陽織、監督する?
今年の春休みは忙しい。
春季講習に来年の準備、その中で神嶋の依頼もあった。
しかも今年高3に上がる同級生の、現場実習の面倒も見ることになった。いわゆる田神のような、経験が少ないクラスメイトたちの現場経験だ。
「申し訳ありません。わたしのパートナーは本学生ではありません。美織も同じです。それなら、こう言った案件は、パートナーがいる湊人と千織のようなバディが、一番適任では?」
陽織が、真面目な顔で三神に進言している。
実際には、こんな面倒ごとは受けたくない、と言うだけのものだったが。
とは言ったものの、クラスメイトを見捨てるわけにはいかない。
そこで、陽織たちは楠木舞香と田神颯斗と共に、比較的簡単と思われる依頼を受けた。
大人組がいないと、報告もできないので、今回は菅原彩奈が同行することになった。
そして経験者からは、陽織の他に翔太と羽織がつく。舞香は巫女ではないので、巫女の力を見せる必要もないから、このメンバーで良いと言うことになった。
その話しを聞いた黎人は、自分がついていけないのが、残念と言った。黎人は春休み中の3月は、年度末で仕事が忙しい。
「また、陽織分が足りなくなる〜。」
と黎人が、陽織に泣き言を言ってきた。
「そ、それなら黎人さん。ほんのちょっとだけ、会います、か?」
「ほんの、ちょっと?」
「ハク、あの白兎様に頼んで、わたしを届けて、もらいます。」
え?
陽織は自分の部屋にいる。時計の針は夜の11時。もう、寝ようと思っていた。
黎人はまだ自室で仕事をしているらしい。会社ではないなら、陽織が急に現れても、大丈夫。
陽織は目を閉じてハクに願った。
黎人のところに行きたい。と。
その、瞬間。
陽織は、光に包まれ、身体が消える。
そして、気づくと、陽織は黎人の腕の中だった。
「陽織!あはっ、すごい!」
黎人は陽織を抱き止めた。
「前に、黎人さんがハクに呼ばれた。って聞いた時から、もしかしたらって。」
陽織は、可愛いピンク色のリボンとレースのネグリジェを着ている。さらに、下以外のランジェリーをつけていなかった、
「これは!ちょっと、陽織。その。」
それに気づいた黎人は、ちょっと顔を赤らめた。
陽織も、来てからそれに気づく。
「あ、えと。その、ちょっとだけ。」
陽織は恥ずかしそうに、黎人にチュッとした。
「ひお、ちょっと、我慢できない。」
そういうと、黎人はそのまま陽織をベッドに運んだ。
「え?ちょっと、黎人さん!」
「ちょっとだけ!」
と黎人は言うと、陽織を抱きしめた。
陽織は気づくと、そのまま黎人のベッドで眠ってしまった。結局、ちょっとではなかったが、そのあと黎人は、仕事を再開していた。午前2時。
まずい、まずい、まずい!
朝になって、部屋にいたはずの、陽織が消えたなんて、きっと大騒ぎになる!
陽織は慌てて白兎様を呼んだ。メモを残すと、真剣に仕事に取り組む黎人の背中に、おやすみなさい。と囁き、自分の部屋へ戻った。
翌日の午後、彩奈の運転で、5人は郊外の廃屋にいた。
先頭を彩奈と陽織、しんがりを羽織と翔太に任せて。
「実はさー、廃寺ってのもあったんだけど。」
と彩奈が言う。
「いや、それは流石に、ハードル高いでしょう。」
陽織が答えた。
「へえー、菅原くんのお姉さんなんだ。」
「ん、なんで、姉貴なんだよー。」
後ろでは4人がワイワイと話している。
これからのことを考えると、あまり緊張されても困るので、良いかと思う。
「えー、黎人来たがってたの!?」
「でも、今本当に忙しいみたいで、家に帰っても仕事をしているんです。」
「ワーホリだね。心配だねー、奥さんも。」
「そうなんですよねー。夜中の2時くらいまで仕事しているみたいで。」
陽織の返しに、彩奈が固まる。
「?一緒に住んでるの?」
「は?な、わけないでしょう!」
前の2人も楽しく談笑している。
と、目の前に、雑草だらけの広い庭の奥に、ほとんど黒く朽ちかけた元日本家屋が現れた。
「ここ、一年前くらいに、火事で燃えたんだよね。中からは老夫婦と小さい子ども、孫だったと思う、が遺体で発見された。それからしばらくして、色々と幽霊や音がするっていう噂があって。近所の人からの依頼なんだ。」
「彩奈さん、これ結構ハード、ですよ!」
現場を直視した陽織が、顔を引き攣らせた。
