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陽織、殺人事件を目撃する

2階の元美容室。

高嶺、黎人、陽織は入り口ドアの前から、思ったよりヤバい雰囲気に気を引き締めた。


「これは、何かあったかな?」

高嶺が呟く。

とにかく、霊の負の感情が半端ない。

恨みや、恐れ、悲しみを訴えかけるそれは、3人の全身を覆い尽くした。


特に、美容室の入口を入ろうとすると、なぜか男性2人は抵抗を受けて入れない。

一方、陽織はすんなり入れてしまい、気がつくと、何かが両者を分けた。


え?と陽織が振り向いたが、どんどん陽織だけが何かに中へと引き摺られていく。


肩を何かに引っ張られて、とうとう立っていられなくなり、そのままずるずると引き摺られる。

引き摺るものを見ようと、肩越しに頭を後ろに向けると、鏡から腕が伸びて、陽織を引き摺っていた。


こ、怖い!

やだ、ぶつかる!

陽織の体は鏡の前に置いてある、美容院の椅子に打ちつけられた。


痛ーい!痛い、痛い、痛い!

頭を椅子の背に、体を椅子の肘掛けや、背にぶつけられて、それ以上陽織は、鏡の手に引かれても動けない。


それでも腕はグイグイと陽織を引っ張る。

はじめは肩を引いていた腕は、そのまま陽織の右腕をグイグイ弾き始めた。

「痛い、痛い、痛い!腕がはずれる!」


陽織は体勢を変えて、足裏で椅子の脚を蹴り、右腕を自分の方へ引き寄せようとする。


霊との力比べのようになる。


すると、鏡の中にいた霊は腕だけでなく、肩、頭、上半身と、外へ這い出てきた。


やったー!勝った!

力比べに勝った陽織が、鏡の中から、霊を引き摺り出した。

そして、陽織は霊の前に仁王立ちになる!


入口から、中の様子を見ていた高嶺と黎人は、その様子に唖然とする。

が、ちょうど陽織に引っ張られた拍子に、入口にはられた結界のようなものが解けた。


慌てて中に入る2人。その時、仁王立ちになっていた陽織の首を霊が締め始めた。


「な!く、苦し、」

陽織も霊の手を掴んで離そうとするが、強過ぎて離れない。


陽織はドタバタと足で霊を蹴り上げるが、そこは空振りしてしまう。


黎人の手が伸びた時、陽織の膝がガクリと崩れた。


ーーーーー

男女の怒鳴り合う声が聞こえる。


「だから、もうあんたとは終わったの!しつこいのよ!」

女性が右手を高く振りかぶるより早く、目の前の男性の両手が女性の首を締め上げる。


「なんでだ!愛してるって言ったじゃないか!ミホは、オレのモンダ!オレの、オレの、オレ‥。」

男性は、女性に唾を飛ばしながら訴え、さらに女性の首を掴んだ手の力を強める。


「じ、じょ、う。」


女性は、その場に崩れ落ちた。


男性は、女性が崩れるように倒れると、自分がしでかしたことに気づいた。


「ど、どうし、どうしよ。ミホ、ミホ、ミホ!」

男性がなんどゆすっても、女性は目を覚さない。


陽織が目にしたのは、衝撃的な現場だった。

霊の最後の記憶?

殺人‥。


そのまま、暗転したと思ったら、男性が女性の体をコンクリートの壁の中に埋めている。


「こ、この中、だ、誰も、きづか、な、い。」


ーーーーー


その瞬間、陽織は目を覚ました。

気づくと、黎人が幽霊を祓っていた。


その姿は、さっきミホと呼ばれ、男性に殺された女性だ。


陽織が目を覚ますと

「陽織、大丈夫か?」

と、高嶺が陽織を抱き上げた。


「コンクリート。壁の中。」

陽織は、鏡の裏側の壁を指差した。


それから2日後、警察が雑居ビルの2階の壁を壊している。陽織たちの報告書を読んだ神嶋が手配したものだ。


陽織が見た霊の記憶通り、コンクリートの壁からは、ミイラ化した遺体が発見された。


合田ミホ、18歳の女子大生だった。

ちょうどこのビルを建てていた8年前、2つ隣の駅で目撃されて以来、行方不明になっていた女性だ。


別れた彼から執拗にストーカー行為をされた後、殺された。

当時、このビルを作っていた会社の下請けで働いていた左官工の戸山穣、現在29歳による犯行だった。


間に、学年末試験が入り、さらに次の週末の土曜日。

3月1日。

高嶺と悠人、黎人、陽織が神嶋に呼び出された。

和嶺と、祈梨は高校の卒業式だ。


神嶋からの事後報告を受け、事件の全容を知った。

犯人の男性は、殺人と遺体遺棄で逮捕されたという。4人はなんとも後味の悪い気分だった。


「この後、陽織さんはお兄さんの卒業祝いですか?」

黎人に聞かれ、小さくうなづく。

「悠人は、祈梨さんと約束があるみたいですから。」


黎人は、高嶺が車を取りに行く間、陽織と久しぶりの2人きりになれた。

「明後日、お誕生日、ですよね。」

黎人の言葉に陽織は顔を上げる。

「約束、できないですか?」

陽織は、黎人の目を見つめて言った。

「昼間、なら。」

「16歳の、お祝いをしましょう。










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