陽織、いつまでも一緒
2学期が始まり、いよいよクラス全体が受験ムードになってきた。術者が集まるSクラスば、家族や周囲からも勉強もできて当たり前、と思われている人が多い。
それだけに、プレッシャーは半端なかった。
「湊人ー、お前地獄のサマースクール、サボりやがって!ずりーぞ。」
翔太や宏輝に肩を組まれて、声をかけられた湊人は、すごくうざいものを見る目になっている。
「うっせー、俺は夏休み、1日も休んでねーんだ。絡んでくるな!」
と、イライラをぶつけ返していた。
予備校最終日の昨日、模試の後、陽織は黎人が迎えにきてくれた。
いつもならまっすぐ家に帰るが、黎人が少しだけ遠回りしてくれた。わずかな時間でも、陽織にとっては精神力と霊力回復になる。
特に陽織は、7月の期末試験明け、体重が33キロを切って、神鬼のところで倒れた。
睡眠不足とプレッシャー、ストレスによる胃痛と過労だった。しかし、当時司法試験を目前に控えた黎人には話せなかった。
そしてやはり後で他から聞いた黎人は、すごく自分を責めていた。だから話さなかったのに。
今は35キロまで回復したが、これからが本番なので、できればもう少し体力が欲しい。
以前は体力だけは自信があったのに。
そんなことを車の中で話しているうちに、涙が出てきた。体力、霊力、精神力、その全てが、受験を乗り切るためには不足している。
それなら、と黎人は車を神明神社の駐車場に入れ、陽織に何度も口付けをした。
「神聖な場所で、神様から口付けをされる。きっと陽織の霊力と精神力を上げてくれるよ。」
黎人が笑って言った。
陽織はそんな黎人の胸に縋って、頭をクリクリとすり寄せた。すると、また黎人が何度もキスをしてくれた。
「もう少しだよ。陽織。僕がついているからね。」
優しく黎人が笑った。
陽織が前の晩のことを思い出していると、羽織が
「何か良いことあったの?」
と聞いてきた。
急に声をかけられて、陽織はビクッとした。
「な、なんで?」
「んー、幸せそうな顔をしていたから。」
「うん、ちょっと。」
と、言葉を濁した。
始業式の日、午後から補習がある。
陽織は仲良しの3人に声をかけて、一緒にお弁当を食べた。
「ウワーッ、4人揃って久しぶり!」
千織がすごく喜んだ。美織も、ニコニコしている。
久しぶりの楽しいお昼に話すべきか、陽織は迷った。そこで、良い話を先にする。
「あの、みんなにお願いがあります。3月3日に結婚式をあげます。どうか、出席してください。」
陽織が頭を下げると、3人はポカンとした。
「え?なんで頭下げるの?」
「お願いなんて、当たり前じゃない!」
「絶対、絶対出るよね!」
3人は嬉しそうに言ってくれた。
「あ、と、、えと、千織ちゃんは知ってるんだけ、ど。わたし、その、神様に、なりました。」
その瞬間、美織の顔色が変わった。
「なんで、千織は知ってたの?」
羽織が驚く。
「え、と。黎人さんたち神代三兄弟の、誕生会の日、だったから。」
2人はすぐに察してくれた。
「なんか、陽織ちゃんが、演歌歌手みたいだった。」
?
?
千織の表現に2人は不思議顔になる。
陽織もハテナ顔だ。
「あ、えと、キラキラしてたって言うか、ピカピカしてたって言うか。」
千織の表現に、2人は
「実物を見たかった。」
と感想を述べた。
うん、確かに難しいよね。
「千織ちゃん、文学部だよね?大丈夫?」
美織が心配になる。
「な、わたしは、英文学だから。」
いや、和訳とかもあるだろ。と、みんなツッコミたかった。
「なんか、身体の調子とかはどうなの?」
「別に、普通だよ?前よりも霊力は多い、とは言われたけど。自分では、わからない。」
「跳ぶ、とか、消える、とか。」
「もう、前にもあったから、珍しくないよね?」
と、羽織が言ったので、他の2人も、あー、となった。
「でも、もう陽織は、わたしたちと同じように、年取らないんだよね?」
「う、ん。」
そのあと、予鈴が鳴ってしまい、結局話は途中で終わってしまった。
学園祭の日、高3は普通に授業というか、補習がある。湊人が最後の生徒会の仕事で抜けたので、Sクラスの医系古文は、今湊人待ちで、学食でお昼を食べている。そして、なぜか大神も一緒だ。
陽織たちがお弁当や学食メニューでお昼を食べているところ、大神はコーヒーを飲んでいる。
「なあ、陽織?おまえ黎人と、卒業したら結婚するんだって?」
???
突然、大神に聞かれて、陽織は吹き出しそうになった。
「大丈夫か?そりゃあお前が花嫁だから、いずれそうなるのはしょうがないけど。あの、黎人だぞ?」
と、大神が聞いてきた。
あの、黎人?