初めて、こういった現場を見る2人はちょっと顔色が悪い。颯斗は前回がこういったものではなかっただけに、余計だ。
「なんか、う、泣きそう、吐きそう。」
陽織が真っ青な顔で呟いた。
「彩奈さん、わたしこう言うの苦手って知ってるくせに!ぎもぢわる。」
陽織が、しゃがみ込んだ。
「ちよ、陽織、あんただけが頼りなんだから!」
「もう、わたしが幽霊屋敷で泣いたの覚えてるくせに!」
陽織は完全に涙目だ。
「陽織、落ち着いて!この中じゃ陽織が一番強いんだから!」
羽織に言われても、生理的に受け付けない。
しばらくしゃがみこんでいたけど、少し落ち着くと、意を決したように立ち上がった。
(ほんと、黎人さんの陽織分だけじゃない。わたしも昨日、黎人さん分もらって、良かった。)
深呼吸すると、再度屋敷跡を見る。
よく見ると、中に老婆と小さな子どもの姿が見える。
「ご夫婦って、いってましたよね。」
陽織が聞く。
「でも、祖父さんの姿見えねーな。」
翔太が言う。
羽織は、颯斗と舞香に
「わかる?」
と聞くと2人ともうなっいた。
「お祖父さんだけ、成仏したんで、しようか。」
舞香が震えながら聞いてきた。
陽織は、少しずつ中に入っていき、
「それなら、良いのだけど。」
と言った。
すると、陽織の足元が急に崩れて、中から黒い何かが出てきた。
「うっ、やっぱり〜。」
「祖父さんは、悪霊化してたか?」
と、翔太が護符を放つ。
黒い塊は、周りの煙のようなものを霧散させる。
初めての2人は、その塊に夢中で攻撃を仕掛けた。
「ま、ちょっと、待って!」
陽織が、そこに結界を張る。
え?攻撃を塞がれた2人は呆然とした。
「いきなり、攻撃しちゃダメ!逆に暴走したり、翔太の護符で周りの悪いものから、解放されることも、あるんだから!」
確かに、黒いものの中から、お祖父さんが現れた。
すると、子どもとお祖母さんが、安心したように、お祖父さんによってくる。
陽織が結界を解くと、お祖母さんとお祖父さんは手を取り合って、子どもの手を握った。
「羽織はできる?」
彩奈が聞く。
羽織はやってみますと言って、3人の霊に向かって力を注ぐ。
すると、3つの影が、少しずつ白くなり、透明になり、光の粒になって消えた。
「悪い、翔太!」
「えと、羽織ちゃんも。」
颯斗と、舞香が感謝した。
羽織でいいよー!
「羽織、上手になったじゃん!巫女としてやっていけるよ。」
彩奈に言われて、羽織は照れる。
「まあ、こうやって経験するうちに、色々勝手が掴めるから!で、陽織は何やってんの?」
陽織がまたしゃがみ込んでいた。
「ちょっと、気疲れです。慣れない。」
「ま、今日は見学?みたいな?でも咄嗟に攻撃できたのは、偉いよ!じゃ、あとは陽織、頼む。」
陽織は軽く彩奈を睨んで白桃を出した。
陽織が白桃を両手で掲げて、焼け朽ちかけた家屋に向かう。すると、陽織の周りに白い光が煌めき、家屋を取り巻く、どんよりとした空気が、透明なものに変わっていった。さらに、周辺一帯も清められる。
「さすが!」
「お見事!」
「陽織、やりすぎ!」
しかし、陽織はその場に崩れた。
「あちゃー!」
その瞬間。
「ハク!」
と言う声が聞こえて、陽織の姿が、忽然と消える。
???
「な?」
「陽織?」
「きえ、た?」
5人は呆然とする。
その時、彩奈のスマホが突然鳴った。画面の名前は神代黎人。
「?黎人?」
『彩奈さん?陽織はこっちに運んだから!心配しないで。』
「あんた、何してんの!忙しいんでしょう!」
『まあ、今も職場なんだけど。』
彩奈が唖然とした顔になっている。
「え?黎人さんだったの?今の。スッゲー!」
翔太が騒ぎ出した。
「ひ、陽織は黎人さんのところにいるの?」
『あ、羽織さん?陽織はここにいるから心配しないで。ついでに、陽織の荷物、頼める?』
黎人はそう言うと、電話を切った。
「あのヤロー!」
そのあと、彩奈はスマホを地面に叩きつけて、悔しがっていた。
「あ、彩奈さん。でもあのままだったら、陽織絶対に起きませんでしたから!」
と、羽織がフォローした。
舞香と颯斗は、もう何がなんだか、次元が違いすぎて、ついていけない。
陽織は目が覚めると、革張りのソファーの上に横たわっていた。
え?ここ、どこ?
周囲からは複数人の男性の声がする。
(なに?なんか、わたし、やばいところに、拉致された?どうしよう?なんで?)
