陽織、連休の終わりと暗躍
陽織は、シャワーを浴びて着替えると、朝食の準備を始めた。
リビングでは彩奈と黎人が報告書を作っている。
「彩奈さん、ここ漢字、間違ってます!」
「彩奈さん、この言い回しは変です!」
「彩奈さん、こんな日本語の使い方はありません!」
陽織はクスクス笑いながら、サイドテーブルに2人分のコーヒーを置いた。
朝ごはんが出来上がる頃、神嶋はやって来た。
報告書も、ギリギリ間に合った。
陽織はダイニングテーブルに、5人分の朝食を並べる。
大根のお味噌汁、だし巻き玉子、おひたしと焼き魚、そしてご飯。
そんなメニューを見て
「おー、陽織さんの朝ごはんは美味しそうですねー!」
と神嶋が言う。当然、神嶋の分はない。
「陽織さんも、どことなく色気が出て来ましたね。胸も大きくなったのでは?」
などと言ったものだから、黎人がブチ切れた。
「神嶋さん!早く報告書を見て、サッサと帰って下さい!じゃないと、セクハラで訴えますよ!」
「おやおや、おたくのご主人は心が狭い。」
神嶋は相変わらずどこ吹く風だ。
「夫は、わたくしをとても愛してくれてますの。」
と、陽織は神嶋に合わせて悪ノリしている。
「奥様は、幸せものだ。」
と、2人は小芝居?をしていた。
そのうち、翔太や和嶺、湊人、千織、美織と、みんな起きて来た。
「おや、どちらが湊人くんの奥様で、どちらが和嶺くんの奥様でしょう?」
「奥様?」
と千織が、わけのわからない顔をすると、彩奈が
「すまない、今ウチの上司と陽織が、小芝居をしていたところで。」
と頭を抱えていた。
初めて神嶋に会う千織と美織は互いに自己紹介をしたが、和嶺と湊人は、2人を必要以上、神嶋に近づけなかった。
陽織と彩奈、黎人を除く5人は神嶋がいても朝ごはんを先に済ませてもらう。
神嶋が帰ると、彩奈と黎人、陽織も朝食にした。
「もう、6時前に彩奈さんに起こされたから、お腹空いちゃいましたよー。」
と黎人が言うと、
「いや、本当に今朝は色々すまなかった!」
と彩奈が2人に頭を下げた。
「いえ、わたしはちょうど起きたところだったので。」
と陽織は苦笑いしながら、ね、と黎人の顔を見た。
朝食が終わって色々片付けると、午前中にコテージを出発する。明日で終わるGWだが、もう帰省ラッシュは始まる。
できるだけ渋滞に巻き込まれないよう、早めに出発することにした。
車に乗るメンバーは、行きと同じ。
出発前に和嶺が、
「黎人さん、運転中はたとえ赤信号でも気を抜かず、安全運転をして下さい!」
と念を押して、彩奈の車に乗った。
家の前で、彩奈の車から和嶺が、黎人の車から陽織が降りる。
陽織は週末の約束を黎人として、別れた。
陽織は家に入る前、和嶺に
「あの、なかなかタイミングがなくて言えなかったけど、助けてくれて、ありがとうございました。」
と頭を下げた。
はじめは、なんのこと?と思ったが、海でのことだと分かり、オー、と一言。そのまま玄関を入った。
2人が中に入ると、両親がすぐに飛んできた。
「陽織!大丈夫か?」
「どうして、高嶺と帰ってこなかったの?」
と、和嶺の方は無視?されている。
陽織が和嶺と顔を見合わせると、
「溺れたからじゃね?」
と言われた。
「ただ、今。あの、え、と。黎人さんと、和兄様が、助けてくれたから。」
と、陽織が答えると、
「そうか、和嶺が!」
「偉いわ!ちゃんと妹を助けて!」
と、黎人の名前をスルーする。
まあ、あまり細かい話をして墓穴を掘りたくなかったから、そこは陽織も合わせる。
久しぶりの我が家だが、やはり1人は寂しい。
黎人の温もりが恋しい。
連休明け、と言っても、またすぐに週末が来る。
今週末の日曜日は悠人と黎人の誕生日。
陽織はなんとしても、土曜日から黎人のところに行きたかった。そして、黎人の誕生日、朝一番に「おめでとう」を言いたかった。
そこで、祈梨と千織に協力を仰いだ。
連休明けの木曜日。学校へ行くと、大神が陽織たちを待っていた。
「良かった。無事に帰って来たみたいだな!」
と、笑う。
「先生、あの銀狼、生徒に見せてくれないんですか?」
と翔太が聞くと
「嫌だよ。余計なことすると疲れるもん!」
と返された。
金曜日。理系と文系は朝からずっと別授業。陽織と羽織、湊人、翔太は理系、他はみんな文系だ。
「ほら、次は物理室でぞ!」
時間割を把握していない陽織は、湊人に追い立てられるように移動する。
移動教室と実験が多い理系は、大忙しだった。
数学も、文系と理系では違うクラスで、理系は同じ2年のAクラスと一緒だった。
Aクラスは術者こそ少ないものの、学力的には同等のクラス。そのため、理系、文系で分かれた今、主要教科を一緒に受けることが多い。
「あれって、神代くんだよね。副会長の。カッコいいよねー。」
湊人は、結構モテる。Sクラスでは千織のことを知っている人が多いから、あまりわからないが、他のクラスでは、密かに思いを寄せている子もいるとか。
「神代くん、来週の生徒会のことだけど。」
Aクラスで.同じ生徒会役員の、笹本佳織が声をかけて来た。
佳織は何かと、自分は湊人と親しいアピールがしたいらしい。
そんな佳織と話す湊人を見て、
「湊人ー、モテモテじゃん!」
「あれー?千織に言っちゃおうかなー。」
と、やたらと羽織と陽織は、いじっていた。
「お前らマジうざい!やめろよな!」
と、その度に湊人が顔を赤くして、言い返していた。
そして、その日も
「えーっ、千織を巻き込むのやめろよなー。」
と、陽織の協力要請に、湊人はいい顔をしない。
「そんなこと言わず、お願い!湊人の好きなお肉、夕飯用にいっぱい買って行ってあげるから!」
陽織は、肉で湊人を釣る?と言う、強硬手段に出ていた。
「何、湊人くんってお肉好きなの?」
それを聞いた羽織がケラケラ笑う。
「肉、好きだよな!この前のバーベキューも、スッゲーたべてたし。」
と、翔太。
「で、何何?陽織が湊人の家に泊まるのを誤魔化して欲しいの?」
「とにかく、俺たちをお前の暗躍に巻き込むなよー。ウチの母上も、陽織には甘いんだから!」
と言った会話を4人がしていた。
それを小耳に挟んだAクラス女子は、ちょっとした勘違いに走った。
その日の放課後、陽織と羽織が下駄箱に行くと、Aクラス女子が待っていた。
「ちょっと、あなた神月さん?って、たしか神月先輩の妹よね?あなた、神代くんと、付き合っているの?」
はじめ、陽織は言われている意味がわからなかった。
「神代くん?神代くんて、誰だっけ?」
と、羽織に聞くと
「湊人くんだよ!湊人くん!」
よくよく考えると、三兄弟を分けるため、陽織は最初から下の名前で呼んでいた。
そして、なんでわたしが湊人相手に?
しかし、よく考えた結果、
おー、この展開はもしかしたら、勘違いの嫉妬というやつか?
と、理解して、ポンと手を叩いた。




