陽織、悪霊を見つける
閉鎖された遊園地の幽霊屋敷に本物が出る、という依頼を受け、初めて大人の人たちと山梨に行った黎人と陽織。
幽霊屋敷に近づくと、周りの空気が一気に変わって行った。
黎人に手を繋いでもらった陽織は、3人の大人たちの後ろを目を閉じて歩いて行く。
幽霊屋敷の入り口は、すでに作業員の手によって、所々壁が剥がされていた。
陽織は先ほどから、ギュッと目を閉じて、ひたすら黎人に引かれている。
黎人はそんな陽織に気づいていたが、何も言わずに3人の後ろをついていく。
半分くらい過ぎただろうか。
気がつくと、5人はまた入り口付近に戻っていた。
「なに?これ、迷路?」
彩奈が、顔を顰めて文句を言う。
「いや、なんらかの力で戻された?って感じかな。」
拓哉が辺りを伺いながら答えた。
その時剛志が、黎人にしがみつく陽織にやっと気づいた。
「え?もしかして陽織ちゃん、怖い?」
剛志に聞かれ、陽織はハッとして顔を上げる。
「い、いえ、ぜ、全然、だ、大丈夫、で、す。」
もう、その答えで、全然大丈夫ではないことが、大人3人にはわかってしまった。
「もしかして、怖がり、なの?」
拓哉に聞かれて、首を大きく横に振る。
みえみえの嘘だ、と3人は生暖かい目で陽織を見てしまった。しかも、それだけではない。
陽織は、先ほどからずっと黎人にしがみついているのだ。
「なんか、お化け屋敷のカップルって、いいよね。」
彩奈が思わず、ニヤニヤしながらからかってくる。
「カ、カップル!?」
陽織は恥ずかしくなって、黎人の手を離そうとしたが、ガッチリ掴まれていて離れない!
「しかし、怖がりなのに、こんな仕事して、大丈夫なのか?」
「え?え?仕事?」
「陽織、気にしなくていいよ。」
黎人が小声で陽織にそう言った。そして、
「すみません、みなさん。陽織はまだ15歳なので、ボランティアなんです。労働基準法に引っ掛かりますから。」
と、にっこり笑い答えた。
「えーっ?ボランティアなのに、あんな神嶋なんかのいうこと、聞いてるの?」
と、剛志が気の毒そうな顔をした。
そう、ボランティア。
廃病院の時、それに気づいた神嶋は、あの後陽織が望んでいたように、銀座の最高級美容室を予約し、お支払いも、してくれた。
山火事の時も、高級お菓子やフルーツのセットを贈ってきた。
全て自腹で。
陽織にとっては、大好きな高嶺兄様とお出かけ、のノリだったので、お仕事と思ってなかったし、今回も、気まずいままの黎人と会えるなら、と来てしまった。
という、あまり深く考えてないところがあり、現場に来て後悔した、という夏休みと同じパターンだ。
一息ついて、再チャレンジとなった。
また、半分くらいまで進んだとき、陽織は閉じていた目をそーっと開ける。
すると、3人の周りにたくさんの子どもたちがまとわりつくのが見えた。
何やっているんだろう?
子どもたちは、これ以上大人を先に進ませたくない様子だ。だから、入り口に戻された?
怖いのは苦手だけど、子どもは怖くない。
今までの経験で、なんとなくわかるようになった。
子どもの霊はみんな被害者。
または、モノが持つ記憶や、残滓、思念など。
被害者の霊は、好きでここに留まっているのではない、というのもわかる。
陽織が何か言おうとすると、黎人がギュッと手を握ってきた。
3人には子どもたちの姿が見えていないのだろうか。
黎人に、大丈夫、と目で伝えて陽織が声をかける。
「みんなは、この人たちが先へ進むのが嫌なの?」
陽織の声で、3人は初めて子どもたちの姿に気づいた。
子どもたちが、
『危ない。』
『いっちゃ、だ、め。』
『あっち。』
『怖い人。』
と口々に言う。
この子たちは、移築された学校の、子どもの思念?
それとも。
彩奈は、腰を低くして、そばにいた女の子に
「ありがとう。でも、私たちは怖い人をやっつけに来たの。」
と、優しく話しかける。
子どもたちをしばらく観察していた、拓哉が呟いた。
「なるほど。この服装からすると、戦中にここに疎開してきていた子どもかもしれない。」
確かに、戦時中は都内の子どもたちが大勢、東北や山梨、長野と言った田舎に疎開していた、と言うことを聞いたことがある。
子どもたちの服装はみんな同じようなシャツと半ズボン、そして胸に布に書いた名札のようなものを付けていた。
「怖いモノ、ってなんだろう。」
「軍人?とか?」
「いや、お寺の移築が混ざってる方が気になる。」
子どもたちの言葉に、みんな首を傾げた。
子どもたちを後ろ手に庇いながら、5人は先へ進んだ。
すると、墓石のオブジェに混ざって、本物がいくつか立つ場所に来た。
「な、これ。本物を移築したのか!」
剛志が呆れる。
しかも、その先にある墓石から、悪霊と化した元人間が、子どもたちをいたぶっていた。
「ヒッ。」
流石に陽織だけでなく、他の4人も息を呑む。
悪霊は一人ではない。
子どもたちは、それぞれに足をもぎ取られたり、腕を引きちぎられて、悲鳴をあげていた。




