陽織、涙を流す
小説は好きだ。特に推理小説。
ドラマはあまり見ない。
時間がなかったから。
でも、遠征で海外にいた時、海外ミステリーをよく見た。CSIにクルミナルマインド、メジャークライム。
「よく、そんなサイコキラーが出てくるの見られるね?」
と、コーチに聞かれた。
「怖がりのくせに。」
そう、陽織は怖がりだ。
海外のホテルで怖い時は、よくコーチのベッドに潜り込んで笑われた。
絶対には一人部屋は嫌だった。
家で、祖父や父のもう一つの仕事話も聞くのは嫌だった。怖かった。
でも、メジャークライムで、最後にシャロンが亡くなった時は、ドラマを見ながら泣いた。
泣き虫なくせに、怖がりなくせに、ミステリーやサスペンスが好きだった。
「サスペンスは好きなの!犯人を考えるのが面白いの!お化けは生きてないじゃない!」
そう、言っていた。
そう、一番残酷なのは、お化けより人間。でも、人間同士なら戦えるから、怖くない!でも、お化けより、許せない!
よくわからないけど、そんな気持ちがいつもあった。
だから、スケートを引退したら、FBIとかに入れたら良いな!と思っていた。
でも現実は、きっとこんなふうに怖いんだろうな。
そして、この子はそんな思いをしたんだ。
そう思ったら、涙が出てきた。
たぶんこの子は、ここで、殺された!
その時、突然扉が開く!
「陽織!」
陽織が男の子の前で泣いている姿を見つけた。
男の子は、当然生きていない。
しかも、ひどい姿だ。
黎人は陽織を後ろから抱きしめて
「ダメだ!気持ちを持っていかれるな。」
と叫ぶ。
そして、陽織の目を手で覆った。
しかし、その前に陽織の体から、白い光が溢れる。
まただ!
地下鉄の時と同じ。
男の子の体が少しずつ、綺麗に治って行く。
「陽織、陽織、ちゃんと聞いて!」
「聞いてるか?返事をしなさい!」
黎人と高嶺が、叫ぶ。
陽織の意識を持っていかれないように。
泣きながら、男の子の手を握った。
ごめんね、ごめんね、間に合わなくて。
すると、男の子は笑っていた。
「ありがとう、お姉ちゃん。」
男の子はそう言うと、陽織の手を離した。
その手を誰かが優しく握ってくれる。
温かい手。
ゆっくり目を開けると、黎人と高嶺の姿が見えた。
「陽織?」
黎人が陽織の顔を覗き込む。
陽織の目は涙が溢れている。
黎人が抱きしめる。
その姿を見て、高嶺は立ち上がり周囲を見回す。
もう、辺りにはなんの気配も残っていなかった。
高嶺はホッと息をつくと、小さな声で
「先に行く。陽織を頼む。」
そう言って、廊下に出ていった。
黎人は陽織を立たせると、高嶺に続いて廊下に出る。
「少し、外に出る?」
と黎人が聞くが、陽織は小さく首を横に振った。
まだ泣いている陽織を支えながら、3人は上の階へ行った。もしかしたら、さっきの男の子が、今回の案件のキーワードになっているかもしれない。
そのためにも、早く上の二人と情報共有しなければ。
「もし、陽織の推理が正しければ、ここはとんでもない殺人病院だな!」
高嶺と黎人は、陽織の話を聞いて怒りを隠せない。
「ここが廃病院になった理由がそれなら、警察は知っていたはずだよね!」




