陽織、本気の入試!
とうとう100話です。
陽織たちも、高校3年、いよいよ入試が始まります!
10月の初め、まずは内部推薦の入試が始まる。
内部というのは、陽織たちがいる本校だけでなく、関西や埼玉、神奈川、仙台の姉妹校も含む。
しかし、推薦入試はSクラスは該当しない。
そして、10月中旬から文系学部、理系学部の順で内部生の入試が始まった。
千織、美織、葉鳥、克哉と、まずは文系クラスから、順当に合格を決めていく。
その後、羽織と陽織は管理栄養士学科の合格を決めた。
残るは、医歯薬学科。
医歯薬学科は試験が同じ日なので、併願はできない。
羽織は管理栄養士がダメだった時のために、看護学科にも、エントリーだけでしていた。
しかし、管理栄養士が合格したので、今日は来ていない。
薬学部の宏輝は、別会場にいる。
陽織たちは医学部の入試会場となる教室に入った。
17番神代湊人、18番神月陽織、19番菅原翔太。と縦に並ぶ。
陽織が机の上に受験票と筆記用具を置き、神明神社のお守りを握る。
「あ、それ陽織も黎兄から受け取ったんだ。」
前の席の湊人が、後ろを向いて話しかけてきた。
陽織は昨夜、学校の帰りに黎人が迎えに来た。
そのまま、家の前に着くと、このお守りをもらい、そして黎人から頑張れの言葉の代わりに黎人らしいエールをもらった。
「久しぶりにさ、兄上の本気を見たんだ。」
湊人がいつもより、大人びた顔で話す。
「兄上がこれ買ってきた日、神棚に上げて、次の日の朝、正装で御神酒もあげてた。」
「正装?」
「ほら、お祭りの神事を執り行う時に着てる白い着物と袴。」
その後、湊人は美咲と連夜に神棚がある部屋の後ろに座らされたという。
すると、神棚の前て、黎人が神棚に向かって拝礼し祝詞をあげ、最後に柏手を打つと、神代の屋敷全部に、まるで神域になったような空気が流れたという。
あんな、ことは本当に初めてかもしれない。
そして、黎人はお守りの一つを湊人に、もう一つは自分の懐にしまった。たぶん、もう一つは陽織に渡すんだな、と思ったそうだ。
「そう、なんだ。」
陽織は黎人の神力と霊力の両方を感じるお守りを握った。
「たぶん、俺たちが全力で頑張れるように、って言う願いが込められているんだと思う。」
すると、陽織は不思議と教室に入った時に感じた緊張感が、心地よいものに変わっていた。
午前は英語、国語、数学。
英語は得意な陽織。だからと言って油断は禁物!しかも、内容は専門的な英文が多い。
以前、高嶺から読まされた、アメリカの生活習慣病についての長文もあった。
2時間目は国語。
文系と違い古文はさほど出題されてはいないが、やはり油断ならない。
現代文は陽織が一番苦手な小泉八雲。彼の作品はその背景を考えると、陽織にはキツかった。絵がない物語の背景をイメージして読むのが好きなだけに。
もっと、綺麗な田園風景とかが良いよー。
ぎぼぢ悪い。
そして3時間目は数学。
午前の科目では、一番力を入れた教科だ。
陽織にとっては、これも得意分野だ。
お昼休み。
3人は一緒にお昼をとった。
陽織のお弁当は、母考案のvictory弁当。
なんでも、高嶺、和嶺の時と同じメニューだとか。
「陽織、国語大丈夫だったか?」
付き合いも長くなると、湊人にはお見通しだった。
「うん。無心で解いた。でも、古文は知っている話しだし、好きなところだったから。」
「あ、車折神社の!」
そう、源氏物語に出てくる、車争ひ縁の神社、車折神社は陽織が好きな神社の一つだった。
「さてと、午後は理科と小論文!もう一踏ん張り、頑張ろー!」
湊人がそう言って立ち上がる。
理科は難なく終わり、最後の小論文。
テーマを見た途端、陽織はアッ、と声をあげそうにぬる。初めて黎人に論文の書き方を教えてもらった時にも話した、高齢者医療と予防医療。
陽織はあの時の記憶を一つ一つ、丁寧に思い出しながら、書き上げた。
午後4時。
「終わったー。」
受験生の誰もが、緊張感から解き放たれて立ち上がって、伸びをしている。
中には、自分の力を発揮できなかったのか、泣いている人もいる。
悔しそうな人もいる。
「今年の問題、過去問より難しかったよね。」
同じ高校の出身者同士で、答え合わせをしている者も。
「翔太はどうする?まっすぐ帰る?」
「ん、もう寝たい。」
あ、わかる!
2人も思わずうなづく。
陽織は一刻も早く黎人に会いたかったが、それより早く休みたかった。
そのまま会場の教室を出ると、高嶺と和嶺がいた。
その姿を見て、湊人と翔太は手を振って帰って行った。
「兄様ー!」
陽織は、2人に抱き止められる。
「陽織ー。お疲れー。」
「うー、もう死ぬー。」
2人の兄が、ヨシヨシと陽織の頭を撫でていた。
「今日は僕、もう講義終わったから、一緒に帰ろう。」
和嶺がフラフラな陽織を支えてくれた。
「車じゃないよね?」
「?普通に徒歩だけど?」
「陽織ー、医学部キャンパスは家から徒歩8分!近くて良いぞー!」
なぜか高嶺が嬉しそうだ。
いや、何が良いのだろう。
陽織は、高嶺が悪徳不動産屋に見えてきた。




