陽織、複雑な恋を知る?
8月、9月に、羽織と千織が17歳になった。
良いなー!良いなー!
わたしも夏生まれなら、あと一年なのに!
陽織はその後に、大学入試があるのを忘れている。
無事学園祭も終わったが、黎人の忙しさは変わらず、あれから陽織は会っていない。
電話でのやり取りばかりになっていた。
それは湊人と千織にも影響を与えて、2人の距離が開いているのが目に見えていた。
中間試験前、羽織と翔太、その他のSクラス理系のメンバーで、勉強をしていた日の帰り。羽織は地下鉄に乗らず陽織と歩いて帰る、と言い出した。
しばらくゆっくり話す時間がなかったので、帰り道で話したい、と言うことらしい。
「千織のことなんだけど。」
あー、やっぱり。
「いまさら、とは思うんだけど、夏休みに何かあったの?わたしも授業が被らないから、ほとんど話ができないし、お昼は他の人もいて話しにくいし。」
陽織は、どんどん悪い方向へ行ってる2人の関係に、どうしたものかとは悩んではいた。しかし、いかんせん、きっかけがない。
どうせなら、うちに寄って、と陽織が声をかけると羽織は喜んで来てくれた。
家では、母が大喜び。陽織が友だちを家に連れて来たのが初めてだったので。
どうせなら明日は都民の日でお休みなんだから、泊まっていけ、とまで言う始末。
しかし、
「突然他所様の家に泊まるのは、親に怒られます。」
と言う羽織の言葉に、母が感動した。
「そうよね、普通はそうよね!全く、ウチの誰かさんは、他所様のおウチで寝落ちするし、お風呂をいただけば、お風呂の中で寝ちゃうし!もう!」
羽織はその言葉に苦笑して
「陽織ちゃんは、一度寝るとほんと起きないですよね!」
と一緒になって笑っていた。
失礼な!
羽織を陽織の部屋に案内し、2人でソファーに腰掛けて、お茶をしながら話を切り出した。
陽織は密かに防音結界を張る。
「何から話せば良いのかわからないんだけど。」
そう言って、陽織は軽井沢での出来事を順を追って話し始める。
初日は2人仲良くしていたこと。
夜、同じ部屋で寝ることになり、でもなんとかなったこと。
次の日、突然の依頼で仕事になり、千織が巫女の力をかなり使ったこと。
その夜、陽織は早く寝落ちしてしまい、フォローができなかったこと。
その間に、あった千織と湊人の喧嘩。
千織は祈梨と話をして、かなり落ち着いて反省していたこと。
湊人もたぶん、2人の兄にちゃんと話して落ち着いていたこと。
でも、帰りの車の中も、全く口を効かなかったこと。
そこまでが、陽織が話せる2人の経緯だった。
「なるほどね。」
羽織は、ふむふむと考えている。
「コレって、美織は知ってるの?」
「わたしは美織ちゃんには話してないよ。千織ちゃんから、話したかもしれないけど。」
羽織は、んーと頭を抱えていた。
「そっかー、湊人くんが陽織を好きなんじゃないか、かー。そっか。」
と羽織は何かを納得したかのように言う。
「実はねー、前から千織、それは言ってたんだよ。」
陽織は持っていたお茶のカップを落としそうになった。
「はあ?」
「ほら、黎人さんのこと抜きにしても、仲良いじゃん?」
「いやいやいや!それはない!」
陽織は全否定するが、羽織は真面目な顔をしていた。
「2人て成績のこと話していたり、依頼とかも、あ、もちろん黎人さんが一緒って知っていたけど。まあ、それ以外にも、湊人くんがあんなにムキになって女の子と話すのって、初めてだったから。それに、喧嘩している時も、なんか楽しそうって言うか、けっこう息があってる時もあるし。もしかしたら?って。」
それを聞いて、陽織は黙り込んでしまった。
兄弟会議の夜、最後に黎人が真剣な目で湊人に聞いた。
「本当に千織ちゃんが好きなんだよね?」
「あ、当たり前じゃ。」
そう言おうとしたとき、黎人の目がいつものような兄の目ではないことに気づいた。
そのあとの言葉が出なかった。
誤魔化すな、と言われているような。
しばらく声も出なかった。
「ッ。だよ。そうだよ!俺は、俺は陽織が、陽織が好きだよ!でも、どうしようもないじゃん!俺の巫女は千織なんだ!陽織は、黎兄の花嫁なんだ!あいつは、ちゃんと黎兄のことが好きなんだ!だから、どうしろって言うんだよ!」
もう、ヤケクソだった。
千織に見抜かれて、兄に見抜かれて、でも絶対に叶わない相手なんて。
「悪いけど、陽織は渡さない。たとえ湊人でも。」
黎人はそう言って、部屋を出て行った。
怖かった。
いつもの、知っている兄ではなかった。
悠人はあちゃーと言った顔で弟を見ていた。
その晩は、悠人は祈梨が使っていたベッドで、湊人が悠人のベッドで寝た。
黎人は自分が使っていた部屋へ戻った。
「悠兄も、知ってたの?」
ぼそっと湊人が言う。
「んー、ウスウス?」
「はあー、気づかなかったの、自分だけなんて。」
「そんなもんだよ。だって、湊人、いつも泣きそうな目で、陽織ちゃん見てたから。」
湊人はガバッと起き上がる。
「んー。黎人が陽織ちゃんにキスしてる時とか、陽織ちゃんが黎人に甘えている時とか。2人が手を繋いだり、抱き合ってるところとか。今朝なんて、すっごく嫌だったんじゃない?」
湊人は黙って考えた。
「んー、正直ムカツイていた。かも。」
確かに嫌だった。
あの2人がそういう関係って知ってたけど。
陽織の聞いたことがない甘い声。
それに答える兄の優しい声。
兄が陽織に愛を告げるのも、
陽織がそれに答えているのも。
なんか、サイテー!




