陽織、誓いの言葉
3日目。さっさと神嶋に報告書を渡すと、速やかに退散してもらった。
朝ごはんの後、湊人が何か話したそうに悠人と黎人のところに来た。なんだろう?
昨日の疲れも回復し、軽井沢の観光定番、旧軽銀座や雲場池、ハルニレテラスに行く。
そして、夕方石の教会から、軽井沢高原教会へと移動した。
夏でも涼しい軽井沢だけあり、土曜日の昼は結婚式があったらしい。
夕暮れの中ランタンの灯りを頼りに、教会の中へ入ると、高い天井の聖堂がある。
順番に並んで、礼拝堂の前に歩き、キリスト像の前まで来ると、突然黎人が誓いの言葉を口にした。
「健やかなる時も、病める時も。」
と言う、有名なセリフだ。
そして最後に自分で「誓います。」
と言って陽織のほうを向く。陽織にも、同じセリフで、「誓いますか?」と聞いてきたので、笑いながら「誓います。」
と答えた。
すると、たくさん観光客がいるのに、突然キスをしてくる。
それを見ていた周りの人から、たくさんの拍手と「おめでとう!」の言葉が発せられた。
奇しくも、今日陽織は白いレースのワンピースを着ている。
いやいやいや!まだダメだから!
慌てて湊人と、悠人が2人を引き離す。
「まだ陽織は、未成年だろう!」
と。
すると、周りの中年女性のグループから、
「あらー、高校生?良いわねー!」
と言う声があがる。
「あらー、彼氏さんは、大学生なのー!」
「そっかー、女の子も18歳になっちゃったのよねー!」
「早く、結婚したい人もいるわよね!」
と、完全に2人で遊んでいる。絶対にあとで、この話題を楽しむつもりだ!
「前にも言ったけど、陽織ちゃんも黎人も、うちは神社だからね!」
うん、ちょっと宗派が違う。いや、宗教そのものが!
祈梨が、教会に来ていた若い女性グループと、話し込んでいる時、湊人が、ちょっと、と悠人と黎人を呼んだ。
その話を聞いた、2人の兄は湊人の話に、なんとアドバイスをしたら良いか考えた。
「え?湊人それ真面目な話?」
「え?うん。」
「そりゃ、僕もちょっと、ふざけて煽ったけど。」
黎人が青くなる。
「ねえ、湊人。湊人たちはまだ高校生なんだよ?だから、湊人の判断は間違っていない、というか。」
「わかって、るよ!」
湊人は、目を逸らす。
2人の兄は、困った顔をする。
「で、でも兄上たちは!」
「イヤイヤ、僕たちは大学生だし、祈梨も、もう大学生だから。」
「じゃあ、陽織はどうなんだよ!」
兄たちは顔を見合わせて、話して良いか確認し合う。
「あのね、湊人。僕たちは大学生になった時に、父上から、ウチの会社を一つずつ任されているんだ。昨年末、黎人は元々任された会社の業績を、前年の3倍にして、億単位の売り上げを出した。僕の会社も、そこまでじゃないけど、着実に業績を上げている。」
湊人は、自分だけ知らされていなかったことに、目を丸くする。
「黎人はそこを両親に評価されて、去年のクリスマスに陽織ちゃんを逢わせた。そして、彼女が18歳になったら、って言う話も、納得させたんだ。」
「それに、陽織も母と何度も会って、ちゃんと神代の嫁としてやっていける、って判断された。だから、プロポーズした。結納とかはしてないけど、ウチの両親公認で、婚約もした。まだ、神月のお父さんは認めてくれないけど。」
「僕たちはいざという時に、ちゃんと責任が取れる、って自信があるから、祈梨や陽織ちゃんと、その。」
そう言って、悠人は困ったなー。と、こぼす。
そのあと、別荘に戻り簡単な夕飯を取った?
