なんにでも変身できる変な能力を持っているのと、驚異的なお人好しくらいね」


(……リナさん聞こえているよ)


 リナに対しジト目をしたつもりだった。だが洋介の顔は、怪鳥フランソワの胸部から前方に向かって突き出ている。背中に乗っているリナにその視線が届くはずもなく、洋介が睨みつけることができたのは、眼下に流れる複雑な水路と、底知れぬ鈍色の沼がパッチワークのように広がる大地だけだった。しかし、今はそんなことをしている場合ではない。


「で、リナさん。どうやって輩を見つける? また前みたく俺が囮になった方が良い?」


「そうね、やっぱり一番の手はそれかもしれないわ。適当なところで降りて魚人に変身して、奴らをおびき寄せた後に……」


 リナのその言葉に、チシャが驚く。


「魚人に変身!? コイツ、そんなこともできるのか!?」


「そうよ、これくらいなら普通にでき……」


 リナがそう言いかけた時、下からバリバリ、ドォンという音が聞こえた。リナとチシャがフランソワの背中から見下ろすと、向こうの池から電気が走っていた。それを見て、確信した。


「……どうやら、向こうが勝手に出てきてくれたみたいね」


「おそらく俺たちの同胞が賊にやられたのだろう。早く行け! 同胞を助けるのだ!」


 焦っているのか、怪鳥の背中を蹴り槍の柄で殴るチシャ。怪鳥フランソワを殴られても痛みはないものの、洋介はちょっと不満げ。旋回し放電があった地点へと急降下を開始した。風圧が背中の二人にかかる。




 一方そのころ、池には何人かの魚人がぷかぷかと浮かんでいた。白目をむいていたり、泡を吹いていた。彼らの体は不自然に硬直しており、時折ピクピクと細かな痙攣があるくらいだ。傍らには盗賊たちがいて、一人は雷を纏った槍を持つ者がいた。傍らには、謎の魔物につながれた、物がいっぱい積めそうなソリがあった。


「しかしまあよく効くな、この雷鳴の槍とか言われて渡されたた槍。池に突っ込んだだけで魚人たちが痺れて、まるで魚を取るみたいに楽に捕まえられそうだぜこりゃあ」


「さてと、こいつらもとっ捕まえて、中継地点の屋敷に……」


 すると、賊の上に影が落ちる。空の上から何かが落ちてきて、三叉槍を振るい雷鳴の槍を粉砕する。


「同胞たちに何をしているっ! この賊めぇっ!」


「ヒイイイイ! 槍がああ!」


「魚人が空から降って来たあああ!?」


 空から降り立ったのは、シャチのような魚人チシャ。槍を振るい賊を驚かせる。男たちは、槍が壊れたのと魚人に襲われたことに困惑し、ソリに乗って逃げようとソリへと走り出した……が。


「逃げようなんて思わないことね」


 上空から舞い降り、ソリを足で潰した巨大な怪鳥。縄でつながれた魔物も逃げ出す。怪鳥の胸には人間の顔が浮き出ており、不気味な雰囲気を醸し出している。そして、その怪鳥の背中から王立騎士団のリナが降りて、賊にレイピアを突き立てる。


「奴隷貿易の輩ね。逮捕するけど、その前にお前たちがさっき言っていた中継地点へと案内しなさい」


 だが、レイピアを突き立てられても盗賊たちは動じない。地面に座り、抵抗する様子も見せずに武器も捨てる。


「チィッ、こんな奴らに取り囲まれちゃもうおしまいだ! 無駄に抵抗したって意味ねえだろ!」


「往生際はわきまえているぜ! さあ煮るなり焼くなり好きにしろ! 情報は吐かないけどな!」


「コイツ……」


「ほう……煮るなり焼くなり好きにしろだと?」


 好きにしろ、その言葉にリナはどうしたものかと考える。槍を取ったチシャは賊に突き立てる。だが、洋介がそれを止める。

 

「そういうのダメだよ。こういうのはさ……もっと恐怖をあおる形にしないと……という訳でリナさん。ちょっと手荒になるけど、俺がやっていいですか?」


「いいけど、何するの?」


「まあ、背中に乗ってくださいよ」


 リナとチシャを背中に乗せると、怪鳥フランソワの足が賊を鷲掴みにする。そして、再び大空へと飛び上がる。


「うわあああ!? 何をするんだお前!?」


 洋介は小説で読んだ『悪党の脅し台詞』を思い出しながら、冷徹な声を演じてみせた。


「何って、このままお前たちに空から案内してもらうだけさ。案内しないなら……今すぐここでお前たちを『リリース』する。お前たちが地面に激烈なキスをすることになるぞ。このあたりは池がたくさんあるから、運よくそれに落ちれば助かるかもね」


