陽織、クリスマスを過ごす
学校帰り、陽織は先輩の祈梨と2人、黎人と悠人に連れられて老舗百貨店へ行った。
そのまま、神山という外商の担当者に連れられて、お高そうな服とバッグ、そしてヘアメイクなど、一通り飾り立てられた。
黎人は陽織の手をいつもよりギュッと握っている。
「それじゃ、黎人、陽織さん。ぼくたちはこれで。」
悠人はそう言うと、祈梨を連れてどこかへ行ってしまった。
黎人は陽織の手を引くと、百貨店の近くにあるおしゃれなレストランへ連れて行く。
そこでは陽織が想像した以上の、美味しくて可愛いクリスマスランチが提供されていた。
店内は、クリスマスを楽しむカップルで賑わってる。
陽織はドキドキして周りが気になったが、どこもみんな2人の世界に入っていて、周囲の人のことなど、気にしていない。
テーブルの上で手を握り合ったり、中にはキスをするカップルまでいて、目のやり場に困った。
最後に出されてクリスマスケーキは、サンタクロース姿のうさぎのマジパンが乗っていて、食べるのがもったいない。
「どうしたの?」
と黎人に聞かれたので、うさぎが可愛くて食べられない、と言った。すると、黎人がお店の人を呼び、うさぎを持ち帰ることができるようにしてくれた。
「壊れないように、ね。」
と言われ、陽織がバッグにそっとしまう。
食事が終わると、黎人から
「これから、僕の家に着いてきてもらって良い?」
と聞かれる。
陽織が不思議そうに首を傾げると、
「うちの父と母が、陽織に会いたいって。」
その言葉に、陽織は血の気が引いた。
黎人の親に会う、と言うことは、陽織的には後戻りできないことを意味する気がしたからだ。
それでも、例の新聞記者たちを黙らせて、マスコミの誹謗中傷記事全てから、陽織の名を消したのは、黎人の父、神代蓮也のおかげだった。
そのことを知った時、きちんと礼をするのは当然だと思ってはいた。しかし‥。
陽織は震える右手を、そっと握る黎人の優しさにも答えたい、と思いコクン、とうなづいた。
駐車場に戻り、車は神田川沿いに北西へ向かう。
学校を通り過ぎたところに、突然大きな屋敷の門が見えて来た。
美織の家も大きいが、その比ではない。
黎人は陽織を助手席から降ろすと、手を引いて家の玄関の中に入って行った。
「ただいま戻りました。」
そう言うと、バタバタと足音がして、中から着物姿の綺麗な女性が出て来た。
「あ、黎人。お帰りなさい。」
黎人は自分の背中に隠れる陽織の背をそっと押して、紹介する。
「僕の母だよ。」
陽織がお辞儀をすると
「もしかしたら、そちらが、陽織さん?やっと連れて来てくれたのね!」
と、女性に手を取られた。
「は、はじめ、まして。神月、陽織、です。」
「あー、ほんと陽香の子どもの頃に、そっくり!」
黎人の両親は、陽織の両親を2人とも知っているらしい。
黎人の母、美咲に手を引かれ長い廊下を歩く。
「もしかして、その服は黎人のチョイス?」
と陽織に聞いて来たので、コクンとうなづく。
「もう、黎人好みにしちゃって、すっごく可愛い!」
美咲は上機嫌だ。
奥の応接室に案内されると、黎人の父、神代蓮也が待っていた。
「ようこそ、我が家へ。ずっと待っていましたよ。」
陽織は黎人の両親に歓迎され、ただ驚くばかりだった。黎人は、そんな陽織を見てニコニコしている。
陽織はあまりの歓迎ぶりに、オロオロしてしまう。
黎人の両親がソファーに腰掛けると、黎人はその向かいのソファーに、陽織と一緒に座った。
いつのまにか、神代家の使用人がお茶とお菓子を置いて、部屋を出て行く。
陽織は緊張しながら、再度自己紹介をし、先に起こった騒ぎを収めてくれたことの、お礼を言う。
「そんな畏まらなくても。高樹からも御礼は受け取っていますし。」
と黎人の父は、鷹揚に答える。
さすが製薬、医療機器、健康食品を束ねる神代グループの会長だ。器が大きすぎる。
「そうそう、いずれはあなたも我が家の嫁になるんですもの、必要な時は頼って良いのよ。」
美咲に、一番恐れていたことをズバッと言われ、陽織はくらっとしてしまった。
(どうしよう。退路を塞がれてしまった!)
