陽織、墓穴を掘る
3人は山を降りると、今朝別れた神嶋に今回の原因を報告した。
犯人は動物霊と知ると、電話の向こうの神嶋も、心なしかホッとしたようだ。
帰りは、黎人が運転し陽織は助手席に座った。
滅多に座らない助手席に、陽織は緊張する。
山を降りて開けた道に入ると、後部座席から悠人の寝息が聞こえる。
黎人が小さな声で
「今朝の神嶋さんの話、覚えてる?」
と聞いてきた。
なんでこんな時に?と陽織は顔が赤くなったが
「悠人はね、ずっと祈梨さん、あ、白龍の巫女ね。からほとんど霊力を受け取ってないんだ。」
と言う黎人の話に、思わず顔色が変わる。
だから、休ませなくちゃ、と。
「彼女が受験生っていうのもあるけど、お互い真面目だからね。それこそ、キスぐらいしかしたことないんじゃないかな。」
「僕らは高校生までは、大人と一緒に簡単な依頼のお手伝いをして、大人になるまでに戦い方を覚えて行く。
たいした力を使うことはない。
そして、高校を卒業すると、こうやって自分たちで依頼を受ける。
すると、今までよりもゴッソリ力を持っていかれることもある。
例えば、この前の病院みたいな時はね。
あの時は陽織の料理で、僕たちはかなり力を戻すことができたんだ。
で、足りない分は巫女のところで、癒してもらう。
湊人なんて、帰るとすぐに千織さんのところへ行ったよ。高嶺さんも、じゃないかな。悠人は、どうだろう。」
陽織はその時、一番気になることを尋ねる。
「黎人、さんは?」
その時、信号がちょうど赤になり、車が止まる。
「陽織を、くれるの?」
そう言うと、黎人はまるで瞬間芸のように、チュッと陽織の唇にキスをした。
「ハハハ冗談!」
陽織はちょっと膨れる。
「僕は神様だからね。そんな簡単には、力を失うことはない。逆に、陽織の力が枯渇した時は、ずいぶん分けてあげてたけど。」
そうなんだ。
そう、
そう?
えっ?
「あ、あの?えっ?えっ?」
陽織は今、初めて自分のキスを黎人にあげたと思っていた。しかも、すっごい瞬間的なもの。
しかし、黎人が聞き捨てならない、爆弾発言をした。
「ちよ、ちょっと待っ?それ?それって。」
「うん?陽織、よく霊力枯渇させちゃうから、その度に、供給してたよ?」
「供給?」
「うん。お礼はいいからね?」
「供給。」
「供給。」
「て?わたし?黎人さん?キスしてたって?こと?」
「んー、そうだね!」
黎人が
ニコニコ笑う。
しかし陽織はワナワナと、口元を両手で押さえた。
「わたしの、わたしの、わたし。」
「ん?」
「わたし、もう。」
すると、陽織がポロポロと泣きだす。
「もう、お嫁に、行けない。」
「?陽織は僕のものだよ?僕のお嫁さんだもの。」
「イヤイヤイヤ!」
「そう、決まってるんだよ?」
「ないないない!」
「もう、そればっかりなんだから!」
「無理無理無理!」
車はいつのまにか都内に入り、陽織の家の近くまで来ていた。
黎人は、車を路肩に寄せると、一時停止のランプを点灯し、陽織の頬を挟んで
「えーっ?もう何回もしてるのにー!」
と唇を尖らせる。
そして、陽織を抱き寄せると、息が止まるくらい陽織に近づき、深く唇を合わせようとする。
「全然、無理じゃない!」
起きるタイミングを逸した悠人は、これ以上のことになったら起きあがろうと、決心した。
が、
「ダメー!絶対タメ!絶対花嫁になんて、ならないんだから!」
と、悠人の心配をよそに、陽織が車を降りて、さっさとに帰ってしまった。




