陽織、おにぎりをあげる
陽織のおにぎりを受け取った子どもが、少しずつ透明になり、光の粒となって消えた。
それを見た祈梨が、ポケットから飴をいくつか出す。また、他の子たちが、それをみつけて同じように光の粒になる。
千織も、それを真似て、リュックからお菓子を出す。
次々と、陽織、祈梨、千織からお菓子や飴、おにぎりを受け取り、子どもたちが消えて行く。なぜか湊人たちが食べ物を出しても反応しない。
最後の一人。その子の服はどう見てもボロボロの、しかも昔話に出てくるような、甚平のような着物を纏っている。
陽織が、黎人から最後のおにぎりを受け取り、その子に差し出す。子どもは涙を流して、おにぎりを受け取ると、小さな光となって、消えた。
「これが、使役龍の巫女の本当の力だよ。」
黎人が悠人たちに言う。
友だちが消えて行くのを見た慶太は、両手を大きく空に向かって振っていた。
しばらくすると、周りの景色が元の林に戻る。
ただ、足元には大量の遺体と骨はあった。
テープの外にいた警察官が、6人と慶太、俊介の姿に気づき、無線で応援を呼ぶ。
次々とパトカーが到着し、その中に神嶋の姿もある。
慶太の両親が、パトカーから飛び降りて、息子の無事に涙していた。
俊介は救急車に運ばれて、近くの病院に搬送される。きっと家族にも、連絡が行くだろう。
しかし、まだ新しい遺体の中には、この数ヶ月の間に行方不明になっていた者もいたようだ。
陽織たちは気づくと、意外とヨレヨレの姿をしていた。今回は、霊に引きずられたり、霊に取り込まれそうになっていないのに。
そして、お腹は空いていた。
しかも、お菓子やおにぎりをあげただけなのに、ごっそりと力を吸い取られたような気分だ。
「なんか、体中がだるい。」
「フラフラするー。」
祈梨と、千織が言う。
「霊力をゴッソリ持っていかれたからねー。」
と、黎人が2人に笑いかけた。
「ちゃんと、悠人と湊人は、2人をフォローしなくちゃダメだよ!自分の伴侶なんだから。」
と、爽やかな声で、弟2人にも言う。
「陽織は、大丈夫?」
「うん、結構霊力余っていたから、ちょっと減ったかな?って感じ。」
と陽織が答えると、黎人はちょっと残念そうな顔をした。
神嶋の案内で、近くのファミレスに入った。
6人は神嶋のオゴリ、と知りこれでもかと注文をする。どうせ経費だろう。
「いや、君たち。これは国民の血税だからね!」
と神嶋に言われた。
三兄弟はステーキセットにドリンクバー、ご飯大盛り。祈梨と千織はハンバーグセットとドリンクバー。陽織はいつものエビドリアと、サラダセット。
さらに全員がデザートやらポテトを頼んでいる。
「あの場所は、十数年前の火山の噴火と、数年前の、宅地化、さらに半年前の台風で、少し地形が変わったらしいんだ。」
神嶋が話を始めた。
元々、昔昔この辺りは山だった。
わかりにくい道と、鬱蒼とした木々で、入った子どもが帰ってこられない、と言うことが頻繁に起こる場所だったと言う。
しかし、もっと昔は、この近くにある貧しい集落の子どもを捨てる場所でも、あったらしい。
「餓鬼、ですか。」
「餓鬼?」
「うん、飢餓ってわかる?飢えた餓って書く。その餓の字。これも''うえる''っていう意味を持つよね。その字に鬼って書いて、餓鬼。」
食べるものもない、貧しい家庭の子が、さらに山に捨てられ、餓えで命を落とし、妖になったものを餓鬼と言う。
「きっと、最後におにぎりをもらった子が、最初の子ども、もしくは、子どもたちだったのだろう。」
黎人が続けた。
陽織は、ドリアを掬う手を止める。
千織や、祈梨も同じだ。
「あ、陽織はちゃんと食べるんだよ!」
黎人が、自分のフォークでステーキの肉を一つ刺すと、陽織の口の中に入れる。
その様子を見て、みんなハッとして、また食事を続けた。
最初の子は寂しくて、友だちを求めてあの異界に連れ込む。連れ込まれた子は、最初の子と、同じように飢えて亡くなったのだろか?
