陽織!ドキドキする
スポーツ記者の執拗なパパラッチ行為に振り回された学期末後、陽織たちは冬休みに入る。
二学期の成績は、中間テストも頑張ったから、苦手科目も大躍進だった。
女子で2番、クラス、学年、ともにベスト10入りしている。
成績表をもらった陽織は、思わず万歳を唱えてしまうほど。翔太はその姿に悔しがっていた。
終業式の今日はクリスマスイブ。
終業式の後、どうしようかという話しが以前から出ていたが、美織は和嶺とデート、湊人も千織とデート、と独り身ではない友人たちはちゃんと予定が入っていた。
明後日は、みんなで美織の家でパジャマ女子会が入っていた。いっぱい話したいけど、それまではみんなバラバラだね、と言って別れた。
この時期はキリスト教の行事や、新年の奉納など、宗教的なイベントがあるためか、人ならざるモノたちもおとなしい。
おかげで、安心してみんな過ごすことができる。
陽織はその前に色々あったが。
学校を出ると、陽織の前に一台の見慣れた車が止まった。黎人と悠人だった。
仕事?と一瞬思ったが、悠人の隣には、先輩の九条祈梨が座っていた。
祈梨は陽織に、乗って、と声をかける。
九条祈梨は、高校3年間和嶺と同じクラスで、図書委員だった。陽織は、親しいと言うほどではなかったが、何度か話したことのある先輩だった。
その祈梨が、悠人の巫女だと知ったのはつい最近、例の廃遊園地へ行った時。
しかし陽織は自転車を押している。
「陽織さん、自転車はウチの者が神月の家に持って行ってくれるから。」
悠人がそう言った。
後ろの席に1人座る黎人の隣に腰掛ける。
パパラッチのことがあったころから、ずっと会うことができなかった。ので、久しぶりだ。
陽織は黎人の隣に座ると
「その節はご迷惑をおかけしました。」
と謝罪から入った。
「え、と今日はどちらへ?」
と聞くと、
「とりあえず制服を着替えないとね。」
と黎人に言われる。
「湊人たちのように、同じ高校生なら制服デートもあったんだけど。」
と悠人が笑う。
車は日本橋の老舗百貨店の駐車場に入る。
4人が降りると、百貨店で外商担当の女性社員がやってきた。
女性社員は神山と名乗った。
外商の人に案内されるなんて、初めての経験に陽織は戸惑う。祈梨は経験があるのか、堂にいったもので、神山と楽しそうに話している。
婦人服フロアに案内されると、神山は、2人に次々とワンピースやブラウス、ジャケットなどを持って来る。
結局、祈梨は水色のワンピースドレスと、紺色のジャケット。陽織は薄いピンク色のワンピースと、白のボレロを選んでもらった。
12月なので、もちろんその上に羽織るものも。さらに学生カバンというわけにいかず、バッグも見繕ってくれる。
「それでは、こちらのお洋服とお鞄は、それぞれのご自宅にお届けいたします。」
そう言うと、神山は去って行った。
「え、と、お支払いは?」
陽織が気にして黎人に聞くと、
「ん?僕たちからのクリスマスプレゼントね。」
と答えられた。
「い、いえいえいええ!受け取れません、こんな高価なモノ!」
と陽織は大きな声が出そうになり、慌てる。
(いけない、いけない。)
目立ってしまう。
外商が付いてきたことから、たぶんお安いモノではないことは予想がついた。
でも、それをタダで受け取っては、陽織が全面的に認めたことになってしまう。
「ん?この前、陽織、電話で認めてくれたよね?」
何を?
と疑問を顔に浮かべる。
「ほら、いざとなったらって。」
あー、とこの前の会話を思い出す。
そういえばそんなことを、黎人が言っていたような?
あの時は色々パニクっていたので、そこまで頭が回らなかった。
しかも、そのあと、2人は百貨店内の美容室に連れて行かれ、髪もいつもより大人っぽく、ハーフアップに、うっすらお化粧もされてしまった。
だれ?これ?
「可愛い!まだ15歳?あ、もうすぐ16歳!」
「もう、肌がキレイすぎる!」
美容師たちは楽しそうに、陽織をこねくり回している。
「神代様の御婚約者様じゃなかったら、読モに推したいくらい!」
と楽し気だ。
ん?御婚約者!?
陽織は聞き捨てならないその言葉に、顔が青くなった。
祈梨が隣の椅子に座って、小声で
「諦めて。」
と言ってきた。
諦める?一体何を?
メイクが終わると、祈梨が
「実は、大学の合格祝いの時も、こんな感じだったの。」
と苦笑いした。
「うわっ、祈梨!すっごく綺麗だ!」
悠人がそう言って祈梨のそばに駆け寄り、そっと背中に腕を回し、腰に手を添える。
そして、自分の彼女です!をアピールしている。
その姿に陽織はなるほど、と納得したが、もしかしたら自分もアレをやられるのだろうか?と、不自然に黎人の方を振り向く。
黎人は、顔を赤くして口元を隠している。
「陽織?気に入ってくれた?」
黎人が照れながら聞いてくる。
(気に入る、気に入らないの前に、わたしはなぜこんなぬ可愛くしていただけているのだろう?)
黎人は悠人のように、腰に手を回すことなく、以前と同じようにギュッと手を繋いでくれた。
(わ、わたしは、今日、何を、される、の?)
お化け屋敷や幽霊屋敷に入った時よりも、はるかに胸がすごい音を立てている。
そのまま、本当に心臓が壊れるのでは、というくらい、ドキドキする。
陽織はこれから一体何が始まるのか分からず、とにかく胸の鼓動だけがうるさかった。




