陽織、山火事の原因を探る
車は奥多摩の山の中へと入って行く。
「この辺、熊が出るんだよね、最近。」
運転手の悠人が慎重に、車を進ませる。
と、その時。
もうこれ以上車は入らない、というところで悠人は車を止めた。
ほとんど、東京、埼玉、山梨の県境。
「こんなところに、なにがあるんですか?」
山道を登りながら陽織が聞いた。
「この麓の街の人たちが、大勢夜中に鬼火を見ているんだ。」
「鬼火?」
「一番怖いのは、山火事だからね。」
「その正体を突き止めてほしい、っていうのが今回の依頼。」
そっかー、鬼火かー。
陽織は今までの地下鉄や廃病院に比べ、あまり怖くなくて良かった、と内心思ってしまう。
しばらく行くと、山の中に焼け焦げた木々が現れてきた。
その先にも、何本か。
下草が燃えて鎮火した、と言ったところもある。
「今のところ、山火事にはなってないんですね。」
「うーん。でも、ここなんて木が5本も燃えた痕がある。このまま燃え広がったら。」
悠人は地図を広げ、焦げた木や草の場所を書き込んでいる。
黎人は焦げた木、一本、一本に手を触れ、まるで木の声を聞くように、目を閉じて集中している。
車を降りて1時間ほど、その作業を繰り返しただろうか。
突然、陽織の後ろにあった木が、バッと燃え出した。
「熱っ!」
陽織が咄嗟に前に飛び出した。
その様子を見た黎人が、すぐに陽織を背に庇い、木の辺りを凝視する。
すると、木の根元の方から、黒い影がユラユラと立ち上がり出した。
黎人はモヤに向かって、指を振る。
するとモヤは霧散する。
「この辺りで、山火事があった記録はある?」
黎人が悠人に尋ねる。
「うん。何件かあるね。数年に一回くらいは、東京、埼玉周辺で、焚き火や煙草のポイ捨てが原因で起こっている。」
Wi-Fiが使えないことを想定していたのか、悠人が調べてきたメモを元に答えている。
そんな2人の様子に、陽織は正直にすごいと感心してしまう。
「なるほど。」
と黎人はつぶやいた後、陽織の方に向かって
「ハクを連れてきてるよね。」
と確認した。
陽織はポケットから、自分が使役する白兎の白桃をそっと出した。
「ハク、あそこに君の仲間がいるの、わかるよね?」
黎人が指差した方をよく見ると、うさぎのような形をしたモヤが、赤い目を光らせていた。
うさぎはこちらに敵対心むき出しで、小さな炎を吐きながら唸っていた。
うさぎの足元には小さな塊が、じっと佇んでいた。
たぶん、山火事のどれかで、子を亡くし自らも亡くなったうさぎのお母さんの仕業だろう。
うさぎの親子の周りには、同じように山火事の犠牲になった動物たちの霊が漂っている。
黎人は陽織からハクを受け取ると、白桃にうさぎの親子を任せてみた。
白桃は黎人に向かって、恭しくうなづき、うさぎの親子に向かって行く。
陽織が見つめるなかった、白桃がうさぎの母親に話しかけている。
すると、少しずつ母親は落ち着き、目の色も普通の赤になって行く。
周りにいた、たくさんの動物の霊が、少しずつ空に登って行く。
最後には、うさぎの子と母が徐々に影となり、やがて木々の隙間から見えなくなった。
悠人が先に、周囲の木々の浄化を始める。
「人間は勝手だよね。焚き火や煙草、放火で山の木や動物が燃えても、自分たちに害がなければ、あまり騒がない。あの子たちは、命を落とすほどの大惨事なのに。」
黎人がそう言って、白桃の頭を撫でていた。
陽織は、白桃を受け取ると、黎人に
「ご苦労様。」
と言って、頬に唇を寄せた。
黎人は、びっくりして陽織の顔を見る。
「ご、ご褒美、よ!ハクにもしてあげてるから!」




