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陽織、花嫁修行

陽織は、佳織たちからの誤解を受け、ちょっと面白くなっていた。

ただ、今はそれどころじゃないので、とりあえず保留することに。


そして今度は千織に懇願する。

「えーっ、日曜日だけなら湊人くんも、お兄様たちの誕生会をやるからおいで、って言ってくれたけど。」

と、もじもじする。


「もちろん、それで良いよ。ただ、前の日はわたしも一緒だったことにして!」

「えーっ、美織ちゃんから和嶺先輩にバレたら気まずいもの。嫌よ〜。」

とやんわり断られた。


結果、祈梨と口裏を合わせるしかないと、思うことにした。祈梨と陽織の家では、あまり接点がないから、たぶん大丈夫だろう、と。


土曜日の午後。陽織は大学の正門で黎人と待ち合わせした。

医学部と法学部では、一年生以外ほとんどキャンパスが違うので、兄たちとニアミスすることはない。


陽織は一度家に帰り、高校の先輩と会う、そのまま先輩のお家に泊まる、と言って家を出た。

祈梨は、和嶺の元クラスメイトなので、先輩と言っても間違っていない。


祈梨とは途中合流したが、彼女は悠人といつものデートパターンで、別行動になる。


陽織は、黎人と初夏の公園歩きを楽しんだ後、黎人の家に行った。黎人の両親は、陽織を気に入っているので、いつでも陽織を大歓迎してくれる。


黎人の母と、夕飯作りをして、約束通り?湊人のおかずは肉多めにする。

「いや、いくら肉好きでも、ステーキと、ハンバーグと、トンカツって、俺を成人病にする気か?!」


陽織はお風呂の後、神代の母が用意した浴衣を着た。

可愛い!自分でも気に入っていたが、黎人の母美咲は、もっと気に入ってくれた。

浴衣は赤紫地にピンクと水色のライン、そして菖蒲の花があしらっている。

オレンジ色の帯には、陽織が好きなウサギの絵がついている。


「うーん、陽織ちゃん!今度、神明神社のお祭り、一緒に行きましょう!」

と誘って来た。


明日は大好きな黎人の誕生日。

着物が汚れないよう畳むと、ベッドにいる黎人の隣に潜り込む。そのまま黎人に抱きしめられると、陽織は幸せいっぱいになった。

そして、夜更け前、陽織は黎人の胸の中で、翌日を楽しみに眠った。


翌朝、陽織は目を覚ますと、一番に

「黎人さん、20歳のお誕生日、おめでとう。」

と、囁いた。

目を覚まして、最初にそう言われた黎人は嬉しくなって、陽織を抱きしめた。


陽織は黎人の家でシャワーを浴びると、クローゼットに用意されていた服に着替えて、本邸で朝の支度を手伝いに行く。


慣れた動作に、黎人の両親も、そのまま本当に娘のように可愛がってくれる。

「えー?湊人が?」

「そうなんですよー。」

2人仲良く並んで、朝ごはんの支度をすると、陽織は黎人を起こしに行く。


黎人は、陽織を抱いた後、また眠ってしまったらしい。

「黎人さん、朝ごはんできましたよ。」

と陽織が声をかけると、黎人が寝ぼけ眼で、起き上がり同時に陽織をまたギュッと抱きしめる。


「ダメですよ。今日は黎人さんと悠人さんのお誕生日なのだから。」

そう言われて、起きた黎人は、陽織に手を引かれて本邸のダイニングに入った。


いつのまにか湊人がすでに座っていて、兄たちの姿に呆れている。

「おはよう。陽織、余計なこと母上に、話すなよ。」

いきなり湊人が膨れた。

「えー?いいじゃない!モテモテなんだから!」

と、陽織は湊人モテモテ事件の話をした。

「おかげで、わたしAクラス女子に、睨まれてるんだもの!まあ、千織の防壁になってあげるわ!」


9時前に、悠人が祈梨を連れて帰って来た。

黎人曰く、2人は神代家が持つ、高級ホテルのスイートをいつも利用しているとか。


え?それ羨ましいかも!