「な、なにいっ! そ、そんなこと……やれるものなら……」


「やってみろってか?」


 フランソワの足が緩む。それに賊たちは慌てふためく。


「わ、わかった! 案内する! だから、落とさないでくれええ!」


「よし、オッケー。ただし、ウソの情報を教えたりしたら……」


「わかった! わかったから!」


 そうして、賊の案内通りに空を飛び、捕えた人間や魚人たちが集まっているという中継地点へと飛ぶ怪鳥フランソワ。だが、いくら事件解決のためとはえ、こんな非道なことをする洋介に、リナは驚いていた。


「……驚異的お人好しのくせに、案外えげつないことができるのね、ヨースケ」


「い、いやあ……昔本で読んだ小説に書いてあった、悪党のセリフをちょっと真似してみただけですよ。創作の基本は模倣ですから」


「あなた、一体どんな本を読んで育ったのよ……」


「まあ、少々手荒なことも必要だとわかっているのだろう」


 しばらく飛んでいると、館が見えた。あの時森の中で見たような、窓のない館。館の周りには、警備をしている人間たちもいる。


「どうやら、今回もアタリのようね」


「よし、降ろせ。俺が正面から突撃して、あんな奴ら……」


「チシャ、真正面から行くのは愚策よ。真正面で応対されて、奥から逃げられたりでもしたら……」


「いや、真正面から行きましょうよリナさん」


 洋介の言葉に、一瞬リナは驚く。チシャは突撃する気満々だが、リナは洋介に対し疑問を抱く。洋介がクチバシをカチカチと鳴らした。


「真正面から行くって……あなたもチシャにあてられたの?」


「いいえリナさん、正面突撃が愚策なのは『地上』の話です。俺たちは今空を飛んでいるんですよ? 空から正面突撃するんですよ!」


「ええっ、まさかそんなこと……!」


「下手に策を弄するより、突撃した方が良いこともあるんですよ!」


「このまま行く気か! 良いぞ、突っ込め!」


「ちょ、ちょっと……!」


 怪鳥フランソワは勢いよく急降下し、屋敷へと突撃していく。チシャは槍を構え突撃準備に入り、リナも慌ててレイピアを抜き始める。そして、屋敷の外で警備していた者たちも、いきなり現れた巨大な鳥に驚く。


「な、なんだあっ!?」


 驚いている間にドガシャアと音を立てて、怪鳥は屋敷の二階部分に激突し大穴が開いた。中にいたフードの男たちは、カードゲームらしきものをしている途中だったようで、いきなり現れ盗賊を捨てた怪鳥に驚き、対応が遅れる。


「魚人族一の戦士チシャ、ここに推参っ! 俺の妹を返せぇっ!」


 怪鳥の背中から飛び降りて現れたチシャ。三叉槍を振るい大暴れし、突っ込んだ部屋にいた男たちは次々にのされてしまう。それを受けて、他の部屋から出てきた者たちが魔法で作った火球や雷の球を飛ばしてくる。だが、チシャはそれにもきちんと対応する。チシャの足先から水が出てきて、まるで水面を滑るかのように床を滑って回避する。


「ううっ、魚人の水を操る技術『水操術(すいそうじゅつ)』かっ」


「水操術『波乗り』……この程度で、この俺を止められると思うな! そっちが雷撃を飛ばすなら……こっちは水を飛ばす!」


 チシャの掌に生成された水。手を思いっきり振るえば、その水はまるで弾丸のように飛んでいく。それが直撃すれば、フードの男たちも吹っ飛ばされた。


「水操術『鉄砲水』……! だが、俺の怒りはこんなものではないぞ……!」


 掌から水を生み出し、槍を振るえば槍に水が纏われる。魚人の水を操る術に、洋介は興味津々に見つめていた。


「凄い……! 魚人はやっぱり水を操る力を持っているんだ……これは良いネタになりそうだ……! あの流線型の動き、戦闘描写の資料として神すぎる! これだよこれ、こういうケレン味のある戦闘が描きたかったんだ!」


