陽織、幽霊屋敷を怖がる
「何やってんの?黎人。」
後部座席にいた悠人に声をかけられて、黎人は顔を赤くしたり青くしたり。
「黎人、陽織さん、カバン忘れていっちゃったよ?届けてあげないと。」
慌ててカバンを掴み、陽織の家に行ったが、母の陽香にしか会えなかった。
「ごめんなさいね、黎人くん。陽織ったら本当にわがままで。」
そう言われて、すごすごと神月家を後にした。
10月になっても、まだ暑さが残る土曜日の午後。陽織はまた神嶋に呼び出されて、仕事に行った。
今日は陽織が知らない大人が3人もいる。
1人は菅原翔太の姉、菅原彩奈、就職が決まった大学4年生。
2人目は、神林先生の甥でこちらは大学院生の神林剛志。
3人目は、美織の従兄の神城拓哉、高嶺の同級生だった。
そして、あとは黎人と陽織の計5人。
黎人と陽織以外は学生とは言え、全員20歳以上の大人で、黎人にとっても先輩になる。
翔太の姉の彩奈は、名前とは想像つかない豪快な女性で、陽織を見るなり
「ウチの翔太がいつも失礼なことしてない?あの子、本当にデリカシーないから!」
と元気に話しかけてきた。
剛志も拓哉も、どこからか陽織のことを聞いているらしく、以前のような、馬鹿にするような態度は全くない。
(大人ばかりの中に、なんで黎人さんとわたし?)
このメンバーに疑問が湧いたが、全く知らない人と過ごすのは苦手なので、早く仕事が終わることを願った。
車は剛志が運転するSUV。陽織は後部座席に黎人と彩奈ぬ挟まれて座る。
黎人とは、前回の山火事事件以来で、少し気まずい。
他の3人には見られなかったが、いきなり頭を下げられてしまい、戸惑っている。
「今日は山梨の方へ行くけど、途中で高速乗ってインター寄るからね。」
運転手の剛志が言う。
「山梨?ワイン買えるかなー?」
「運転手飲まないんだから、酒飲むなよ!」
「イヤイヤ、お土産だよ!」
「今日は高嶺じゃなくて、高嶺妹だからな、あんまり下品な話したら、後で高嶺に怒られるぞ!」
「そうだぞ!彩奈。高嶺の大切なお姫様に失礼なことするなよ!」
前の2人がそう言って笑うので、彩奈の方を向く。
「あ、あのお兄様が何か言っているんですか?」
とコソッと聞くと、彩奈は黙ってニヤッと笑った。
そして、陽織の頭を撫でた。
なんでだ??
すると、いきなり隣の黎人が陽織のウエストに手を回し、自分の方へ引き寄せる。
そんな黎人に、彩奈がますますニヤニヤする。
今回は山梨にある、潰れてしまった遊園地のお化け屋敷に出る、本物、だった。
遊園地を取り壊し、配送センターにする予定が、その幽霊屋敷のせいで工事が進まない、と言う自治体からのお願いだった。
幽霊屋敷の建物を壊そうと、重機を操っていたが、突然動かなくなった。
エンジンを止めたはずのトラックが動いて、轢かれそうになった。
中の壁を壊していた作業員が、病気で入院したり、骨折したり、食中毒を起こしたり。
すでに、呪いだという騒ぎになり、遊園地全体の作業が滞っている。
工事車両が残されているだけの遊園地の駐車場に、剛志学校車を停める。
門とアトラクションの鍵は借りてあったので、ちゃんと正面から中に入った。
誰もいない遊園地は、まだ昼だと言うのに薄暗く、かなり不気味だ。
「うわ、なんかうじゃうじゃいて、幽霊屋敷まで行く間も大変だな。」
拓哉が顔を顰めて言う。
廃止された遊園地には、いろいろな残滓が雑多にいた。
もちろん、遊園地での楽しかった記憶、家族の思い出、恋人同士の甘い記憶という、プラスの残滓がたくさんある。
しかし、中にはここで怪我をしたり、別れを経験したりと言った辛いものもあった。
「まあ、これくらいの残滓は悪さをするわけではないから、放っておこう。」
剛志の言葉に、一行は幽霊屋敷へと急いだ。
「幽霊屋敷とか、お化け屋敷ってただのアトラクションだよね?なのに、なんでそんな悪さをすることになったんだろう。」
彩奈の言葉に、確かにとみんなうなづいた。
しかし、近づくにつれて、ほかとは違うなんとも言えない空気が漂ってきた。
「なんだ、これは。」
剛志が幽霊屋敷を包む異様な空気に顔を顰めた。
景色だけではない。まるで、死臭のような臭いまでする。
「ここは、山村の廃学校の校舎や廃寺の一部を移築してます、とあります。」
幽霊屋敷の前に設置された看板の、かなり掠れた文字を黎人が読み取った。
「うわっ、学校だけでもやばいのに、なんで寺?」
5人は全員が遠い目になる。
なんで人間は怖いものが好きなんだろう。
遊園地なんて、楽しいだけでいいじゃん!
陽織はそう思うと、この遊園地が潰れた理由も想像できた。
「ということは、原因はその移築したものかな?しかし、移築する時は何もなかったのかな?」
みんなの意見をまとめて剛志が言った。
とりあえず中に入ることになるが、とにかく陽織は怖がりだ。近寄った段階で、足が震えている。
サッサとみんなが入っていく中、陽織の足が動かない。
(どうしよう。)
廃病院の時は高嶺がいた。
山火事は、さほど怖くなかった。
その前は、好きで巻き込まれたわけじゃない。
でも、今回は違う。
真面目に怖い。
「陽織?」
陽織が立ち止まっていることに気づいた黎人が、駆け寄ってきた。
「大丈夫?」
大丈夫じゃない!
「手、掴んでいいよ?」
手だけじゃ怖い!
すると、黎人が陽織の右手を自分の左手にしっかりと絡めて繋ぐ。いわゆる恋人繋ぎ、という繋ぎ方だ。
「大丈夫だよ。絶対離さないから。」




