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陽織、死活問題

黎人は頭を抱えていた。

陽織が家出してきた。

去年も色々あったから、内容は聞かなくてもわかっている。

お正月の時、高樹の様子を見て、認めてくれたのかな?と思っていたのに。


「医学部かー。」

黎人は、うーん、と悩む。

もしかして、自分が医学部か医者じゃないのも、気に入られない原因かもしれない。

そう思うと、行けばよかった?と一瞬だけ思う。

しかし、それには時間が足りなかったので、仕方ない。しかも、経営者になりたいのだから、畑違いだ。


そして、蓮也と美咲も同じだった。

「高樹はなー、昔から医学部第一主義みたいなところがあったから。」

「そうねー。人の命を助ける仕事こそ、仕事の中の仕事!医師、消防士、自衛官、警察官!てね。」

「マスコミと金融、弁護士は、大嫌いだったなー。他人の弱みで生きている、って。よく天神さんの娘を高嶺くんの巫女に認めたよ!ワハハ。」


「梓沙さん?」

「だって、天神はマスコミ大手だもの。」

父の友人の蓮也、母の親友の美咲は、陽織が知らない両親のことをよく知っている。

「私は経済学部と薬学部の両方を卒業したけど、高樹は法学部なんて、バカでも行ける!ってよく言ってたよ!」

蓮也はワハハと鷹揚に笑う。

   父様‥‥。恥ずかしい!


「お、湊人。お前薬学部やめて医学部受けろ!」

蓮也は夕飯中の湊人に言った。

「医学部も薬学部も、あんまり変わんないだろ?」

「はあ?なんで俺が医者なんかに!」

「あら、昔から製薬会社の研究室って、医学部卒も多いわよね。現場の医者もいいけど、研究をしたいって。」

「ウチの主任も、確か医学部だぞ?」

初耳だったのか、湊人は、急になるほど、と言う顔で考えだした。


「でも、なんで陽織はそんなに医学部嫌なんだ?別に医学部行ったって、結婚すれば良いじゃん。」 

そう。理屈的にはそうだ。

たぶん黎人だって、それは許してくれるだろう。でも、と考えた途端、気分が悪くなった。

「何?どうしたの?」

「もしかして、悪阻か、悪阻!」

   なんで、そーなる!バカ湊人!


「いえ、わたし、解剖、無理!」

「あれ?でも廃病院の時?」

「あ、思い出させないで!黎人さん!やめて!嫌いになりますよ!無理無理無理!生理的にそう言うの、無理なんです!」


少し落ちついた頃。

「それ、お父様に言った?」

「以前、言いました。そしたら、大丈夫!慣れるからって、うっうっ。」

陽織はもう涙目だ。


「どちらにしても、こちらが先走っていたのは事実。花嫁が見つかり、2人が約束したから、それで良いと思っていたが。一度きちんと神月の家に、挨拶に行くべきだな。」

蓮也が美咲に話している。

とりあえず週末、黎人の両親は、正式に神月家へ挨拶に行くことにした。


陽織は父から変な誤解をされるのも嫌なので、神代家の客間に泊めてもらうことになった。ここで、黎人の家に泊まったら後で何を言われるか、わからない。

本当は黎人のそばが良いけど。

美咲は陽香が心配するといけないので、陽織を預かっていることだけは連絡した。


翌日から週末まで、陽織はとりあえず神代の家から学校へ行く。


もちろん、湊人が嫌がるので、一緒には登校しない。放課後、陽織は大神に呼び出された。

どちらだろう。

進路のこと?それとも。


職員室にいた大神は、ちょいと陽織を隅にある応接スペースへ連れて行った。

「お前、医学部、受けるだけ、受けないか?」

  え?

「まあ、たぶん、アレは親が強制的に書かせたのだろうが。」

「だったら!」

陽織は、立ち上がった。

「だからだよ!どうせお前、行きたくないんだろ?」

   なんだろう。ドキドキする。

「学校だって、医学部合格+1は欲しい!担任の俺もな!業績になるんだ!へへ。ボーナス上がるかも!」

大神は、陽織の負担にならないように、受験を促してくる。

   やだなー、大神の手のひらの上って感じ。

「でも、そうしたら推薦は。」

「は?Sクラスは元々学内推薦ないぞ。どの学部も。年内の学内受験はあるが。」

「そうなんですか?」

「お前、和嶺から聞いてないのか?内部生は外部より、推薦だけじゃなく、一般も早くにあるんだ。それがダメな時に、外部一般でもチャンスがあるように。もちろん、そんなに甘くないけどな。」


「和嶺といえば、お前今どこにいるんだ?」

ん?なに、その、わたしホームレスみたいな?