美咲と蓮也は初対面の祈梨と軽く挨拶を交わした。

そして9時を過ぎると千織がやって来た。

千織は幼馴染なので、昔は何度か遊びに来たことがあるらしいが、中学に入って以降は初めてだった。


久しぶりに緊張する千織を湊人が連れて、リビングに入って来る。

千織は、久しぶりの湊人の両親と挨拶した後、こちらも初対面の祈梨とも挨拶を交わしていた。


今日は人数が多いので、来客がある時に使うという、20人以上が入れるダイニングを使う。


陽織は使用人の人に手伝ってもらいながら、そちらに料理をセッティングしていた。


千織がキョロキョロと陽織を探していたので、湊人がダイニングね連れて来た。

ダイニングでは、陽織がテキパキと料理のセッティングを支持していた。

千織に気づくと

「あ、いらっしゃい!もう、終わるからリビングで待っててね!」

と陽織が答える。その姿は、この家の女主人のようだった。


千織が不安の顔を浮かべると

「あー、陽織は母上から、この家の嫁修行もさせられてるから、気にしないで。」

と湊人に言われた。

「嫁?修行。」

「うーん、結構板についてきたかな。兄上の20歳の誕生日だから、他の親族も来るみたいだし。陽織の嫁デビューだね!」

と、湊人は呑気に笑っていた。

「ほかの、親族。」

千織は、聞いてない、聞いてない!と、血の気が引くのを感じた。


10時になると、連夜の弟妹夫妻が揃い、誕生日会が始まった。

蓮也の挨拶のあと、黎人、悠人が挨拶をし、陽織、祈梨、千織が紹介された。

祈梨もこれほど規模が大きいとは、知らなかったようで、かなり緊張していた。


陽織はお正月のことがあったので、少し慣れた。

その後、黎人が陽織をエスコートし、叔父叔母たちに改めて紹介する。

その様子を見て

「湊人くんは、やらないよね?」

と、コソッと聞いたら、首を横に振られた。

「やらない、やらない、あんなの恥ずかしい!」


品よく笑う陽織は、いつもと全然違う。

あれ、誰?と、千織と湊人は顔を見合わせる。

さすが、数年前まで、世界中の人の前で、堂々演技していただけのことはある。


1時を過ぎると、叔父叔母たちは帰って行った。

「陽織ちゃんも。疲れたでしょ。今日はもう2人で休みなさい。」

と美咲に言われ、お言葉に甘えて、と別邸に行こうと思ったら、なぜか悠人や湊人たちが着いて来た。

「ねーねー、黎人の家見せてよ!」

と悠人。

「俺も見たーい!全然、中見せてくれないんだもん!」

と湊人も言ってくる。

「少し、だけなら。」

と、4人を案内することになった。


(黎人さん、わたしちゃんと片付けてないかも。)

(寝室はやめよう。)

と、2人はコソコソと話していた。


一階のダイニング、キッチン、リビングを見た4人はその広さにびっくりする。

キッチンも、最新のものだ。

「元々、お祖父様たちが、平屋で使っていた家だからね。」


リビングとダイニングをキョロキョロしていると、どこからかピーピーという電子音がした。

すると、陽織がパタパタとどこかへ駆け出して行く。

湊人たちは、その後を追う。


陽織がドラム式の洗濯機乾燥機から、洗濯物を取り出していると、ランドリールームの入り口に、みんなが集まっていた。

「な、なんで、黎人さん。待ってもらってなかったの!?」

陽織が、恥ずかしさと驚きで、すごく嫌そうな顔をした。それもそうだ。洗濯物を見られるなんて。


黎人は、目を逸らすようにバスルーム、脱衣所、ランドリールーム、リネン室を案内した。

その間、洗濯物をかごに入れた陽織は、パタパタと2階に駆け上がった。


そのうち、人の声がして来たが、黎人は先に3階へ案内したらしい。3階は大きなバルコニーと、黎人の勉強兼仕事部屋がある。


その間、陽織は必死に洗濯物を黎人のクローゼットと、自分用のクローゼットにしまっていた。

しかし間一髪、

「へえー、ここが兄上の寝室!スッゲー広いんだけど!体育館みたい。」

そこまではない。

「シャワー室?あ、お風呂も付いてるんだ!なんて贅沢!」


陽織は湊人たちの声をよそに、まず自分の服をしまい、次に黎人の下着をしまおうとした時

「え?黎人。陽織ちゃんに、自分の下着、洗わせてるの?」

という悠人の、ちょっとだけ軽蔑するような声が降って来た。

「ち、違う!今日は、その、たまたま、というか。いつもは自分で、ちゃんとやってる!」

という、黎人の慌てる声。

「ねえ!ねえー、ここクローゼット?でかい!」

と湊人が手をかけたのは、陽織のクローゼットだった。中には美咲が楽しんで用意した、陽織のワンピースドレスがずらっと並んでる。

「黎兄?女装の趣味、あったの?」

と、頓珍漢な湊人の声を聞いて、陽織が慌てて後ろ手に閉まる。

(下着まで、見られてないよ、ね。)


「なあ、陽織。もしかして、もうここに住んでるとか?」

確かにここに住んでも困らないくらい、服や下着、小物が充実している。制服も一式、揃っているので、正直恐ろしい。















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