陽織、神様になる?
お風呂から上がると、湊人は自分の部屋に帰っていた。陽織がお風呂に入っている間に黎人もシャワーを浴びたらしい。
「陽織?」
黎人が戻ると、陽織はベッドの中でウトウトしていた。
「疲れたのかな?」
黎人は、陽織の頬にキスを落として灯を消した。
朝、陽織が目を覚ますとまだ5時前だった。
隣りには黎人が眠っている。
昨夜寝落ちしちゃったんだ。
陽織は、フッと笑うと黎人の頬に唇を落とす。
「ハッピーバースデー、黎人さん。」
すると、急に抱きしめられ唇を奪われる。
「ありがとう、陽織。おはよう。」
びっくりして、陽織は後ろ手に倒れそうになった。
そのまま、黎人が陽織を抱き止め陽織の上に覆い被さるように、倒れた。
「ちょうど良い。陽織分、補給だね。」
それから、2時間ほど。
2人はいつものように、肌を合わせて、互いの温もりを感じていた。
すると、陽織は身体がいつもよりも、何か様子が違うことを感じる。熱くて気持ちよくて、うっとりして、震えてしまう。それも、いつものとは違う、自分の身体全部を、包み込むような心地よい感じ。
その様子を見た黎人が、目を見開く。
「ひ、おり?」
「う、あーっ!」
陽織は何かに包まれたまま、気を失った。
その身体が、まるで白い光の粒子に溶けるように消え、そして、また現れ、背中に天使のような羽根が見えたような気がした。
羽根が消えると、陽織は身体全部から白い光を放っている。
見ると、陽織の胸の龍の痣がくっきりと姿を現した。
「!」
黎人は気づいた。たぶん、陽織が自分と同じヒトではなくなったこと。
「これが、神様の花嫁。」
しばらく呆然としていたが、とにかく陽織の意識を、と、陽織を呼び続ける。
すると、陽織がうっすらと目を開けて、とても幸せそうに笑う。
陽織は、徐々に意識を取り戻したが、全身から放つ光は消えない。
意識を戻した陽織は、自分の身体が光っていることに気づき、うわっと手足を振った。まるで、手や足に光る虫か何かが止まっているのをはらうように。
「う、うえっ、うわーん、うえーン!どうしよう、どうしよ、黎人さん。わたし変!光ってる!なんでー?気持ち悪い!」
時計を見るとまだ朝の7時過ぎだ。神鬼に電話するには早すぎる。
とにかく、と陽織に服を着せて、母屋に急いだ。
自分の両親なら何かわかるかもしれない。
「れ、黎人、さん。わたし、なんか、蛾みたいー!やだー、やだ、気持ち悪いー!」
陽織は泣いている。
2人がキッチンに行くと、美咲と湊人がいた。
「おはよう、珍しく遅かった、」
美咲がそこまでいって、固まった。
ん?と湊人が振り向き、陽織をみて、顎がはずれるくらい、びっくりしている。
「な!?」
父が奥から出てきた。
「これは?」
「わ、わたし、なんか、ピカピカして、気持ち、悪いー!」
と陽織が泣く。
わんわん泣く陽織をささえて、黎人はまだ早いと思ったが、神鬼に電話をかけていた。
「あ、すみません!朝早く。実は陽織が!」
それから1時間。とりあえず様子を見ろ、と言うことだったので、陽織は目立たないように服の上から、タオル毛布をかけてくるまっている。
「え、と。一応神鬼先生が言うには、たぶん陽織が神格に挙げられたのでは、と言うこと。で、半日もすれば、光は収まるって。」
「神格?」
「うん。陽織が僕と同じになった、って言うこと。」
黎人がそう言うと、陽織は少しずつ落ちつく。
「黎人さん、と、同じ。」
「で?光が収まるなら、いいんじゃね?」
と、湊人はいつもの通りだ。
昨年同様、そのうち悠人と祈梨が帰ってきて、千織もやってきた。
3人も陽織の姿を見てびっくりしている。
千織とは、なかなか話ができず、久しぶりに会うのを楽しみにしていたのに、陽織はちょっとショックだ。
全員が揃ったところで、美咲がケーキを出し、みんなでご馳走を食べているうちに、陽織の身体の光も、徐々に薄くなり、午後にはすっかり消えていた。
光が消えると、陽織は自分の身体のあちらこちらを広げて、もう光ってないか確認していた。
良かった。
後片付けが終わると、リビングでは悠人と祈梨、湊人と千織がくつろいでいた。
陽織がエプロンをはずして、黎人の隣にちょこんと座る。
「もう、光って、ない?」
陽織が湊人に尋ねている。
「うん、大丈夫。」
黎人に言われて、陽織はほっとした。
でも、気をつけてくださいね。
これからは、いつでも子どもができる
可能性がありますから。
黎人は神鬼の言葉を思い出した。
黎人は、陽織を横から抱きしめてギュッとする。
陽織はこれからもっと忙しくなる。
黎人も、昨年司法試験予備試験を合格し、今年の夏本試験に臨む。卒業のため、残った単位も片っ端から取っていた。
しばらくは会えないかもしれない。
そう思うと、神鬼の言葉が気になりながらも、黎人はどうしても、陽織をいま、抱きたかった。
陽織は、黎人に脇から抱きしめられながらも、千織とおしゃべりしていた。学校のこと、受験のこと。美織や羽織、お互いなかなか会えない、友人のこと。
焦った黎人は、陽織をどうしても独占したくて、ちょっと意地悪をしたくなった。
「陽織、僕にプレゼントは?」
あ、と陽織が下を向く。
「ご、ごめんなさい。その、忙しくて、用意、できなかったの。」
(うん、知ってる。)
「じゃあ、陽織が欲しいな。」
え?みんなが見てる前で?と、陽織はギョっとした。
陽織は、目をつぶって、黎人にチュッと、軽くキスをした。
もう、人前なんて、恥ずかしい!
