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陽織、人形を救う

2月の初め、まだ日が短い冬の日。湊人を除く理系メンバーが、久しぶりに引き摺り込まれた。


「うーん。湊人がいないと心許ないなー。」

翔太が呑気にいつもと違う景色を見回す。

いるのは、陽織と羽織、翔太、宏輝、そして同じクラスの田神颯斗だった。

湊人は生徒会で、早めに帰った。

「なんか、菅原くん。慣れてるね。」

颯斗の顔が心なしか青ざめている?


「そうだねー。わたしは相性の良し悪しあるし。」

と羽織。

「田神くん、初めて?」

見事に陽織も呑気発言をしている。


今日は理系大学見学だったので、高校とは駅を挟んで反対側に来ていた。陽織と、羽織の家は本来なら近いのだが、異界の中は別だ。

「どうする?黎人さん、呼ぼうか?」

「でも、大学、後期の試験中でしょう?」

「そうなんだよねー。」

「しかも、今回は神嶋絡みじゃないから、頑張ってもバイト代出ないじゃん!」

最後の宏輝の一言で、みんなガッカリする。


颯斗はまだ経験がないらしく、口をあんぐりと開けて聞いていた。

羽織がそんな颯斗のために、神嶋との関係をかいつまんで説明していた。


「そっかー無報酬かー。おれ、やる気無くしたー。」

翔太がガックリ座り込むと、

「おバカ!ここから出られないじゃん!」

と、羽織が引っ張り上げる。


「翔太たちは、橋の上ぶり?」

「そっかー。二度目だ!」

「わたしは地下鉄ぶりー!二度目!」

なぜか翔太と羽織は同じー!と嬉しそう。

「わたし、三度目だー。」

陽織のテンションが下がった。


颯斗だけがついていけず、顔色が悪い。


「んじゃ、今日は湊人に代わって、俺頑張るね!」

と翔太が、羽織にチュッとした。

あ、バカップルII。

宏輝の心の声が聞こえた気がする。


羽織が翔太を追いかけて、アハハと翔太が逃げている。

「と、とにかく羽織ちゃん!まずは周りのこと調べよう!」

今日の陽織は美織の立ち位置だ。


慣れない颯斗を真ん中に、5人は異界の中をゆっくり進む。今回はどちらかと言うと全体が白く、濃い霧の中にいるみたいだ。

しばらく行くと、川が現れた。

「これって、神田川かなー。」

よく見ると、その向こう側に一人こ女の子の姿があった。少女は川の中をずっと見ている。

「何が探してる?」

「飛び込むとか?」

「中に何かいるのかな?」


5人は顔を見合わせる。

やたらと関わってはいけない。

学校では、そう教わっている。

しかし、ここを抜け出すためには、何か情報が欲しい。

「んじや、ちょっと式に聞いて来させる。」

そう言って翔太が、ポケットから形代を出した。

すると人型の式が現れ、川の上を滑るように向こう側へ行った。


式はまもなく帰ってくると、翔太と話をしている。

「なんか、アレって人じゃないみたい。」

「付喪神的な?」


式の話を翔太はわかりやすく説明した。

「どうやらここは、人形の記憶の中だね。」

陽織と羽織は嫌な顔をする。

「人形って、結構怖いよねー。」

少女の姿をした人形は、ある日子どもの手を離れ、川の中に落ちた。その子は本当に人形を大切にしていて、どうしても拾って欲しいと、周囲の大人に頼んだと言う。


しかし、大人たちは

「新しいものを買ってあげる。」

と言って、その子を無理矢理連れて、去って行った。

しかし、諦められない子どもは、毎日のように川の近くまで来て、中を除いていた。

何日も、何日も。


そんなある雨の日、その日は雨だけでなく風も強いのに、子どもは傘をさして川に来ていた。

子どもが川の中を除いた時、強い風が吹き、翻った傘とともに、子どもは川に投げ出されてしまった。


そのまま、子どもは濁流に飲まれ、命を落としてしまった。


5人はそれを聞いて、人形のそばに行こうと思った。

「この川、どうやって渡るの?」

「まず川を渡るのが、ミッションクリアの第一関門かなー。」

翔太が唸ると、恐る恐る颯斗が手を上げた。

「お、俺の力、土だからこっちの土を川向こうまで繋げられるかも。」

おー!と4人は感嘆の声をあげた。


颯斗の力で、5人は人形のそばに行く。

すると人形は、涙を流して川の中を見ている。


ショウコ、ショウコ。

と人形がなん度も口にする。

「ショウコちゃんって、あなたの名前?」

陽織が聞くと人形は首を横に振った。

『ショウコはわたしの代わりに川に落ちた。』

???

