陽織、人間の方が怖い!
12月1日、期末試験まで後3日に迫った日。
帰宅途中の陽織に声をかけてきた男の人がいた。
陽織は、怖い!と急いで自転車を漕いで自宅に駆け込んだ。
陽織に声をかけてきたのは、日々スポーツという新聞社の記者だった。
しかし、陽織は受験勉強のためちゃんとスケートは辞める、と発表したはずだ。もちろん、正式な会見とかはやってないが。
だいたいジュニアでどんなに有名でも、パパラッチに追いかけられるような筋合いはない。
しかも、引退したのに。
家に駆け込むと、陽織はすぐに家にいた母と和嶺に助けを求めた。
母はすぐに父に連絡を取り、兄は神嶋に連絡を取った。
「なんで神嶋さん?」
と陽織が和嶺に聞くと、神嶋はアレでも警視庁の人間だから、とニヤリと笑った。
確かに、神嶋に連絡をしたところ、近くの交番のお巡りさんが声をかけて、記者を追い返してくれた。
その後、期末試験中はなんとか無事に過ごせたが、試験最終日に、またその男が学校の正門で待ち伏せていた。
試験中は、なんとか無事だったので、安心していたが、学校から出ようとしたところに待ち伏せされて、陽織は驚き固まってしまう。
(助けて!兄様!黎人さん!)
陽織は自転車のハンドルを男に捕まれ、動けない。
そんな陽織を見た学校の警備員と、同じ頃門を出た湊人たちが、不審者がいる!と、すぐに飛んできてくれた。
その日は、湊人と千織が、一緒に家まで着いてきてくれた。
「パパラッチ?すげーな、陽織!」
湊人はちょっと陽織を見直す。
陽織はそんな通常運転の湊人に膨れながらも、少しだけ安心した。
「で、ね。このこと、絶対に黎人さんに、言わないで、ね。」
湊人は、なんで?と言う顔になったが、陽織があまりにも真剣なので、その迫力に押されて、うん、とうなづいてしまった。
しかしマスコミというものが、これほど嫌なモノとは、と心から不快に思ったのは、その翌日のことだった。
日々スポーツ朝刊の裏一面に、陽織の写真が載っていたのだ。
しかも、この数日ではなく、陽織が黎人とファミレスで食事をしていた写真。
遊園地の幽霊屋敷依頼の帰りの時のものだった。
「なんで。」
それだけではない。
その時に一緒にいた彩奈や拓哉、剛志は消されて、2人で食事をしているという加工されたものだった。
さらに、あの時陽織が黎人にドリアを食べてもらっていたワンシーンが!
見出しは「オリンピックよりも彼を選ぶ?万能少女、深夜のデート」というものだった。
それだけじゃない。
その前に悠人と黎人の三人で受けた山火事依頼の帰りの車内。悠人が後部座席にいたのは隠され、陽織が助手席にいた時の写真。
「大学生と深夜のドライブ?!」
という見出しまでついている。
確かに夜だったけど、深夜だったわけではない!
でも、暗い背景だけでは、見ている人はわからない。
スポーツ誌を読まない神月家だったが、陽織のいわゆるゴシップ、フェイクと言う記事が出たことで、早朝から大騒動だった。
その日、陽織は学校どころか、家から一歩も出られず、部屋に閉じこもるしかなかった。
学校に迷惑はかけられない。
家の電話は鳴りっぱなし。
父と高嶺は、早朝に裏口から出かけた。
陽織は、黎人に迷惑をかけたことも、学校に行けないことも、申し訳なさと悲しさと怖さで、なぜこうなったのか、朝からずっとぐるぐる考えている。
試験が終わった後で、生徒は部活だけの登校日だったため、それほど学校は大騒ぎにならなかった。
スマホには美織や千織、羽織、湊人からSNSで、何度も連絡が入った。
お昼近く、黎人から電話がかかってきた時は、謝罪の言葉ばかり。
「ごめんなさい。黎人さんに、迷惑かけちゃって。うっ、ごめんなさい。わたし、ひっ、く、わたし。」
陽織は泣きながら、ただ謝るしかできなかった。
他のスポーツ新聞の記者が、どこで突き止めたのか、黎人のところにも行ったらしい。
それでも、黎人は冷静に対応し、さすが法学部といった受け答えで、相手が退散したところだった。
「陽織、とにかく落ち着いて。僕たちは大神様に認められた伴侶なんだから、一緒にいるのは当たり前なんだよ。いざという時は、許婚者と言えばいい。」
と、黎人が答える。
黎人はそう答えながら、今回の騒動を巻き起こした記者たちに対して、かなり怒りに満ちている。
陽織に話す言葉は優しくて冷静だが、顔はまるで鬼のようだった。
近くで様子を見ていた悠人は、初めて黎人を怖い、と思った。
(全く、人間が神様に喧嘩売って、叶うわけないのに!)
(陽織は周りが考えているより、ずっと打たれ弱い。何かに夢中になると、スイッチが入るけど、自分のことは結構弱いんだよな。)
「とにかく、僕がなんとかするから、陽織は静かになるまで、絶対に家から出ないでね。」
黎人の優しい言葉に、つい陽織は
(神様のお嫁さん、なっても良いかな。)
と、絆されそうになった。
黎人はすぐにでも陽織のところへ行きたかったが、今はどこに目があるか分からず、とりあえず“ある人“に相談することにした。
それから2日後、あの騒ぎは嘘のように消え、新聞どころかSNSにも、全くヒットすることがなかった。
(絶対、人間の方が怖い!)
と、幽霊よりも人間の方が怖いことを、再認識した事件だった。