みんなが交代でお風呂に入っていると、悠人が祈梨に、黎人が陽織に、ちょっと、と声をかけてきた。
「悪いんだけど、今夜は千織ちゃんと一緒の部屋で良い?」
2人は良いよ?と答えた。
「ちょっと、家族会議ならぬ、兄弟会議をしますので。」
昨日まで、湊人と千織が使っていた部屋で、陽織と千織が同じベッドに、祈梨がもう一つのベッドに入った。
「えっと?祈梨さん、陽織、ちょっと、話を聞いてもらって、良いですか?」
はじめは、ためらっていたが、流石に兄弟会議が開かれる事態になったと知り、千織も血の気が引いた。そして、千織は恥ずかしがりながらも湊人と昨夜喧嘩になってしまったことを話し始めた。
「え?それは、湊人くんは間違ってない、と思うけど。千織ちゃんは、いや、なの?」
祈梨が頭を抱える。
「嫌っていうのじゃなくて、なんか、わたしだけ、取り残されてるみたいな。」
「でもね、わたしだって、大学が合格してからだよ。18歳になってから!一応成人してから!」
「ですよねー。普通は。」
「そういう陽織ちゃんは、あの時だよね?」
あの時、そう、祈梨と百貨店に連れて行かれた時だ。
「まあ、はい。」
「何歳、だったの?」
「ハハハ、15、です。まだ、誕生日前、だったので。」
祈梨は唖然とする。
「でも、黎人さんとわたしは色々ワケアリだし、それに黎人さん、一応お父様のグループ会社です仕事もやってますし。お金は困らないからー。家もあるし。」
「あー、たしかに。悠人もいってた。だから大丈夫だよ!って。でも、わたしは大学出たら、普通に働いてから結婚したい、って言ったから、ちゃんと考えてくれてる。」
祈梨と陽織の2人が、どんどん話を進めて行く。
「千織ちゃん、湊人くんはまだ自分には、その責任は無理ってちゃんとわかっているんだと思うよ。」
2人の話に、千織はゆっくりうなづく。
湊人は、昨夜の話をし始めた。
昨夜、黎人が巫女のフォローをしろ、と言っていたことを思い出し、千織が湊人のベッドに入ってきた。
フォローしろって言われても、湊人は自分がやれる範囲で千織をフォローした。
荷物を持ったり、夕飯の時手伝ったり、後片付けをやったり、優しい言葉をかけたり、ちょっと慣れてきたキスをしたり。
でも、いきなりベッドに入って抱きついて来た。
海の時、キスより先に進むことを、あれだけ怒ってたのに。
今回だって、同じ部屋になることを、初めは嫌がっていたのに。
千織は下を向いたまま、陽織と同じことをして欲しい、と言って来た。
陽織と同じこと?
湊人は初め意味がわからなかったが、たぶん黎人と陽織のことだと思いつく。
いや、でも黎兄は大学生で、20歳過ぎて。
自分はまだ高校生なんだから無理!
そう、はっきり言わなければ!と思ったけど、うまく言えない。
好きな女の子に、ベッドの上でそんなことを言われたら、我慢するのも限界がある。
それにせっかく千織の方から望んでくれたのだから。そう思って、湊人も千織を抱きしめた。
キスをした後千織をベッドに押し倒して、ちょっとパニクった。
本当に良いのか?
後悔しないか?
よく見ると、千織は震えている。
目をギュッと閉じている。
怖いんじゃないか!
無理だ!
湊人は、そう思ってベッドを降り、もう一つのベッドの方に行った。
しばらくすると、泣きじゃくる声が聞こえた。
しかも、なんか言ってる意味がわからない。
「湊人くんは、わたしのこと、本当は好きじゃないんだ。」
とか
「わたしより、本当は陽織が好きなんだよね。」
とか。
はあー!?
と思った瞬間、怒鳴っていた。
そこからは、なんだかよくわからない、言い合いになって、だんだんバカバカしくなったから、寝る!と言って、千織の方に背中を向けて寝た。
しばらく、千織の泣き声が聞こえていたが、いつのまにか、泣き寝入りしていたみたいだ。
あまりよく眠れなかった。
うつらうつらしていたら、何時頃だろう。たぶん朝の5時は過ぎていた。
隣の部屋から、聞いてはいけない声が聞こえてきて、目が冴えたけど、恥ずかしくてベッドの中に、また潜った。
湊人の話を聞いていた黎人が、最後の方で、顔色が変わる。
「え?」
悠人が、黎人の肩をポンと叩いた。
「朝だからって、安心して防音結界、はってなかったよね。」
悠人も気づいていた。




