陽織、もう無理!
3人は銀座に店を構えるウエディングドレス専門店、ユミ・ヒロセに入った。
事前に連絡をしていたのか、美咲が入ると、店長自ら案内をしてくれた。
「今日はまだ、こちらにお願いすると、決めたわけではないから。」
そう言って、まずは店内に飾られているドレスを見た。
飾られているのは、プレタポルタ、一点ものには違いないが、規制服にはなる。
陽織と陽香はその美しさに感動して、これも素敵、あれもいいと楽しくドレスを見ていた。しかし、
「本日は花嫁様は?」
と、店長の一言で美咲の顔が変わった。
店長は、まさかその''花嫁様"が、小柄で童顔の陽織だとは構わなかったのだろう。事実陽織はまだ高校生だし。
その途端、美咲は
「もうしわけないけど、他のお店に行くわ。」
と2人の手を引いて、店を出てしまった。
「ちょ、美咲。失礼よ。」
「失礼なのは、あの店長よ。陽織ちゃんのこと、全然目に入ってなかったのよ!」
と怒る。ありがたいが
「いや、わたしどう見ても、花嫁様には見えないと思いますので。」
と、陽織は苦笑いした。
「それは、人を外見で見下すことと同じよ。」
と、美咲に言い返される。
面目ないです。と、陽織と陽香は項垂れてしまった。
「あ、ごめんなさい。2人に嫌な思いをさせるつもりはなかったの。それじゃ、もう一つのお店に行きましょう!」
美咲はそう言うと、2人を京橋近くの小さなお店に連れて行く。
そこは、先ほどのような華やかさはないが、落ち着いた、昔ながらのオートクチュール専門店だった。
「ハルさん、お久しぶり!」
美咲がドアを開けて声をかけると、初老の女性が店の奥から出てきた。
「あら、美咲ちゃん。珍しいわね。」
美咲はハルという女性としばらく話をすると、陽織を呼んだ。
「まあ、この娘が花嫁様。もちろんよ。この娘のドレスはわたしのところで受けるわ。」
女性は鷹揚にうなづく。
結局、陽織は美咲とハルに下着にされ、上から下まで、詳細に計測される。
「ずいぶんと、細い子だねー。」
ハルが呆れる。
「前はもう少し太かったんですけど。」
それを見ていた陽香が困ったように笑う。
陽織はスケートをやめ、霊力を手に入れてから、日に日にやつれている。
以前は頑張ってダイエットしていたくらいなのに。
神鬼からは、これ以上痩せないように注意を受けたくらいだ。とにかく食べさせねば!
「いま、頑張って食べてます!もう少し太る予定です!」
陽織が拳を握って言った。
「それじゃ、まずは計測をひとまず置いといて、どんなデザインのドレスにするか決めようか。」
そう言われて、3人は素敵なドレスのデザインを見ながら、まだ先の幸せな日を願った。
お正月。今年も陽織は黎人と並んで、上座に座らされている。黎人は相変わらず堂々としているが、陽織は恥ずかしくて下を向いてしまう。
広間にはそれぞれ十神家の現当主かその代理が。続きの間には、高嶺や和嶺、千織、美織と言った若手が控えている。中には黎人の秘書、神柴綾人や神杉絵梨花もいた。
これが、また2時間も続くの?
と、涙目になっていたが、今回は挨拶は黎人だけで、陽織はただ座っていれば良かった。
それでも、次々と知らない人が挨拶に来る。
中には美織や千織の父や伯父、大神もいて、全く知らないわけではなかった。
それでも、怖い。
父、神月高樹が黎人に挨拶に来た時、陽織は無言のまま涙目で訴えた。すると、
「黎人様。花嫁様のご気分がすぐれなようですが。」
と、さりげなく言ってくれた。
黎人はその言葉を聞いて、陽織の顔を覗き込む。
「陽織?ちょっと席を外させてもらおう。」
そう言って、周囲に中座の言葉をかけ、陽織の手を引いて、部屋の外へ出してくれた。
その後ろをさりげなく父が着いてくる。
「陽織。続きの間に高嶺たちがいるから、そちらで休みなさい。」
黎人はうなづき陽織を隣の部屋へと連れて行った。
「陽織ちゃん?」
中に入ると、陽織が美織の腕に縋ってへたり込んだ。
「顔色悪いな。水飲む?」
和嶺が陽織にグラスを渡す。
黎人は、和嶺たちに
「陽織をお願いします。」
と一言告げ、高樹と共に、広間に戻って行った。
高嶺が椅子を持ってきて陽織を触らせてくれた。
「あ、りがと、う。なんか、ちよっと、緊張、しちゃって。頭痛くなっちゃって。」
陽織は友人や兄たちに囲まれて、ホッと一息つく。
まだ始まって1時間も経っていないのに、今年はギブアップだ。
「大変だなー。花嫁も。」
「なんか、去年と違う振袖着せられてるし。」
「あ、それこの前、母上が陽織にって作ったやつ?」
湊人が言うと、神代母の勢いと本気に、周りは唖然とした。
「母は陽織ちゃんのために、すっごい勢いで色々買い揃えてるよねー。娘ができたー!って。もう16年分だから、諦めてね。」
と、悠人も笑う。
もう、学校の友人だけじゃない。
高嶺や黎人のもとクラスメイトたちも集まって、話を聞いている。
陽織はホッとしたのも束の間、また顔色が悪くなる。
「わたし、もう、無理。」