「無駄口叩いてないで、ここを制圧するわよ!」


「あ、はい!」


 リナや洋介も、大暴れするチシャに続いて屋敷で戦い始める。リナはレイピアを振るい、突きなどで戦う。そして洋介、いや怪鳥フランソワも。


「うわあああーっ! なんだコイツは!?」


「こいつは怪鳥フランソワ、大空の支配者さ!」


 ギュアッ! ギュアァッ! と怪鳥の体が鳴き、巨体で暴れたり、硬質化した羽を飛ばしたりして、羽をまき散らしながら敵を倒していく。。胸部から人面が出ている怪鳥に怖気づき、動けない者もいた。リナ、チシャ、洋介の三人に、奴隷貿易の中継地点はあっという間に制圧されてしまったのだった。


 その後、フードの男たちを縄で縛ったりなどして捕まえた。奴隷にされかけた人たちも救出され、魚人たちも多数いた。だが、チシャの妹らしき魚人はいなかった。それに激昂したチシャは、捕えたフードの男一人につかみかかった。


「妹のフィンはどこだ!? どこにいる! 言わないと俺の槍がお前の体を貫くぞ!」


「ひいいいやめろおお! 俺たちはただの預かり役だ! ひ、一人だけ……すごく美しい女の魚人が、いたんだ……そしたら、俺らの雇い主がこれは凄く金になるっていうから……闇闘技場の景品にしようって言いだして……すぐに別の場所へ運ばせちまったんだよ!」


「なんだと!? 俺の可愛い妹を景品扱いだと!? 許せん! その闘技場はどこだ!? 教えろ!」


「商業都市、ルスダの……町……」


「本当だな!? もし嘘を言っていたら……!」


「嘘じゃない! 嘘じゃないから!」


 仮面をしているにも関わらず、泣きそうな雰囲気を出している男を離す。チシャはリナと洋介に向き直り、槍を背中に背負う。


「リナ、ヨースケ! 今すぐルスダの町に行くぞ! 妹を助けるのだ!」


 血気にはやるチシャだったが、リナはパンパンと手を叩く。そして、神妙な顔をしてチシャの肩を掴んだ。


「急ぎたい気持ちは分かるけれど、ルスダはここからさらに遠いわ。まずはこいつらを騎士団に引き渡して、ちゃんとした情報を聞き出すこと。嘘じゃないとは言っても、それが嘘の可能性もあるわ。あなたにとって妹さんは大事なのかもしれないけれど、今はちゃんとした情報を得ることが大事よ」


「ぐう……」


「それに、そこへ速く移動する手段も……今はないしね」


 リナが洋介の方を見る。ここまでずっと怪鳥フランソワを維持していたが、ずっと空を飛んだり屋敷で暴れたりしたことにより、流石にもう限界が来ていたようで、輪郭がグニャグニャと波打ち始めていた。そして……。


「あー……たぶんもう無理かも」


 怪鳥フランソワは、ドロリと溶けて黒い粘液、元のスライムへと戻った。小山のようになっている巨大な黒いスライムから、洋介の顔だけが出ているという状態になった。


「こうなると、しばらくは巨大な魔物とかには変化させられないかも」


「そうね。前にスライム変化が解けた後も、その後しばらく服とかにしかできなかったからね。そういう訳だからチシャ、騎士団の尋問が終わるまで待ちましょう」


「ぐぐう……わかった」


 怒りをにじませながらも、騎士団の言うことに従うことにしたチシャ。その後、捕縛した男たちを睨みつつリナが呼んだ騎士団を待つ。その間洋介は、巨大な黒いスライムから、顔だけが出ているというシュールな光景のまま、沈黙に耐えかねた洋介が口を開いた


「チシャさんにとって、妹のフィンさんはとても素敵で可愛らしい妹なんですね」


「ああ、幼い頃からつきっきりで育ててきた、自慢の妹だ。花のように可愛く、目に入れても痛くない程に……だからこそ、俺は妹を助けたい。闘技場の景品なんて醜い物には絶対にさせたくない」


「そうですか。じゃあ騎士団が来るまで、妹さんの話を聞かせてもらえませんか?」


「ああ、いいぞ。とくと語ってやろう! あれは彼女が三歳の頃、湖の蓮の葉の上でだな――」


 さっきまで怒りに満ちた表情はどこへやら、嬉しそうな顔をしながら凄まじい熱量でフィンの幼少期の愛くるしいエピソードについてこんこんと語るチシャ。その言葉はノンストップで放たれ、軽い気持ちで聞いたことを洋介は後悔した。


「……ねえ、ヨースケ」


「……はい、リナさん」


「……あなた、なんであんな質問しちゃったのよ」


「……軽い気持ちだったんです。本当に、すみませんでした……」


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