陽織、夏期講習
今年のお祭りは、黎人も湊人も手伝えない、と言うことで、悠人もパスした。
祖父はすごく残念がっていたが、孫たちが頑張っているのを知り、諦めてくれた。
神嶋は、以前から受験生にはちゃんと対応してくれる。しかし、その下の代が全く使えないと、ぼやいていた。
仕方ない。湊人たちの代を最後に、龍を使役する術者はいない。一番時間が取れる悠人と祈梨が呼び出されることが多く、それがきっかけで、以前よりも2人の距離がしっかり近づいていた。
中間試験が終わった後、高3は最後の三者面談があり、陽織の母は進路についても納得してくれていた。
陽織と黎人は、どうしても会いたい時、白桃に願ってほんのちょっとだけ会った。
でも、キスだけにして別れた。それ以上は我慢!
7月。黎人の本試験が始まる。
陽織と湊人は、GWに通った予備校に夏休みも通うことにし、学校のサマースクールを断った。
「え?湊人も陽織も行かないの?」
翔太と羽織は、寂しそうだった。
「うん、予備校行く。長野への移動時間も惜しい。」
湊人に言われ、千織もショックを受けていた。
「ごめんね、美織ちゃん、千織ちゃん。なかなか会えないのに、夏休みも会えないなんて。」
陽織にいわれて、2人は首を横に振った。
「それだけ陽織ちゃんも湊人くんも本気で頑張っているんだもの!わたしたちも、頑張るよ!」
美織に言われて、陽織は抱きついてしまった。
何があっても友だちだよ。
そう言ってくれた美織に、あのことを話したかった。
でも、今はその余裕がない。
「受験生って、こんな大変だったんだー。」
湊人が予備校の机に突っ伏してぼやいている。
「兄様たちの時、わたし何にもできなかった。」
今、また2人は兄たちに予備校の送迎をしてもらっていた。
司法試験が終わった黎人も、送迎を手伝うことなり、また時々、陽織の兄と入れ替わっては陽織に元気をくれる。
それを知った湊人が
「良いなー陽織ー。俺も千織に会いたい!」
と言う。
「わたしで我慢しなさい!」
と返すと、
「じゃあ、代わりにキスして。」
と、陽織に抱きつく。
それを陽織に殴られる。
そして、黎人にも怒られる。
そんなことも、数回あった。
それを知った母が
「どうして湊人くんじゃなくて、黎人くんだったのかしら。」
とぼやく。
「どうして?」
と聞いたら
「湊人くんの方が、ラクだったじゃない。」
と言った。
しかも、父まで
「湊人だったら、同じ医学部でちょうど良かったのに。」
と言い出した。
はっきり言って、この2人うざい!
湊人はと言うと、予備校の休み時間に
「千織分が足りない!」
と叫ぶので、陽織はほらほらとスマホの動画を見せた。千織が湊人の応援用に送ってきたものだ。
夏期講習の最終日、予備校でオープン模試が行われた。
2人の成績は毎回、一進一退。まあ、そんなものだよ、と兄たちにも言われた。
この予備校は、上の兄高嶺が4年前、現役時代に通っていた。今だから、と高嶺は、その頃受験で苦しんでいたことを話してくれた。
陽織がスケートに夢中になっていた頃だ。
陽織は2人の兄は楽勝で医学部に入ったとずっと思っていた。
特に、下の兄和嶺が、比較的余裕だったのを知っていたため、てっきり高嶺も、そうだと思っていた。
そう言ったら高嶺が笑った。自分は全然余裕がなくて、よく父にも叱られていたと。その時に、今の予備校を父に勧められたと言う。父の大学時代の友人が始めたこの予備校を。