怖くて、また目を瞑る。
これは夢、これは夢、これは。
「あ、陽織?起きた?」
陽織はとうとう幻聴が聞こえてしまったことに、恐怖する。
どうしよう、どうしよう!
さらにギュッ目を閉じて身を硬くする。
「もう、狸寝入りしても、ダメだよ?」
と、優しい声が陽織の耳元で、囁いた。
そっと目を開けると、いるはずのない人がここにいる?なんで?
「あ、社長。陽織様、目覚められましたか?」
「うん。何が温かい飲み物、持ってきてもらえる?ミルク多めのカフェオレか、ミルクティーの方がいいかな!」
陽織は恐る恐る目を開けた。
「ふふ。昨夜のお返し!」
黎人が楽しそうに笑っている。そして陽織を抱き起こして、横に腰掛けた。
「陽織をこっちに運んじゃった。」
「え、と、どうして?」
「どうして、と言うより、どうやって、かな?昨夜ちょっと仕掛けをしておいたんだ。もし、陽織がチカラ使いすぎて意識無くなったら、僕のところに跳ぶように。びっくりした?」
その時ノックがして、さっきいた男性が入ってきた。彼は陽織の前にミルクティーを置くと、礼儀正しくお辞儀をし、自己紹介をする。
「私、神代黎人社長にお仕えしております、秘書の神柴と申します。」
おとなだ!
陽織も立ち上がって、挨拶をしようとすると、黎人がギュッと掴んで、立たせない。
「ダメだよ。陽織は急に立ち上がったら。」
「あ、神月陽織です。申し訳ありません。こんな姿で。えと、黎人さんがお世話になっております。」
陽織がそう言うと、黎人が、そうなの?と神柴に聞く。
神柴という人は、いえ、と小さく答えた。
「今日は早く帰れそうだから、一緒に帰ろう。昨夜、あれから頑張ったんだよ!明日が日曜日で良かった!陽織、今夜はずっと一緒だからね!」
陽織の力、取り戻そうね!
と嬉しそう。
黎人は大きく伸びをすると、陽織にキスをして仕事机に戻った。
(あれ?さっきの人、社長?黎人さん、お父様の仕事を、手伝ってるって、社長?なの?)
そのまま、陽織はソファーの上で、クラクラする頭を抱えて、悩んだ。
一方その頃。
5人は近くのファミレスにいた。
「姉貴ー、おれハンバーグ定食頼んでいい?」
「お前、たいして働いてないだろう!あ、羽織はちゃんと食べること!」
「あ、じゃあパンケーキセットで。陽織、食べたかなー?もう、どんどん痩せているのにー。」
「まあ、黎人がいるなら、大丈夫でしょ。違う補給しそうだけど。」
2人は、どうしたらいいものか戸惑う。
「2人は?術を使ったら、食事で補給、はマストだからね。お腹空いてないなら、いいけど。
2人は遠慮がちにケーキセットを頼んだ。
「それにしても、相変わらず陽織は力の使い方下手だよねー。なんで、毎回、最後は空っぽになるほど全開使うんだ?周辺まで、浄化しなくても。」
羽織は彩奈の言葉に苦笑する。
「それが、陽織ですから。」
「たぶん、いつも黎人さんいるから、安心してるんじゃない?」
と翔太。
「いや、いない時は、美織みたいにコントロールして欲しい。」
彩奈は頭を抱える。
そして反省会の最初に、悪い例として陽織のチカラの使い方をあげていた。
黎人の部屋で陽織は所在なく戸惑っていた。社員らしき人が部屋に入るたび、陽織は自分の姿が見えないように、ソファーの隅に小さくなっていた。
(恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい。わたしは置物!置物、置物。)
しかし、そのまま、また陽織は眠ってしまったらしい。
「それでは、私はお先に失礼致します。」
声が聞こえて、陽織は目を覚ました。
「さあ、僕たちも帰ろうか。」
黎人が
陽織を抱き上げた。
黎人の車に乗ると、陽織は彩奈の車にカバンを置いてきたことを思い出す。
「んー羽織さんに頼んでおいたし、まあ大丈夫でしょ。」
と、黎人は気にしてない。
「わたし、大神先生に、監督不行届って怒られちゃう。」
「大丈夫だよ。後で、僕が陽織を拉致りました、って連絡するから。」
あはと、黎人は楽しそうだ。
黎人の家に帰り、夕食を取る。
そのあとは。
「ほんと、この一週間、マジで死ぬかと思ったー。昨夜陽織が来なかったら、ヤバかったよー。ほんと、まだ足りないけど、陽織分が足りなくて、脱水状態でした。」
「わたしもです。昨夜、黎人さんに会えなかったら、たぶん頑張れなかった。」
と陽織はコテンと黎人の胸に寄りかかった。




