陽織、16歳
3月2日、陽織は学年末試験で美織を抜いて女子1位、男女合わせて湊人に次いで2位になった。
その日、陽織はドヤ顔で、両親にその成績表を見せた。
「ふ、ふーん!」
両親の目の前に、学年末試験の成績表を広げる。
「す、すごいわ、陽織!」
「あ、当たり前だ。お前はやればできるんだ。」
父は素直に褒めない。
悔しい!
でも良い。交渉はこれからだから。
「頑張ったんだから、ご褒美ちょうだい!」
と陽織が言うと
「当たり前よ!明日はあなたの誕生日だしね!」
と母がニコニコ顔で答えた。
「な、なんでも、お前の好きなもの、言ってみなさい。」
父の答えに、陽織はニンマリと笑う。
やった、言質とった!
「明日は、一日中黎人さんとデートしたいの!」
今まで、一度も言ったことのない言葉。
デート、デート、デート!
「いや、好きなもの、と言ったんだ!好きなこととは言っていない!」
と父は大人気なく反撃する。
「はあ?だから、私が好きなもの、で良いんだよね?私が好きなものは、黎人さんと、デートする時間、なの!時間!これは、モノだよ!」
陽織も負けてない。
「陽織、遅い反抗期か?」
そばを通った和嶺がポツリと言った。
そばで見ている母は、呆れ顔になっていた。
「でも、陽織のバースデーパーティー、開きたいなー。」
と、わざとらしく、母が甘え声で言ってきた。
「う、ち、ちゃんと、夜には帰って、くる、から。」
仕方なく答えると、父も仕方なさそうに、
「わかった。門限6時だ。」
「え?明後日の朝の6時⁇」
「馬鹿もの!夕方6時だ!」
「早すぎ!9時!」
「ダメだ、それじゃ間をとって7時だ!」
「全然、間じゃないじゃん!」
結局、陽織が7時で妥協した。
「お前、神様の花嫁になりたくなかったんじゃないのか?」
陽織の後ろから、父がかなりの圧で言い放った。
そして翌日、陽織の誕生日になった。
陽織が衝撃の事実を知らされ、力を取り戻しちょうど一年。
朝9時に黎人が陽織を迎えに来た。
いつもなら門の前に車で待っているだけだが、今日はちゃんと玄関を入り、花束を渡され、陽織の両親に挨拶をした。
まるで、フロムのエスコートみたい!
と、陽織は顔がニマニマしそうになった。
陽織は黎人のエスコートで、車に乗る。
今日は黎人にもらったピンクのワンピースを着て、靴とアクセサリー、バッグを身に纏っている。
黎人はその姿を見て、目を細めた。
今回も、クリスマスイブの日と同じ?と思ったが、流石に全身コーディネートはなかった。
近くの大きな公園を歩き、百貨店をブラブラし、そしてお昼近くになると黎人が家に誘ってきた。
「実は、母が陽織の誕生日会をやりたがっていて。」
と黎人が苦笑する。
黎人の家では、母の美咲がご馳走を作って待っていた。
「はあ?なんで陽織の誕生日をウチで祝うんだ?」
と文句を言った湊人は、朝早くから千織と出かけたらしい。
美咲が用意したご馳走を食べ、黎人の両親から色々と質問責めに合う。
さらに、2人からもプレゼントをもらってしまった。
食後、前回と同じように黎人の部屋へ行く。陽織は胸が急にドキドキしてきた。
でも、これは自分も望んでいることだから、怖くない、怖くない、怖くない、と言い聞かせる。
陽織がベッドの上に腰掛けると、黎人が隣に座り、陽織の手をとった。
「陽織、16歳おめでとう。」
そう言ったあと、陽織の前にひざまづき、左手をそっと手に取る。
その手には、小さな指輪が乗っていた。
ドキドキが爆発しそうになる。
「陽織、2年後の今日、僕の本当のお嫁さんに、なってくれますか?」
2年後。陽織の18歳の誕生日。
陽織がコクンとうなづくと、黎人は手のひらの上の指輪を陽織の左手の薬指にはめる。
誕生石のアクアマリンの周りに、小さなダイヤがハートの形に散りばめられている。
陽織が嬉しくて涙をこぼすと
「陽織は泣き虫だなー。」
と笑って、そっと唇を合わせてくれた。
う、ん。
いつのまにか陽織は眠っていた。
陽織は目を擦ると、ベッドの上にあった時計を見た。
6時40分。
や、ヤバイ!
「どうしたの?陽織。」
陽織はバタバタと服を着て、ボサボサの髪をなんとかしようとする。
「と、父様に、門限、7時って!」
「ちよ、ちょっと待って。」
黎人はそう言うと、引き出しから形代を出して飛ばした。
すぐに美咲が飛んでくる。
「あらあらあら。」
美咲はそう言うと、陽織の髪を整えて、身なりをきちんとしてくれた。
「7時?まだ10分あるから大丈夫よ。」
その間、黎人も服を着て車を回してくる。
「あ、ありがとうございます。ご馳走さまでした。」
と、挨拶も早々に、黎人の車で、家に戻った。
時計は7時10分。
「た、ただいま戻り、ました。」
息も絶え絶えに玄関を入ると
「あらー、陽織、ちゃんと約束守ったのね。」
と母が出迎えてくれた。
いや、これは遅刻したことへの、嫌味だ。
「す、すみません。道路が、渋滞、していて。」
黎人も陽織の後ろから息を切らして言う。
渋滞、と言うほどではないが、信号に何回も捕まったのは、事実。
「行動には、いつも余裕を持ちなさい。蓮也に言われていないか?」
陽織の父、高樹が黎人を上から睨みつける。
黎人はそのまま、神月家の誕生日パーティーに出席することになってしまった。
しかし、それを良い機会と考え、食事が終わるとすぐに立ち上がり、陽織の両親に頭を下げた。
なぜ黎人が頭を下げたのか。
陽織の左手を見れば想像がついた。
「2年後の今日、陽織と、陽織さんを、僕のお嫁さんに、ください。」
両親はもちろん、高嶺も和嶺も、複雑な顔をする。
(いやいやいや、まだ早すぎるだろう。)
(どうするんだ?ウチの親たち。)
和嶺と高嶺が、顔を見合わせる。
「‥、陽織は、どうなの?」
陽織の母が聞く。
陽織もソロソロと立ち上がり、黎人の隣で頭を下げた。
「2年。守れるんだろうな?」
と父が聞く。
何を?
と思ったが、2人はシラをきる。
これは、許してもらえたってことかな?
うん、許してもらえたんだね!
「だいたい、まだ20歳と16だろう。そのうち、飽きるさ。」
と父は、本気にしていない。
「でも、陽織?どうしてそんなに早く結婚したいの?」
と母が聞く。
「え?だって早く、黎人さんの赤ちゃん、欲しいんだもん!」
と、陽織が我が家の爆弾のスイッチを押した。




