陽織、京都に行く
1,000年以上生きている、という裃と袴を身につけた青年は、穏やかな笑顔が印象的だった。しかし、よくよく見ると、あまり生きている人間ぽくない。
陽織はつい「神様?」と聞いてしまったが、あながち間違いとは思えない。
その時、バラ園の先に着物姿の一人の女性の姿が見えた。女性は陽織に気がつくと、笑顔を向けて歩いてくる。
陽織は神様の方に振り返ると、そこにはもう誰もいなかった。
「もしかして、陽織さん?」
ニコニコしながら声をかけてきた女性は、
「わたくし、この家の一人娘、神月紗香と言います。」
と自己紹介をする。
「あ、と。神月陽織、です。お邪魔しています。」
と陽織も挨拶を返した。
紗香は菖蒲柄の紺地の単衣に、白っぽい地に薄紅の花模様がついた半幅帯を締めていた。
(すごい、京都美人って感じの人。)
陽織は先ほどの神様?が気になっていたが、紗香に声をかけられて、一緒に庭を見て回った。
紗香は陽織と2歳違いとは思えないくらい落ち着いていて、上品だった。美織も品があり所作も綺麗だが、紗香はすごく大人っぽい。
自分の部屋に飾る花を切って抱える所作も、すごく綺麗だ。陽織にも、と言われたが自宅まで持って帰れない、と断った。
「いつもキス&クライで受け取っている花は、どうなさっていますの?」
紗香の言葉に、陽織はちょっと驚いた。
「わたくし、フィギュアスケート大好きですの。小学校の時の友だちも、やっておりますし。」
「色々です。国内なら自宅に持ち帰りますが、海外の時は、お世話になった方々に差し上げたり。」
そう答えるも、スケートを続けられなくなって数ヶ月なのに、陽織はすごく昔のことのように思えた。
陽織たちは、お風呂上がりに、浴衣を借りて夕食の席に着いた。母と陽織は揃いの紫陽花柄で、母は紺地、陽織は水色地の浴衣だった。
海外の遠征で、日本人なら着物、と言われたことがあったが、陽織はほとんど着たことがない。
浴衣も物心ついてからは、初めてと言っても良い。
いつもと違う服装で、本格的な和食の夕飯に、陽織はすごく緊張した。隣に座る紗香が、京都はとても良いところだから、大学はこちらを受験しないか、と勧めてくる。京都の大学以前に、陽織は今の高校生活が精一杯の毎日だ。無理無理!と首を横に振る。そんな陽織を紗香は可愛いと言って、色々と世話を焼いてきた。うまく魚の骨が取れないと、上手な取り方を教えてくれたり、お椀の蓋をとったものの、どうしたら良いか分からずにいると、受け取ってくれたり?
陽織は、ちょっと恥ずかしくなっていた。
(わたし、本当にスケート以外、何にもできないんだ。)
夕食後、いよいよ今回陽織が京都の本家に来た理由についての話しになった。
「前回神様の花嫁になったのは、1700年の初め、神代家の織子姫と言う文献が残っている。その前は1200年代、北条や源といった勢力が、政権を京都から鎌倉に動かした頃になる。」
隆弥が古い文献を横に置き説明をする。
「織子姫は当時、京でも類を見ないほどの強い霊力を持ち、今の神代家の地位を盤石なものとした、とある。織子姫は生まれてすぐ、左胸に大きな桜のような痣が浮かび上がったという。それは800年前の花嫁にも共通している。」
それを聞いて、両親は陽織の境遇を再確認してしまった。
「2人に共通するのは、高い霊力と桜の痣。そして、同時期に神様の神子が転生している、ということだ。」
「あの、神様の転生、というのはどういった特徴かってわかるのですか?」
母が恐る恐る質問をした。
「こちらでわかっているのは、いずれも本人に神としての記憶が残っていること。そして、高い霊力を持ちながら龍や鬼など、特定の異形を使役していない。前回は神鬼、鬼の神だったが高樹さんのような大鬼や、わたしのような青鬼を使役することはなかった、ということだった。」
隆弥は、一度確認するように言葉を切った。
「神は万物を従えている、ということかな。」
高樹の言葉に隆弥はうなづいた。
「今回はおそらく龍の神、神龍と言われている。」
「神子が転生すると、必ず数年後に花嫁の印を持った女の子が産まれている。」
隆弥はそういうと、陽織の方を見た。
「おそらく、17歳から20歳くらいまでの男性。そして従者とする精霊や龍などを持っていない者。」
両親は、おそらくこの情報を得て自分の予測が間違ってない、と確信するために京都に来たのかも知れない。




