陽織、初めて神気を使う
胡散臭い目で見る役人相手に、悠人、黎人、和嶺の3人が次々と質問をぶつける。
その間、美織と陽織、祈梨は、競技場に向かう。
競技場は周囲に400メートルトラックがあり、中心ではゴールを立てると、サッカー競技もできる作りになっている。
観客席での被害や幽霊話は出ていない。観客席を歩く3人は、競技場が作られる前のマップを見ながら、観客席を一周していく。
周囲の体育館や第二グランドでは、こういった問題が起こっていない。ということは、トラックがあるこの場所に問題がある、としか考えられない。
地図上、ここは教団の周辺施設の中で、ゴミを焼却したり、野菜を育てる多目的の敷地だったようだ。
「祈梨さん、たしかあの事件って命を奪われた人もいましたよね。」
美織が聞く。
「ええ。わたしたちが生まれる前のことだけど、脱会しようとして逃げ出した信者や、訴訟を起こしていた家族がね。」
3人は話しながらも気分が悪くなる。
そのうち、役人と黎人たちも追いついて来て、事故が起こった場所、幽霊が見られた場所を、地図の上に印をつけていった。
その印を見た途端、陽織の顔色が真っ青になり、口元を抑える。
「いや、だ。」
陽織が指差す地図を見ると、ゴミの焼却炉やゴミを埋めていた場所と事故、幽霊の目撃場所が一致する。
つまり、そこで焼却されていたのはゴミではなく、人間?埋められていたのも。
さらに、それぞれの場所を結ぶと、六芒星が浮かび上がった。この宗教は本当にただの詐欺だったのだろうか?悪質なモノであるのは確かだが、もっと怖いのは半端な術者が関わっていた場合だ。
なぜ急に自治体がこの件を依頼してきたかというと、ここにはどこかのサッカーチームのホームグランドとして、誘致したいどいう思惑があったからだ。
しかし、もし霊や事故の原因を知ったら、来てくれるような奇特なチームはあるのだろうか?
グランドに降りると、祈梨と美織、巫女の2人が急に頭が痛いと言い出す。悠人と和嶺も、顔色が変わる。
全く霊力のない役人と警官の2人は、胡散臭い顔で、こちらを見ていた。
その時神嶋が
「これは、相当、ですね。」
と声を上げた。
「どうします?黎人さん、このメンバーでやれますか?」
と黎人に聞いて来た。
「やれるも何も、湊人は本調子じゃないし、大人組は他の案件で、地方に行ってるんでしょう?やるしかないじゃないか。」
と、黎人でさえ、汗を浮かべていた。
黎人が一番心配しているのは、他でもない、陽織のことだ。
もうすでに、陽織の周りに霊が近づいて来ている。
霊にとって極上の霊力。
神鬼の言葉を思い出す。
今は、しばらく会えない時のためにと、陽織の周りに黎人が張った結界が機能している。でも、それがどれくらい効果が続くか。
いつのまにか、陽織の後ろで、馬鹿にしていた役人も偏頭痛かな、などといって頭を抑えていた。警官も、気分が悪そうだ。
「悠人、和嶺、龍を放て!巫女はグランド全体に結界を展開!」
黎人が叫んだ。
いつもは、周囲の動きに任せて、さりげなくサポートをしている黎人が。
「小龍、サポートを頼む。」
そして、初めから小龍を顕現させる。
青龍と白龍が顕現すると、役人と警官の目にも見えた。いや、今回は見えるように、黎人が図った。
見えた方が安全な場合もあるからだ。
2人は龍の姿に、顎が外れるほど驚いている。
初めて龍を見た時の陽織みたいに。
印をつけた場所のグランドの土が捲り上がる。中からは骨や、形を留めない遺体、いわゆるゾンビのようなものが這い出て来た。
先ほどまで、馬鹿にしたような顔をした役人が、失神寸前の顔を引き攣らせて、すでに腰を抜かしていた。
龍は二体、対して6体の悪霊と化した、元人間の遺体、そして、それを取り巻く、小さな霊。
「生きたまま焼かれた遺体もあったと聞きます。」
警官が気丈にも神嶋に告げた。
恨み、憎しみ、苦しみ、全てをぶつけるかのように、結界に身体を打ち付け、龍に向かって行く。
悪霊は憎悪をぶつけるように、結界を壊しにかかっていた。
悠人や和嶺、祈梨、美織の顔に、汗が滲む。
陽織も、結界を維持しているが、どれくらい持つかわからない。
「陽織、小龍のサポートできる?」
陽織は黎人に言われ、小さくうなづくとポケットから白桃を出した。
「ハク!お願い。」
陽織が高く白桃を掲げると、白兎の姿が大きくなり陽織の体に吸い込まれた。
すると、陽織の体が白く光り宙へと舞う。
初めてのことに、美織たちが驚きの声を上げた。
徐々に神気を取り込み始めた陽織。
陽織は、その神気を使い結界の上まで跳ぶと、小龍に力を注いだ。
さらに陽織の光の影響を受けて、悪霊の周りにいた小さな霊たちが霧散して行く。
「神様の、花嫁。」
神嶋が呟く。