「もしかして、最初に川に落ちた人形の中に、ショウコちゃんの魂が入っていたの?」

羽織が顔を青くして尋ねる。

人形はコクリとうなづく。

5人の顔は、青ざめる。


最初、ショウコは人形を川に落とした時、自分の魂を入れ替えてしまっていた。

なるほど、子ども、つまりショウコが毎日人形を探すはずだ。その時のショウコはすでに人間ではなく、人形の魂が入っていたのだから。


「もしかしたら、まだショウコちゃんの魂が入った人形は、見つかってないのか?」

宏輝が聞くと、人形は泣きながらうなづく。


「それっていつ頃の話しだろう。」

「いや、もうすでに助かる見込みはないよ。」

翔太と颯斗が青い顔で話した。


「つまり、きみはその人形を探さないと、浮かばれないし、ショウコって子も、浮かばれないってことだね。」

うーん、と翔太が悩む。

「それに、この川がどこかわからないと、探すにも。とんでもない時間と労力がかかっちゃう。」

と、宏輝も悩む。


『電車が通ってる。桜の花が咲いてた。大勢、人がいた。』

人形の言葉をヒントにすると、やはり最初に思った神田川のようだ。5人が引き摺り込まれた経緯を考えても、駅の近くだろう。


んー、と悩んだが、ここから出たいし、それにショウコという子の魂も気になる!

「よし!みんなに協力してもらって、探そう!」

翔太が、そう言うと、宏輝と颯斗もうなづく。


「あなたの名前は?」

『ナナ』

「よし、ナナちゃん。わたしたちがショウコちゃんの魂を探してあげる。」

「うん、そして供養してあげる!」

そう、羽織と陽織が言うと、人形はうっすら笑ったような顔をした。


そして、周囲の景色は、元の神田川にかかる橋の手前、大学キャンパスの近くに戻った。

「どうする?明日学校でみんなに話す?」

「全体の協力は、明日で良いとして、文系組には伝えよう!」

「このまま、一度学校行って、大神先生に話すのは?」

「それ、良いかも!」

颯斗は初めて経験した異界が、この4人と一緒で良かったと思った。


が。

「また、お前らは!おい、湊人はどうした?」

「え?湊人は生徒会です。」

大神が怒って、湊人を探した。

可哀想に、いない湊人まで、このメンバーに入れられている。


そのあと、大神はため息を吐くと、神林先生たちに声をかけた。

「で?なんで、田神まで巻き込まれてんだ。」

「なり行き?」

「同じ理系組だし。」

「おれ、今日頑張ったんすよ!」


一人、空気を読まない翔太だった。


その夜のこと。

珍しく、神月家は全員揃って夕食を取った。

そして、陽織が後片付けを手伝おうと立ったところに黎人から電話があった。

あ!と、陽織が出ると

「馬鹿ヤロー!お前らのせいで、大神になんかいちゃもんつけられたんだぞ!」

湊人が怒鳴っていた。

「ちょ、なんであんたが黎人さんの電話使ってるのよ!」

「兄貴が陽織に電話するって言うから、ちょっと借りたんだ!」

「大神に何言われたか知らないけど、わたしのせいじゃないじゃん!」

陽織が怒鳴り返すのを聞いて、父が渋い顔になっている。

「陽織、言葉使い!」

そばで母が注意してるが耳に入ってない。


「はあ?お前らが、また変なんに巻き込まれたからだろう!」

「ちゃんと、翔太が湊人はいないって言ったからね!」

「お前らの監督をしない俺が悪い、って言われたんだからな!」

「そんなの、大神が勝手に言ってるだけじゃない!なんで、わたしがあんたに怒られなきゃならないのよ!意味わかんない!」


「ちょっと、陽織、先生を呼び捨てに。」

母は父の怒り顔に気が気でない。


「おれが、いなかったら、お前が監督しろよ!」

「ちょっと、それってどう言う道理よ!わけわかんないんだけど!」


そして10分後。

陽織は父に怒られ、湊人は黎人に怒られて、電話を強制的に切らされた。


「だいたい、学校の先生を呼び捨てとは、どう言うことだ!それになんだ、あの言葉遣いは!お前は女の子だろう!いつも学校で、あんな話し方をしてるのか!?」


   う、湊人のせいだ!


母は、和嶺にそっと聞いた。

「陽織って、いつもはああなの?」

「いや、たぶん相手が湊人だからだと、思います。」


その後、大勢の協力を得て、ショウコの魂が入った人形は見つけられた。

そして、ショウコとナナは、一緒に供養された。


次の土曜日の夜、陽織は試験が終わった黎人の部屋にいる。

最近恒例のお泊まりだ。

「ごめん、湊人に強引にスマホ取られちゃって。」

「黎人さんのせいじゃないよ!湊人が悪いんだから。あんなことで電話してくるなんて!」


結局、なぜか湊人と陽織は大神から一緒に怒られた。

2人がぶ然としていると、未経験の田神を巻き込むような状況にしたことを怒られたらしい。


「お前らが一番ベテランなんだから、おかしな場所は事前にチェックしておけ!」

「ちょ、それって神嶋の仕事じゃん!」

「わたしたちの本分は、勉強です!」

「勉強が本分なら、ちょこちょこ巻き込まれんな!」


職員室では、大神と二人の生徒に、なんともいたたまれない視線を送っていた。





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