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陽織、久々お仕事

黎人は会議のため昼休み、大学から急いで会社に移動した。その時のこと。


ーーーーー


「社長、会議の資料をこちらのファイルデータに入れておきました。」

「今日は、先日赤坂が受けて来た案件についても、話し合いの時間を持ちたいのですが。」

会議まであと10分、大学から移動して来たばかりの僕に、次々と会議に出席する重役連中が話しかけてくる。


その時、スマホの着信があった。

しまった、切っておくのを忘れた、と思いながら名前を見ると、絶対にかけてくることがない相手だった。

僕は焦って電話に出る。

「陽織?どうしたの?」

と聞く間もなく、陽織の泣き声が聞こえる。

しかも、何やら湊人絡みらしい。


社員たちの話を聞きながらでは、上手く対応できないが、とにかく陽織の非常事態と言うことだけはわかった。

すぐに、小龍を陽織の元に飛ばして、電話越しの陽織を落ち着かせる。


会議まであと5分。


最後に

「とにかく、夜電話するね。愛してるよ。」

と言うと、泣きながら

「わたしも。」

と答えてくれた。


湊人のヤツー!また、何をやらかしたんだ!


ーーーーー


わたし、神柴綾人はこの会社で、社長秘書をしている。秘書といっても、社長がまだ大学生なので、時間の穴埋めのようなこともやる。


まあ、ゴルフや接待三昧の無能な社長に着くよりも100倍マシだ。しかも彼は若いが、ものすごく有能で、努力家なのも良い。


若い女性社員の中には、いつもキリッとした精悍な顔立ちと立ち居振る舞いに、密かな思いを寄せている人もいるらしい。気の毒に。


そんな社長に珍しく婚約者から、電話があった。しかも泣いているようだ。隣にいると、なんとはなしに、話が聞こえてしまった。


どうやら社長の弟が原因で、学校で良くない噂が広まってしまった、という内容だった。可愛らしい。

話したことはないが、姿を見たことはある。


すごく可愛い少女だった。

社長は会社では見たことがないような、優しい顔を始終浮かべて、彼女を大切に守っていた。


そんな彼にかかって来た電話。困った顔で彼女を宥める社長の顔に、周りの女性社員がびっくりしていた。しかも、最後には愛の言葉まで、囁いている。


女性社員が押し殺したように、黄色い悲鳴をあげているのが、わかった。


ーーーーー


わたし神杉絵梨花は秘書課の女子社員。

実家は十神家なので、社長や花嫁の事情もある程度知っている。


ある日、大学から会社に移動して来たばかりの社長に、花嫁から電話があった。

その電話に対応している彼の顔が、会社では絶対に見られない甘く優しい様子に、周囲にいた女性社員がうっとりとしている。


電話の後、会議室に彼が入ってしまうと、婚約者ってどんな人なんだろう、と言う話題になっていた。


わたしは昨年のクリスマスに、花嫁に贈るプレゼントについて相談されていた。

若い女性が喜ぶもの。

わたしは適当に、自分が欲しかった、バッグや靴、服、アクセサリーなどを答えた。


それから数日後、クリスマス明けの職場で、社長からお礼を言われた。

結局私が欲しかったもの全てを、行きつけの百貨店の外商にお願いし、全身コーディネートしたらしい。


その時写メしたものを見せてくれた。

か、可愛い!可愛すぎる!

なんだ、このティーン向け雑誌の表紙のセンターにいるモデルのような子は!

「結局、全部にしちゃった!」

と言う社長。これ、絶対100万は超えてるよね!


ーーーーー


湊人は、黎人に怒られ、陽織に泣かれて、殴られ、千織にも怒られた。

特に千織の一言は強烈だった。

「あの時、陽織ちゃんのことが好きだったのに、私に迫ったの!?」

そうなります。ごめんなさい。


そしてやっと落ち着いたころ、悠人、黎人、和嶺の3人が揃う案件が入った。

今回は千織ではなく美織が一緒!と、陽織は楽しそう。いつも行きは遠足気分のところがある。

湊人はまだ療養が必要とのことだ。


今回は日帰りの予定。車は6人乗りのワゴンタイプにして、運転手が交替できるようにした。

行きの運転は悠人なので、助手席に祈梨が座る。

真ん中は和嶺と美織、一番後ろに黎人と陽織が座った。


「黎人さん以外の運転って一年ぶり?」

と陽織が聞く。

一年前の幽霊屋敷の時だ。


そうか、あれから一年になるんだ、と黎人は懐かしく思う。あの時まで、陽織はまだ花嫁にはなりたくない、と言っていた。黎人が引き寄せなければ、自分からそばに寄ることもなかった。


車が都心を出ると、陽織が先日の件の謝罪をして来た。仕事中に電話してしまったこと。大したことじゃないのに、泣いたこと。

「そんなことないよ。陽織が僕を頼ってくれたの初めてで、嬉しかった。」

え?そうだっけ?と言う陽織。


陽織は意外と自分で解決したがる、自己解決型だ。知らされないうちに、終わっていた、と言うこともある。ところが、いつも身近にいる湊人は知っていた、と言うこともあったものだから、今回は色々兄弟間でも拗れた。しかも、つい最近まで、湊人も陽織が好きだった、と言うのもわかった。


でも、陽織は他の男に、たとえ指一本でも素肌を触らせたりしない。電車でも男性の隣の席に座ることを嫌悪する。と言うこともわかったので、黎人は安心した。今回は湊人を躊躇なく殴ったようだが。


今回は比較的身近な場所だった。

東京郊外にある、元宗教団体の本部があった建物と土地全体。


数十年前に悪質なマルチ商法を利用した詐欺集団、ということがわかり解体された。しかし被害者の中には金品以外に、命を奪われた者もいたため、主犯格の元教祖とメンバーは重刑となった。


広大な土地をそのまま遊ばせるのは忍びないと、数年前に地元の自治体が、住民のための公園とグランドに整備しよう、ということになり整備された。


ところが、地元の陸上部の大学生や高校生が、グランドで幽霊を見たり、怪我を負う、といったことが相次ぎ、今回の依頼となった。


一行が現場に着くと、地元の警察と役所の職員と一緒に神嶋が待っていた。

「お若い方ばかりですね。」

役所の職員が不服な顔で口を開く。

たぶん、胡散臭い老齢の退魔師のような人を想像したのだろう。


「実力は折り紙付きですよ!たぶん今では、国内トップクラスだ。」

と、神嶋が返していた。

とはいえ、知らない人が見たら、ただの学生カップルだ。特に最後に降りた、黎人と陽織は、ただのバカップルに見られても、おかしくない。









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