陽織、二度目のお祭り
中間明けの土日、今年も神明神社のお祭りだ。
今年は千織と羽織は、裏方。御朱印を書いてる。
湊人は宮司の格好で売店にいる。
今年の舞は悠人と黎人。
和嶺は今年、手伝わないので、美織と一緒にお祭りを楽しんでいる。
陽織は、約束通り黎人の母美咲と一緒にいる。神明神社は美咲の実家になる。美咲と一緒に社務所の中で、お茶をしながら、神社の人たちのお世話をしていた。
奉納舞が終わると、悠人と黎人が去年と同じ部屋に戻って来た。
陽織は2人に冷えたお茶を出す。
祈梨は、明日巫女の手伝いをするらしい。
陽織が美咲と一緒に、浴衣姿で社務所の人にお茶を配っていると、いつの間にか黎人がそばに寄ってくる。
去年と違うのは、陽織は夜までいてくれると言うことだ。美咲が陽織の母、陽香に話してあるらしい。
陽織が浴衣で、社務所の宮司や巫女にお茶やお菓子を配ったり、部屋の空調を尋ねたりしていると、黎人たちの祖父がやって来た。
「美咲、あの子が黎人の花嫁の子か。よく動く子だねー。可愛いし、愛嬌もある。」
と、感心していた。
黎人はその言葉を聞くと、自分のことのように、嬉しくなった。ただ、陽織は今月に入って、2度死にかけている。
それだけは注意しておかなければ。
あまり陽織が休憩を取らずに動いているので、黎人は心配になり、母にお願いした。
すると、美咲も心得ていると、大きく手で丸を作った。
「陽織ちゃん、悪いけど湊人たちのところに行って、そろそろ交代して休憩って伝えて。ついでに陽織ちゃんも、休憩しなさい。」
陽織は、自分はずっと休憩している、と思っていたので、意味がわからない。
ただ、湊人たち5人には伝えないと、と思い授与所へ行った。
陽織が授与所に行くと、どこから聞きつけたのか、湊人のところに佳織たちが並んでいた。
並ぶのは勝手、と陽織は湊人の近くによると、
「お母様が、交代して休憩をとりなさいって。」
とわざと聞こえるように言った。
湊人は、ちょうどお守りを渡し終わったところだったので、奥の人に声をかけて、その人と交代する。
佳織が見ているのを知っていながら、陽織はわざと仲良く翔太たちがいる授与所に移動した。
翔太と宏輝がいる授与所の奥で、御朱印を書いていた羽織と千織は、その様子を見ていた。
5人は一緒に神社の奥へと入って行った。
佳織たちは、その様子を見て、ショックを受けていた。湊人が自分たちに気づかず、陽織と神社の関係者口に入って行くなんて。
しかも、他の子のように巫女姿ではなく、普通の浴衣なのに‥。
5人が黎人たちのところへ行くと、羽織が早速佳織たちのことを話し出した。
「もう、陽織ったら悪いんだから!絶対あれってわざとでしょ!」
他の人は、なになに?と寄ってくる。
陽織はちょっと悪女っぽく
「オホホホホ。」
と笑った。
それが面白くて、黎人が聞いて来た。
「あのね、Aクラスの女の子が湊人のこと好きなの。」
と陽織が話し出すと
「わ、やめろよ!兄上たちには言うな!」
と湊人が陽織の口を塞ごうとする。
そんな湊人にキャッキャとはしゃぐ陽織を、黎人は掴むと、自分の方へ引き寄せた。
「陽織、後で教えてくれる?」
と、黎人に抱きしめられて、コクコクとうなづいた。
「でも、あいつらのことは、ちょっと困ってたから、正直助かった。さっきの陽織の牽制で、ちょっと引いてくれるといいんだけど。」
と湊人が頭をかきながら、目を背けた。
「だけど同じ生徒会役員だろう?気まずくね?」
と翔太が言うが、気まずいのはあちらの方だろう。
「別に、告られたわけじゃないし、俺はちゃんと彼女持ち、ってアピールしてたと思うんだけど。」
湊人たちの話を聞くと、急に黎人が不機嫌な顔になった。
「どうしたの?黎人さん。」
「んー。陽織が僕の知らない話をしている。」
陽織は、そんなことで拗ねる黎人が、急に可愛く思えて、自分もギュッと、背中に手を回して抱きついた。
「そこ!こんなところで、いちゃついてるんじゃない!」
と、なぜか助けてあげた湊人に怒られた。
翌朝、お祭りが始まる前から準備は始まる。
宮司姿の湊人たち。巫女姿の千織たち。
そして陽織は昨日と違う浴衣を着せられている。
「んー!今日も可愛い!蝶の柄よ!やっぱりピンク系似合うわね!」
と美咲はご機嫌だ。今朝は陽香も来て、陽織の着付けを手伝っていた。
「もう、美咲ったら。うちの娘で遊ばないで!」
「だって可愛いんだもの!良いなー女の子!でも、陽織ちゃんには、たっくさんお洋服用意してあげているもんね!」
陽織はクローゼットいっぱいの、ワンピースを思い出す。
「ちょっと、美咲だったのね!陽織が黎人さんと会うたびに、出かけた時と違う服で帰ってくるから、主人が怒っちゃって、大変なのよ!」
と、2人の母は楽しそうなおしゃべりが尽きない。
どうでも良いが、人を着せ替え人形にしないで欲しい、とだけ、陽織は思った。
陽織は浴衣姿になると、今度は舞手の黎人の着付けを手伝う。
舞手は汗をかくので、中に一枚下着を身につけて、休憩の時に替える。
陽織は黎人の、祈梨は悠人の用意をする。
祭りが始まり、湊人たちは持ち場についた。
祈梨は授与所で巫女の手伝いを、陽織は今日も社務所の人たちのお世話係だ。
陽織が、あちらこちらにトコトコ走り回りながら、お手伝いをしている姿に、陽香は夫から聞かされた話を思い出していた。
(本当に、あの子変わったわね。)
大人の人と、あんなに上手に話すことができない子だった。他人に興味のない子だった。気の利かない子だった。
なのに、今は色々な人に声をかけられて、気を利かせて、自分から動いている。
ただ、陽織も流石に、昨日からの疲れはあった。
一回目の奉納舞の後、黎人の着替えを手伝いに行った陽織が帰ってこない。
心配して見に行くと、黎人に寄りかかって、陽織がスヤスヤ眠っている。
「やだ、この子ったら。ごめんなさい。黎人さんも、休めないわよね。」
と、起こそうとすると、黎人が静かに、と口元に指を立てた。黎人のその顔があまりにも優しくて、陽香は、陽織が羨ましくなった。
(こんなに愛されてるなんて、幸せね。)
そのうち、お昼休みになり、湊人たちがドタドタと戻ってくるまで、陽織は黎人に抱きしめられて、眠っていた。
一番最初に戻って来た湊人は、陽織があまりにも良く眠っているので、ほっぺをつねったり、つついたりして、黎人に怒られた。
「兄上、俺弁当とってくるから、その間に眠り姫を起こしておいてよ。」
と湊人が言って、出て行った。
(そっか、眠り姫はキスで起きるんだよね!)




