陽織、早めに片付けたい
高嶺たちが戻ると、お互いわかったことの、情報共有をする。
外は寒いので、個室が選べるお店に入り、お昼を取りながら話を進めた。
「あのビルが建ってから、全5室はすでに40以上のテナントが出入りしているらしい。」
「4階、5階はしばらく何も入っていないけど、以前はカラオケ店が2フロア利用していた、って言うことだった。」
「2階の美容院だけど、鏡の中の幽霊は、割と有名だったようだよ。」
さらに8年で5つのテナントが40回も変わっていたと言う。それは1年に一回は違う店や事務所が入っていたと言うことだ。
「さすがに変わり過ぎだね。」
悠人の言葉にみんなうなづく。
さらに、外を通った人からも、幽霊話はあったと言う。ただ、そのほとんどは夕方から夜にかけて。
「どうしますか?先ほども言ったように、あまり遅い時間になると、陽織たちがここに残ってもらうのは、正直進められない。」
苦々しい顔で黎人が言った。
「成人、と言うなら和嶺と祈梨さんはまだセーフですが、それでも高校生ですしね。」
「あ、それでは、時間制限を設けましょう。わたしたちは、8時まで、とか9時までとか。」
祈梨の提案に、誰もがうなづく。
「わかった。それでは3人は8時を目安に、それでも何も起こらなかったら、僕たち3人が残る、でいいかな?」
そこで話がまとまったかのようにみえたが、
「わたしたちは、どうやって帰るの?」
と陽織が疑問を投げかけた。
すると
「え?ウチの車を和嶺が運転して帰れば?僕は黎人たちに送ってもらう。」
と高嶺が言った途端、
「うっ、い、い、いやーーーッ!!!」
と言う陽織の声が、部屋中に絶叫した。
防音結界を張っていなかったら、店の人が何事かと、飛んできそうだ。
「無理無理無理無理!和兄様の運転なんて!」
と言う陽織に
「はあ。毎日学校の送り迎えしてるだろう?」
と和嶺。
「イヤイヤイヤイヤ、あれは明るい時間だから!暗い時間なんて、絶対無理!」
「俺は、教習所でも、上手いって褒められたんだ!」
「やだやだやだ、初心者マークじゃない!」
と言う2人の応酬に、祈梨も不安になってきた。
「いや、僕たちだってついこの前まで、初心者だったよ?陽織よく乗ってたじゃない。」
と、黎人が苦笑いした。
「黎人さん、は、信用してる、から。」
と言う一言に、和嶺が両手の拳を握って、陽織の頭を左右から梅干しをした。
とにかく、早い時間に出てくれれば問題ない、と、一同は雑居ビルに戻った。
とは言え、都会のど真ん中で、明るいうちから何か起こると言うのは期待できなかった。
陽織はひたすら
「お願い!早く出て、早く出て、早く出て!」
と、早く何らかの霊障が起こることを祈る。
「え、と、陽織ちゃん、大丈夫?」
「祈梨さん、何かあったら、ごめんね。和兄様の運転、すっごく荒いから。」
涙目の陽織に、祈梨も顔を引き攣らせた。
そして、陽織の祈りは天に届いた!
西に日が傾く、逢魔時。時計は4時50分を過ぎたところ。
2階の美容院でそれは始まった。
「やっぱり2階か。」
「他は、引き寄せられた小物ってことだね。」
みんなの顔に緊張が走る。
1人を除いて。
「やったー!やったー!出た、出た、ふんふんふん!」
となぜか陽織は上機嫌。
「陽織‥。」
呆れる高嶺。
「ま、残念な妹はおいといて、オレ今日美織に会えないかもしれないから、4、5階の小物、行ってきまーす!」
和嶺が、階段を駆け上がって行った。
「一階は、祈梨と僕で片付けます。」
と悠人。
「それじゃ高嶺さん、陽織と3人で2階をちゃっちゃとやっちゃいましょう。」
周りのテンションに煽られたのか、黎人もいつもよりテンション高めに言った。
どちらかと言うとヤケクソ気味で。