「?紳士な黎人さん、ですよね?」
陽織が聞き返すと、大神は、目が点になっていた。
「それ、悠人の間違いじゃないのか?」
「え?黎人さんって、紳士ですよね?」
そういえば、大神は黎人の担任でもあった。
「黎人さん、優しいですよ?」
「あー。まあ、そうか。」
なんとなく歯切れが悪い。
「まあ、そういう意味では、紳士かもなー。まあ、頑張れ。お前なら、たぶん、大丈夫だろー。」
何が?大丈夫?頑張るの?
その時湊人が来たので、結局、何を言いたかったのか、陽織にはわからなかった。
湊人は最後の生徒会の仕事を終えて、クラスメイトと合流した。
「生徒会も、もう少し早く引退すべき、だよな。」
「今までの会長、みんなもっと余裕があったからじゃね?薬学部だったら、湊人だって余裕だったよな。」
翔太に言われて、渋い顔をしている。
明王は私学なので、およその理系は英語、数学と理科二種物理、化学か、生物、化学。
しかし、医学部だけは、英語、数字、理科は三種、生物、化学、物理と国語、小論文。科目が一気に増えたことが、湊人と陽織が今余裕がない原因なのだ。
しかも、国語には古文がある。
あの、古文だ。
だから大神が、医学部クラスだけの古文を別に授業をしていた。
学園祭の翌日は一般の授業は休みだが、医学部受験組だけは補習があった。
それは他のクラスも同じで、学年で10人だけ、部活以外の生徒が登校していた。
陽織も、湊人も、翔太も最近はその生活に慣れてきたのか、明日は補習、と言われても何の疑問も湧かない。
むしろ、早く帰れる、と知って今日は少しホッとしている。午前で帰れるので、陽織と湊人、翔太は久しぶりにみんなを呼び出し、近くのファミレスに集まった。
千織や羽織、美織も受験生なのに、やっぱり全然会えないのが寂しいのか、すぐに飛んできた。
「うおー、陽織ー!」
羽織が抱きついて来た。
「もうもう、陽織ちゃんの話途中だったから、すっごく気になってたんだよー!」
美織も陽織の手を取って、ブンブンと振る。
大人数なので、とりあえず男子と女子に別れ、陽織たち女子4人は同じ席に座った。
3人はお昼も取らずに来てくれたので、みんなでご飯を注文し、例の話の続きになった。
湊人は知ってるけど、他にはまだ知られたくないので、防音結界を張る。
この作業も慣れたね。
と、千織と笑った。
「で、本当に年取らないの?」
美織が一番聞きたいことをズバッと聞いてきた。
まあ、それが一番気になっていたのだろう。
「うん。神鬼先生にも色々教えてもらったのだけど。黎人さんは、自然と20歳の頃からほとんど変わってないんだって、とは言っても、まだ1年だけどね。普通の人でも、そんなに変化ないよね。わたしは、今は年相応だけど、たぶん18歳くらいのまま、止まるかもしれないって。」
3人は複雑な顔をする。
その時、注文の品が届き、みんなでそれぞれ自分の前に揃えた。
「陽織、カニグラタン?」
美織が何かを思い出したように笑った。
「あの時は、びっくりしたなー。陽織、宙に浮いちゃったんだもん。」
競技場の元宗教跡地を浄霊した時のことだ。
「実は、あまり覚えてなくて。」
すると、急に美織が泣き出した。
滅多に涙を見せない、いつも凛とした美織が。
「やだ、よ。」
?
「陽織ちゃん、と、、時間、同じ、じゃないなんて、嫌、だよ。」
と涙を流し出した。
すると、千織や羽織も、つられて泣き出した。
陽織だけが、下を向いて涙を我慢していた。
「え、とね。年は取らないけど、ちゃんと大学行くし、就職もする!結婚もするし、子どもも。だからちょっと若く見える童顔のママ友だと思って、また友だちになって!」
陽織が言うと、美織があ、と言う顔になり、泣き笑いした。
「うん!わたしも和嶺様が国試受かったら、結婚して!って言う。そしたら、1人くらいは同級生の親になれるかも。」
「わ、わたしも。湊人くんが、その大人になったら。」
千織の大人、と言う言葉に、みんな笑ってしまった。
「うん、確かに湊人はまだ大人じゃないね!」
「ハオちゃん、ひどい!」
「そうだね!ずっと、わたしたち一緒、だよね!」
美織がそう言った時、突然、翔太と湊人がそばに来た。
「なあ、何で防音結界なんて、張ってんだ?」
「ちょっと翔太!中に入らないで!」
「内緒話なんて、ずりーぞ。」
「湊人くんも、女の子の秘密の話に、入って来ないで!」
2人は、女子4人に怒られた。