あそこには、大人の骨もあったが、子どもの骨もたくさんあった。その子たちが、慶太と遊んでいた子どもかもしれない。
お腹を空かせて、でも誰も助けてくれなくて、でられなくて、結局餓死してしまった子どもたち。
そんな子どもたちに、陽織が最初におにぎりをあげた。その後、祈梨と千織が、お菓子や飴をあげた。
お腹を空かせた子どもは、やっと食べることができて、浄霊されたのだろう。
最後の1人まで、きちんと浄霊できたことで、あの異界は消えた。
それが、神嶋の推測だった。
陽織が最後に桃のパフェを食べ終わると、全員で神嶋にご馳走様、を言って店を出ようとした。しかし、
「あ、ちょっと待って!明日また報告書貰いに行くから、よろしくね!」
と、黎人と悠人に向かって紙を差し出した。
別荘に戻り、悠人と黎人はひたすら報告書作りに没頭する。
湊人と千織は、祈梨の運転で近くのスーパーに買い物に行った。
陽織はシャワーを浴びると、ソファーの上でウトウトしている。
このまま放置してもいいが、夕飯を食べずに寝てしまう、と言うパターンだ。わかっていても、忙しくてかまってあげられない。
千織たちと買い物に行かせてもよかったが、その時には、もううつらうつらしていた。買い物途中で寝られても困るので、一応お留守番にした。
「黎人、ちょっと休んでいいから、陽織ちゃんをベッドに連れて行きなよ。あれじゃ風邪引くよ。」
悠人に言われて、陽織を抱き上げた。
陽織は、ガクッとそのまま黎人の腕の中に落ちて行く。
(ちょっと減った、じゃない。かなり消耗してるじゃないか。全く。)
黎人は陽織をベッドに横たえると、チュッとキスを落として部屋の扉を閉めた。
案の定、陽織は起きなかった。
そして、明け方の4時前、ベッドの中で陽織がゴソゴソと動き出したのがわかった。
「おはよう陽織、まだ夜明け前だよ。」
「れ、黎人さんこそ、まだ早い、から、寝てて。」
そう言われても、昨夜は報告書が終わって10時前には寝てしまった。
睡眠は充分に取れている。
「どう、調子は?」
と聞くと
「んー、なんか力が入んない。」
と、クタッと寄りかかってくる。
「おにぎりあげた、だけなのに。」
変なの。と陽織が言う。
「だって、陽織はあれだけたくさんの子どもの霊を牽制しながら慶太くんを連れてきたんだよ。そりゃあ、力使うよ。」
と、無自覚に使っていたことを教えてあげた。
すると、急に甘えてきて、くたーっと黎人に抱きついてきた。
うわっ、可愛すぎる!
「陽織、霊力不足をちゃんと補わないと。」
と、黎人は陽織の唇に長いキスをした。
まだ目を擦っているけれど、陽織の服を脱がせると、流石に覚醒したらしい。
朝7時。まだ他の部屋は静かだが、2人はシャワーを浴びて、朝ごはんの支度を始めた。
また、神嶋のことだから、早くくるかもしれない。
「そうだ。昨日は結局、予定が全然狂ったから、もう一泊しよう。明日の朝帰る、で良いかな?」
朝ごはんを並べながら、黎人が聞いてきた。
「今日は、陽織が行きたがっていた、軽井沢教会に行こう。夜のキャンドルナイト、みたいでしょ?」
と。
陽織は、ランタンを灯すキャンドルナイトが、ずっと見たかったので、嬉しい!と、黎人にキスでお礼をする。




