陽織、戦力外通告
お祭りの翌日、4時間目の数学が終わると、Aクラスの女子3人が陽織の前に立つ。
「なに?」
「ちょっといい?」
佳織はいない。湊人も生徒会の話し合いが入ってるのでいなかった。
羽織と翔太には着いてこないように目配せした。
陽織は3人について屋上へ上がる、階段の踊り場へ行った。その先は立ち入り禁止のロープが張ってある。
「昨日佳織から、生徒会辞めたいって泣きながら電話あったんだけど。」
だからなんだ!
「あんた、神代くんの彼女なの?」
「佳織が好きなの知っていて、邪魔してるの?」
いや、知らなかったし。
「で?わたしが湊人の彼女だったら、どうするの?」
悪女って一度やってみたかったんだよね!
3人はちょっとの間、黙った。
「だいたい、湊人はちゃんと彼女持ちをアピールしてたはずだけど?」
本人が言ってたから間違いない!
「あんたみたいな貧弱チビより、佳織の方が、相応しいと思わないの?」
なにをー!少しはでかくなったんだぞ!
「佳織に、譲りなさいよ!」
湊人はモノじゃないけど。
その時、1人が陽織の肩をぐいっと押した。
やばい!落ちる!
と、思った時、陽織はそのまま体を捻り、バク宙した。
陽織の華麗な着地に、階段下を通りかかった生徒から拍手が起こる。おー!
「陽織!」
その中に湊人がいた。
羽織たちから聞いて、慌てて駆けつけたらしい。
「もう、勘弁してくれよー!陽織に何かあったら、俺マジで黎兄に殺される!」
と、陽織に怪我がないか、確かめながら言う。
「ん?あれくらいの高さなら大丈夫だよ?」
散々、スケートでは、回転ジャンプで着地していた高さだ。
湊人は、青い顔をした上にいる3人に向かって、大きな声を出した。
「お前ら、下手したら退学になるところだぞ!笹本にも、はっきり迷惑だ!って言った。俺にはちゃんと彼女がいる!こいつは、俺の彼女じゃなくて…‥‥‥‥兄の、婚約者だ!」
うわっ、認めたくねー!!!
なぜか最後の一言は、しゃがみ込んで頭を抱え、小声になっていた。
「よく言えたねー!湊人くん。お姉さんが褒めてつかわそう!」
陽織に上機嫌に言われると、余計にムカついた。
その後、3人は先生たちに呼び出された、一応危険な行為をしたと言うことで、親が呼び出しを受けることになったらしい。そこのところは、ちゃんとした学校だ。
たぶん、あれが陽織ではなく千織だったら、死まではいかなくても、大怪我はしていた。そう思うと、湊人は恐ろしかった。そして、ちゃんと千織を守るためにどうするかを考えた。
もちろん、黎人には怒られたが。
6月に入り、湊人たちは、少しずつ現場に連れて行ってもらえる回数が増えた。
陽織はいまだに、父と顔を合わせず、話もしていない。
神鬼の指導のもと、黎人は陽織に神気を注ぐタイミングや回数を、例外を除き月に三回と決めた。
陽織は、その月に三回の日がすごく嬉しくて待ち遠しかったが、なぜか黎人のスパルタ家庭教師もおまけでついてきた。
今年は日本史地獄から抜け出せたのに、世界史、古文は相変わらず陽織を苦しめる
6月の土曜日は、半日以上黎人に世界史を詰め込まれた後、グラングランする頭のまま、黎人から神気を注ぎ込まれる、と言う行為に、頭がついていかない。
すぐに、陽織が力尽きて眠ってしまうので、そのあと黎人は、自分の勉強をする。こんなことが、6月いっぱい続いた。
7月になると、さらに、祈梨の古文、悠人の数学、医学部も合格圏内だった黎人の、生物、化学、世界史の特訓が始まる。
最後は気力と精神力がゴッソリ削られた陽織に、黎人が嬉々として神力と霊力を注ぐ、と言う拷問?のような毎日。体力は逆に削られている。
優秀な家庭教師がついたことを喜ぶ母は、陽織が10時すぎに帰宅して、お風呂に入ってそのままベッドで死んだように眠るのも、気にしてない。
いや、気にして欲しい!
わたし、なんのシゴキを受けてるんだ!
期末試験の結果は、理系で学年2位。鬼教官の指導があったが、残念なことに、湊人には敵わなかった。
文系は美織がトップだった。
湊人が、
「おれは、兄上たちの地獄のような特訓を幼少期から受けてたんだ!年季が違うぜ!」
と言うので、なるほどと納得した。
そして、今や陽織に矛先が移ったことで、ホッとしているらしい。
(でも、そのあとの嬉々とした黎人の嫌がらせがないだろう!)
サマースクール前、夏期講習?と称して、なぜか祈梨から古文、悠人から数学、黎人から世界史の徹底授業が再開し、陽織は気が休まることがほとんどないまま、サマースクールに突入した。
2年生は夏休み中に、修学旅行でカナダへ行く。
そのため、サマースクールは、7月に入るとすぐに行われる。
陽織は、黎人たち鬼教官の指導と、地獄の10時間授業、どちらが楽か、真剣に考えてしまった。今年は全教科が、一番上のαクラスなので、授業が終わった後も、ひたすら予習、復習が続く。
サマースクール2日目の夜、陽織たちは大神に呼び出された。
「悪いな、勉強中に。実は明日は休んで、依頼の方に行って欲しい。」
大神の言葉に、陽織、湊人、千織、美織、翔太、羽織、葉鳥、宏輝、克哉全員が固まった。
「はあーっ?俺たち勉強だけで、今余裕ないんすが?」
「最終日の試験、どうしてくれるんですか?」
「試験の問題とか、見せてくれるんですか?」
と、みんな口々に文句を言う。
大神は、もちろんこうなることを予想していたので、部屋にしっかり防音結界を張っている。
「すまない!今、大学生組が全員前期試験で動けないんだ!」
「大学生組がいないってことは、陽織と美織は戦力外っすよ!」
と、湊人が陽織を指差して言う。
だから指差すな!
「2人は、後方支援しかできないね。」
「護符書いてもらったら?霊力高めだから、結構威力あるかも。」
「飯かな?2人が作れば、結構回復になるだろ。」
男子5人が口々に言う。
もう、絶対受けるつもりで話している。
「でも、俺たち全員未成年ですよ?誰が責任者なんですか?」
と翔太が聞くと
「彩奈さんだ!」
と、大神が言ったので、翔太はゲッ!と言った。