「黎人さんのところですけど?」

「はあ!?ま、まじ、か?」

「え?いや、神代の客間に。え?えーっ!?

いや、わたし、黎人さんと寝てませんよ!!!」

陽織の声が、職員室にこだました。


「本当、めんどくさい奴ら。」


日曜日。

黎人と黎人の両親が、陽織の家に来た。


「ごめんなさい、陽香、突然押しかけて。」

「良いのよー。陽織のこと、ありがとうね。ほら、あなたも早く入って、着替えてきなさい。」

陽織は3人よりも先に家に入ると、自分の部屋で着替えた。


応接室には、高樹と陽香、蓮也、美咲、黎人が座っている。隣のリビングには高嶺と和嶺もいた。

陽織は、6人分のお茶を盆に乗せて、応接室に入った。


お茶を全員の前に置くと、母の隣に腰掛ける。

「高樹。いや、神月さん、お宅のお嬢さん、陽織さんを息子黎人の嫁として、ぜひいただきたい。」

「よろしく、お願いします。必ず、陽織を幸せにします。」

蓮也と黎人が続けて頭を下げる。それに合わせて、美咲も、頭を下げた。


父は何も言わない。

ただ黙って、3人の姿を睨みつめている。

以前、黎人が同じことを言った時も、そうだった。


「陽織は、娘は、神様の、嫁にはさせない。」

静かに高樹が言う。

   どうして?だって決まってること

   なんでしょ?

   わたしは、神様の花嫁だって。

陽織の目から、涙がこぼれた。


「ただ、一人の男として、黎人くんが、陽織を欲しいと言うなら、考える。」

黎人と蓮也の顔が上がる。美咲も。


「とう、さま?」

「そして、陽織。一つ条件がある。」

   条件?

「医学部に合格すること。行かなくても良い。」

   え?

「本当に?」

「約束できるか?」

「はい、ありがとう!父様、大好き!」

陽織は父の首に抱きついた。

一体、いつぶりだろう。

娘から、こんなふうに抱きつかれるのは。

高樹は思った。


その後、和嶺と高嶺も含めて、一緒に食事をした。

「もう、どうなるかと思っちゃった。」

陽香と美咲が2人で笑い合う、

「そうよねー。もうウエディングドレス、注文しちゃったしー。」

父たちも、なんだか楽しそうにしている。

「でも、陽織大丈夫?医学部本当に受けるの?」

和嶺が、茶碗蒸しを食べてたいる陽織に聞く。

「んー、約束だし。頑張る。」

「そっかー、陽織は偉いなー。」

「うん、和兄様、褒めて褒めて!」

陽織は頭を和嶺の方に向ける。

「それに、わたしの体は、もう黎人さん無しじゃ生きられないし!ウフフ。」

    え?

    陽織?

    何?

陽織は頬を染めている。

陽香が目眩を起こした。

黎人が目を逸らす。

「え?だって、わたしのチカラ、黎人さんの霊力じゃないと、補給できないよ!?他の人じゃ、全然死んじゃう!死活問題だよ!」

「紛らわしい、言い方をするな!」

と、和嶺が怒鳴った。


「どうして、管理栄養士なんだ?」

父が突然聞いてきた。

「わたしね、ずっと病気らしい病気したことないんだよね。最近は違うけど。怪我も、他の人に比べて少なかったの。なんでかな?て、思ったことあって。その時、わたしいつも、コーチとは別に、父様が栄養士の先生付けてくれてたでしょう?


やっぱり、きちんと正しく食べるって、色んな意味で大切なんだ、って教えてもらった。特にわたし、好き嫌い多いから。だから、色々な人が病気になって医者にかかるよりも前に、ちゃんと正しく食べられるようにする、そのためのお仕事、したいなって、思ったの。特に、今食べられないと、ほんと死活問題になってるから。家庭科の先生もいいな、って思ったけど、わたし、年取らないから。きっと、お仕事続けていくの、たぶん、難しいかな、って。


だって、何年経っても、高校生みたいな先生なんて、おかしいよね。管理栄養士なら、一応研究職なら、他所の人に会わなければ、年のこととか、わからないかも、しれないし。

だからね、父様。わたし、お医者様も、無理なんだよ?知ってた?」

陽織の目を見た高樹は、その奥に光るものを見た気がした。

   年、取らない。

   神様は不老不死。

   その花嫁も、不老不死になる。


陽織は、服の前ボタンをはずすと、徐に胸にある痣のような印を見せた。

以前は桜の花だけだった。

今は、桜の花の周りに、龍の姿がうっすらと浮かんできていた。













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