「母上、陽織はまだ15歳です。それはまだ早すぎます。」
そう、黎人が陽織を庇うように言うが、あまり効果はない。
「そうは言ってもなあ、ちゃんと神様の花嫁というものがどういうものなのから話しておいた方が良いと思うぞ。」
と、蓮也が言った。
「神様、の花嫁?」
陽織が黎人の顔を見上げると、黎人は困ったような顔をする。
「それは、また後で話すね。」
黎人は今、ココで話す気はないらしい。
しばらくお茶とお菓子で楽しく談笑していると、
「そうだ!黎人、陽織さんを黎人のお部屋へ案内したら?」
と美咲に言われてしまった。
「え?」
と陽織が驚いているのを見ないふりしているのか、
「んー、そうだね。」
と言って、黎人が陽織の手を繋いだまま、部屋の外に出た。
黎人はそのまま、廊下をずんずんと歩き、渡り廊下を通り、別邸のような部屋の鍵を開けた。
「こっちが、僕専用の家なんだ。」
「黎人さん、専用?」
外に出ることなく渡り廊下でつながっているも、完全に違う一棟となっている。
「今通って来たのは、本邸から続く裏口で、玄関は別にあるんだよ。」
その言葉に
「え、と、部屋というより、お家です、か?」
陽織が聞くと、うん、と答えた。
「まだ、正式には僕の家、じゃないけど。陽織が花嫁ってわかった時から、陽織を迎えるために、両親が用意してくれたんだ。」
(な、なんという、セレ、ブ!)
もう、何を驚いて良いのか、わからなくなる。
別邸は本邸と違い洋館で、三階建てだった。
一階は広いリビングにダイニング、キッチンなど。
二階には主寝室と、まだ何も入っていない部屋が三つあった。
そして三階は半分がバルコニーになっていて、半分は普通の部屋になっていた。
「元は祖父母の家を、建て直したんだ。」
今のところ、家具が入っているのは、下のリビング、ダイニング、主寝室だけ。
あとはただの空き部屋だった。
「黎人さん、ここに一人で住んでるんですか?」
「うん、陽織がお嫁に来るまでね。」
「寂しくないですか?」
「え、じゃあ、すぐに一緒に住む?」
「いいえ、法に触れますから!黎人さん、法学部でしょう?」
黎人の部屋のベッドに腰掛けて、そんなふうに2人で会話した。
以前なら、神様の花嫁には絶対ならないと言って、多分違う答えを返していた。
今日はクリスマスイブ、陽織は黎人に服や靴、バックをプレゼントしてもらった。そして今は、それを身に纏っている。
そのせいか、気持ちがいつもと違うのかもしれない。
「あ、あのね、黎人さんは、クリスマスプレゼント、何が欲しい?ですか?」
陽織が、唐突にそう聞くと、黎人は目を丸くして、固まった。
(ちよ、ちょっと待て!ベッドに座って、僕に何が欲しいなんて、聞かないで!しかも、そんな可愛い顔で、可愛い格好で、それこそ法を犯してしまうよ!)
「陽織、か、な?」
それでも、やっぱりそう答えてしまった。
今度ば陽織が目を丸くする。
そして、みるみるうちに顔がりんごのように、真っ赤になった。
そんな陽織を見て、黎人は我慢の限界!と、いつもとはちょっと違う口づけをした。
陽織はその後のことをあまり覚えていない。
なんとなく覚えているのは、体中に何度もキスをされたこと。
そして
「ごめんね。」
とつぶやかれた言葉。
「黎人、さ、ん。」
そして、その次の記憶は、自宅の前。
黎人に「おやすみ。」と言われ、車から降りて別れた。
(あれ?わたし黎人さんの家に行って、何してたんだっけ?)
となんとなく、覚えていることを考える、がなぜか思い出せない。
母は、陽織が見たことのない高級ブランドの服を着ている姿に、とにかく驚いて問い詰めてきた。
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