陽織、海へ行く
今年のGWは、悲しくも神嶋から依頼が入った。
みんなでどこかへ行こう、と言っていたのに‥。
しかも、今回は大掛かりなもの。
そこで、依頼をこれ幸に、みんなで依頼が終わったらそこでGWを楽しむことにした。
「で、どこだって?」
「海よ海!」
「まだ入れないだろう。」
「別に海水浴するわけじゃないし。」
と、いつものメンバーが騒ぐ。
しかし悲しくも、羽織、葉鳥兄妹は、家の手伝いでダメになり、克哉と宏輝は、神嶋から違う依頼を受けていた。
実際に依頼を頼まれたのは、黎人、湊人兄弟と、彩奈、翔太姉弟、そこに和嶺だったので、巫女の美織、千織、陽織を含めた八人で、最終的には受けることとなった。
今回は一番年上の彩奈がリーダー!
明王大の正門にみんなで集合すると、彩奈が運転するSUVと、黎人が運転するSUVが現れた。
彩奈の車には、翔太の他に和嶺と美織が、黎人の車は、陽織と湊人、千織が乗り込む。
「今回から和嶺が運転できるのは、ありがたいね。」
と彩奈が言うので、陽織はぐるっと美織の方に、絶対ダメ、と言う顔を向けた。
「なんでみんなカップルなのに、俺だけ姉貴なんだよー!」
と翔太が文句を言うが、湊人が
「俺はいつもそうだぞ!」
と陽織と黎人を指差す。
こらこら、人を指差すのはいけないと教わってないのか?
彩奈と黎人は行く場所と道の確認をしている。
「今年から、わたしも就職して神嶋の部下になっちゃったから、事務的なことは、なんでも任せて!」
と言って、彩奈が車を発進させた。
え?彩奈さん、大丈夫?というみんなの心配を他所に。
黎人はその後をついて行く。
「千織、千織、途中わたし後ろに行って湊人と入れ替わるね!」
と陽織が言ったら、湊人と黎人から、えーっ!?と声が上がった。
そんなことも楽しみながら車は荒川を超え、埼玉へ入って行く。
いつのまにか後部座席では、湊人と千織の寝息が聞こえていた。
「あれ?2人とも寝てる。陽織も、眠かったら、寝ていいよ。」
「大丈夫!黎人さんが安全に運転できるように、隣で応援してる!」
と、赤信号で止まると、陽織は黎人に甘える。
「こら、落ち着いて運転できないからダメ!」
と言いながらも、黎人は楽しそうだ。
車は国道を北上し、途中コンビニで休憩をとった。
目を覚ました湊人と千織を揶揄いながら、さらに車は東へと進んで行った。
結局、湊人の反対に合い、席交換ができなかった。
毎日、学校でイチャついてるくせに!
「えーっ!黎兄と陽織だってイチャついてたんじやないのかー?」
と湊人が言うと、
「はあ?運転中にそんなことしてる暇ないだろ!」
と、怒られていた。
それから、1時間もすると、拠点とする隣町のコテージに着いた。
コテージには、部屋が3つ。2人用が1部屋に3人用が2部屋ある。
「ちょっと待て、姉貴!男女4人ずつだぞ!どうやって部屋分けするんだ!」
そう。どうやっても、一組は男女同室になる。
「え?わたしとお前で良いだろう。姉弟なんだから。」
彩奈が言うと、翔太のイヤだー!という絶叫が。
「しょうがなだろう!8人で、となったらここしかなかったんだから!」
「あ、あのー。もしよかったら、僕と陽織は同じ部屋でも良いですよ?」
と、黎人が小さく手を挙げると、
「はあー!?運転しながら、イチャイチャしてるバカップルが同じ部屋?」
と、和嶺が大声を上げた。
「見てたんだぞ!赤信号のたびに、お前らー!湊人も怒れよ!」
「運転中にそんなことしないって言ってたのは、どこの誰だ?!」
そのあとは、ちょっとした修羅場になった。
「どちらにしても、夜は現場にいくのですから、のんびりしている暇は無いと思います。」
意外にも場を纏めたのは、陽織の一言だった。
8人は昼食をとった後、現場に向かうことになった。
隣町とはいえ、歩いて行ける町境のコテージなので、車を出すのはやめた。
現場に向かいながら、彩奈が今回の内容を話す。
ここは、数十年前に起こった震災の時、大勢の人が津波で命を落とした。
その後、海には鎮魂の意味を込めた慰霊碑が建てられた。さらに浜に打ち上げられた遺体の中で、損傷が激しく形を留めていなかった者を埋葬するための墓地が作られ、近くには災害を繰り返さないための、お地蔵様を祀る祠が作られた。
ところが、数年前の大型台風で祠の一部が壊れて、さらに心霊スポットにしよう、などと馬鹿な考えをした若者たちによって、お地蔵様も、壊されてしまった。
見事、若者たちの思惑通り、ここは心霊スポットになりはて、最初の犠牲者が、お地蔵様を壊した若者たち。
それは自業自得なので、置いといたとしても、その後も、若者がサーフィン中に波に飲まれ、命を落とすという事故が続いている。
台風で壊れた時から、すでに10件以上の事故があがり、その半数以上が死亡事故だった。
中には遺体が発見されていない者もいる。
「それじゃ、必ずしも夜とは限らないか。」
「サーフィンとかやったほうがいいのかな?」
「助かった者の証言では、かなりの数の幽霊が出たそうだ。」
「ウゲ、その中でサーフィンとか、考えただけで怖いんだけど。」
などと話しているうちに現場へ着いた。
「これが、壊された祠とお地蔵様だ。」
美織と千織は、祠の周りを取り巻く霊を見ただけで、声が出なくなる。
「ひどいなー。こんなことやる奴って、ほんとにいるんだ。」
千織を背に庇いながら、湊人が言う。
「翔太、祓えるか?」
彩奈に聞かれて、翔太が懐から護符を出した。
護符を指に挟み、翔太の霊力を込めて、祠の周りに投げた。
すると、その周りにいた霊は、霧散するように消えた。
その後翔太は、壊された地蔵の頭を乗せ、彩奈がお地蔵様に念をこめる。
「多少見られる形に直ったが、やはりきちんと直した方が良い。」
と彩奈が言う。
祠も、みんなで、綺麗にして、なんとか見られるようにした。
その後海へ向かって歩いて行くと、浜辺では普通に遊ぶ子どもたちもいるし、家族連れやアベックもいる。
見た感じはどこにでもある、初夏の海だ。
沖の方では、事故が相次いでいるにも関わらず、サーフィンを楽しむ若者の姿もあった。
「ここは、都心から近い中でも、良い波が来ると、サーファー間では有名なスポットらしい。」
彩奈が説明する。
「でも、事故のことは皆さんご存知ですよね?」
千織が聞くと
「サーフィンって、ここに限らず、結構事故が多いんだよね。だから、幽霊話もあちらこちらにある。気にしていたらやってられない、とか、幽霊話なんて眉唾と思っている人も、多いんじゃないかな。」
と和嶺が答えた。
「とにかく、ことが起こらなければ何もできない。祠を直したから、収まった、ならそれはそれで良いし。とりあえずは、しばらくこの辺りで自由行動にして、様子見かな。」