すると、黎人がお返し、と陽織に息が止まるくらいの濃厚なキスをしてきた。
手は服の上から、陽織の胸を触っている。唇が陽織の首筋に触れて吸い付く。
「やっ。」
陽織は、みんなに見られていることが恥ずかしくて、黎人を離そうとするが、離れない。
「陽織、陽織をもらって、良い?」
目を合わせて、黎人が呟いた。
「ここは、はずか、しい。」
なんで、こんなところで!
「じゃあ、ベッドに行く?」
そう聞かれて、陽織は小さくうん、とうなづいた。
黎人はそのまま陽織をお姫様抱っこすると、4人に
「じゃあ、」
と言って、自分の家に陽織を連れて行ってしまった。
その様子を見ていた4人は、完全に固まった。
「?何、今の?」
祈梨が、悠人を見る。
「え、と、たぶん、2人きりに、なりたかった?」
「で、でも、その、陽織ちゃん、昨日から、いたんで、しょ?」
千織が湊人を見る。
「んー、昨日はずっと2人で、勉強していた、みたい。」
だからと言って、なぜここで?
「陽織分が、足りない、から?」
しばらく、4人は無言だった。すると、
「あ、そうか。」
と、悠人がクスッと笑って言った。
「黎人は、陽織ちゃんから、あの言葉を引き出したかったんだよ。たぶん。」
ベッドに行く?うん。
強引に連れて行っても良い。でも、同意が欲しい。
そこに、美咲が入ってきた。
「あれ?陽織ちゃんは?」
「あ、黎人がベッドに連れてった。」
悠人が答えると、美咲がちょっと怒った。
「もう!披露宴のドレスの話、したかったのに!3回もやるから、きちんと何回も打ち合わせしておきたい、って言ったのに!」
4人はさらに固まる。
「3回?」
「披露宴?」
「3回もやるの?」
「そうよ!悠人と湊人も、全部出るのよ!」
美咲が言うと、
「えーっ!?」
と2人は声を上げた。
「別に、あんたたちは礼服だから、気にすることないわよ?」
いや、そう言う問題では。
「あの、もしかして、悠人さんたちも?」
祈梨が恐る恐る尋ねる。
「あー、悠人は多くて2回?十神家はやらなくて、良いわよ?」
「あ、あの、湊人、くんは?」
「湊人は千織ちゃんの家のことがあるからやらないと。でも、会社関係はやらないでしょう?」
と、美咲がサラッと答えた。
つまり、他も2回はやると言うこと?
「千織、俺たちも部屋へ行こうぜ。」
湊人が千織の手を引いて立ち上がると、千織がピクッとした。
「あ、やんないやんない!黎兄みたいなことは、しないから!」
と、湊人は慌てた。
くっそー!あの2人のせいだ!
悠人も祈梨を連れて自分の部屋へ行き、下の階は静かになった。
「もう!」
美咲が1人で怒っていた。
あれから数時間が過ぎた。
陽織は思った通り、どんなに霊力を注いでも霊力過多にならない。
むしろ気持ちよさそうに、うっとりしている。
今まで以上に、陽織の霊力が上がり、身体を繋ぐたびに2人は幸せな気持ちになった。
陽織がいつものように、眠ってしまうこともない。
これは、明日から何ヶ月も会えない方が
辛いかも!
だからと言って、陽織が頑張っている以上は、黎人も中途半端な覚悟で3月を迎えたくなかった。
明日はお互い学校だ。
そろそろ陽織を送って行かないと。
そう思ったころ、陽織にしばらく会えないことを伝えた。
「そ、だよね。黎人さんも、わたしも、これから忙しく、なるし。」
陽織は黎人の胸に、おでこをクリクリとくっつける。
「陽織が頑張ってる間、僕も頑張る。陽織が大学合格したら、ちょっと早いけど、ここに一緒に住もう。もう、ほんの少しでも、離れたくない。」
陽織はちょっとだけ泣いて、そして笑った。
「はい。」
そして、しばらく会えないことを惜しむかのように、何度も何度もキスをした。




