陽織、料理をする
助けられた5人は救急車に乗せられ、地元の市民病院へと搬送された。
ほとんどが、飲まず食わす過ごしたことの栄養失調と脱水、疲労が原因。安静と点滴で数日後には回復するだろう、とのことだった。
届けを出した女性のお姉さんも、すぐに東京から駆けつけて、妹の無事に安堵し、何度も頭を下げていた。
陽織は下に着いた途端、力尽きて崩れた。
元々、手術室で使った力が戻っていなかったのだろう。
神代三兄弟が地元の町にあるコテージをとっていたので、そのまま移動した。
高嶺、悠人、湊人の三人で買い出しに行く間、黎人はソフィーに陽織を横たえて、その隣に座っていた。
「手を出すな!」
と高嶺に釘を刺されて?
「うーん、手を出すなと言われたので、これなら良いかな?」
そう言って、黎人は隣で眠る陽織の唇に、そっと自分の唇を重ねる。
(これで少しは力が回復するだろう。)
(手は、出して、ないよね?)
黎人は使役している小さな神様に笑顔を向けた。
見守るのは、白桃と小龍だけ。
翌朝、陽織は5時前に目が覚めた。
いつのまにか下着姿になってベットに寝ていた!
ベッド脇のテーブルに一枚のメモが置いてある。
服を脱がせたのは、白桃だからね!
俺たちは見てない!
ここは温泉地なので、24時間お風呂入れます!
冷蔵庫に色々食べ物、買ってある。
四つの文がそれぞれ違う字で。
ぶっきらぼうな言葉、柔らかい言葉、気を使ったことば、そして優しい言葉。
たぶん4人が4人、それぞれに1つずつ書いてくれたのだろう。
着替えを持ってお風呂に入る。
(兄さまが言ってた、宿泊になるかも、ってこういうことだったんだ。)
でも、テントを用意していたような。
お風呂から上がって身支度を整え、冷蔵庫の中を見る。
(何、コレ!)
ハムにベーコン、ウインナー!
肉も入ってる‥‥‥‥卵。チーズ。
重っ。
レタスにきゅうり、トマトないなー。
なんでニンジン?
フランスパンと食パン?
こんなに食べられるの?
あ、ジャガイモとバナナが冷蔵庫に!
どっちも冷蔵庫入れちゃダメじゃん!
バター。コレ溶かして使え、だよねー。
しかも、塊。
牛乳あるかな?
あったあった!
黎人が目を覚ますと、陽織がキッチンに立って何かを作っていた。
テーブルの上には、サンドイッチにサラダ、スープまである。
「うわっ!僕のお嫁さん、完璧すぎる!」
黎人の声に驚いて陽織は振り向いた。
「あ、おはよう、ございます。」
「おはよう。何してたの?」
「バナナあったので、ジュースを作っていました。」
気づくと、黎人が隣に立って陽織の手元をのぞいている。まるで、新婚カップルのように。
そしてそっと肩を抱くと、頬にキスをする。
びっくりした陽織は、包丁を持った手を思わず黎人に向けてしまった。
「な、何、してるんですか!」
ちょうどそこに起きてきた残り3人が、修羅場の光景にびっくりする。
「ひ、陽織、落ち着け!」
「黎人、何したの?」
「うわっ、刃傷沙汰?」
陽織は高嶺に包丁を取り上げられて、黎人は悠人に首柄を掴まれている。
「えーっ、嬉しかったから、僕のお嫁さんのほっぺにチュッてしただけなのにー!」
一拍置いて。
「はあーっ!?」
「なっ!」
「オバカー!」
3人の声が揃った。
「だ、誰がお嫁さんですか!」
陽織が怒気を孕んだ声で抗議した。
高嶺が陽織の頬をゴシゴシとタオルで拭いている。
「ひどいー。」
黎人がシクシクと泣いてる。
そんな騒ぎも一段落した後、5人は揃って朝食をとった。
「へえー、お前料理上手いんだな。」
「陽織は海外遠征の時は、いつもコーチと自炊してたんだ。」
「外食は栄養バランスが良くないので。」
いつもいつも、コーチやついて来ていた栄養師の先生が教えてくれた。
それが今生かされてるのが、陽織は嬉しかった。
「というか、どういう買い物しているんですか?まだ、食材余っているんですが!」
3人はシーンとなる。
「じゃあ、昼はバーベキューしよう!」
「だねー。神嶋さん来るまで、僕たち帰れないし。」
その名前に、陽織は眉間にシワを寄せる。
「さすがにバーベキューは食べないでしょ!」
「飲み物、足りないんじゃない?」
「買い出し行こう!」
もう、昨日の緊張感はどこにもない。
「買い出しは、私が行きます!」
もう無駄なものは買わせない、と陽織は手を挙げる。
結局、買い出しは陽織が、運転手が黎人、荷物持ちと黎人の監視が湊人に決まった。
残った二人は後片付けと、バーベキューの準備。
うるさい3人がいなくなった後、2人は黙々と片付けをし、神嶋に出す書類を作成した。
「高嶺さん、ありがとうございました。」
悠人が高嶺に頭を下げた。
高嶺は何?と顔を上げた。
「高嶺さんが、陽織さんを連れて来てくれたんですよね。黎人のために。」
高嶺は無言のまま、顔をまた、下に向けて書類に目を落とす。
そして
「どうせ、いつかはそうなるんだ。それなら、自分の目で確かめたかった。」
と小声で返事した。
「うわっ、高嶺さん、お父さんみたいですね!!」
という悠人を軽く睨む。




