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陽織、サスペンスドラマのヒロインになる

倒れていた女性2人を外に運び出し、高嶺は救急車を呼んだ。悠人は神嶋に連絡を入れる。

中に残った湊人と陽織を、黎人が守るようにして、周囲を伺う。

高嶺たちが戻ってくると、階段を上がることにした。

「とりあえず、一階にはいないね。」

何が、と陽織は聞きたかったが、口を押さえた。

「あの2人だけ?」

「いや、あと男性が3人いるらしい。」

「ヤローかー。帰ろうか?」

と、少し冗談を言える余裕が出た。


確かに一階にはあまり妙な空気はない。いかにも幽霊病院という風ではあるが、そういった空気は感じない。

まだ2回しか経験のない陽織でも、なんとなくわかる。

階段を一列で昇ると、ニ階も診察室だった。

一階が内科や外科なら、二階は耳鼻科や歯科、眼科といった診療科が入る。


二階も空気は下と同じように感じたが、階段の途中、上の階から視線を感じる。


陽織は正直こういったものが得意ではない。

前の2回は自ら飛び込んだのではなく、やむを得ない状況で引きずられた。


しかし、今回は自分でついて来てしまった。ここまで来て帰る、とは言えない!というか一人で外に出るのも怖い!


とりあえず黎人の腕と、湊人の腕を知らないうちに掴んでいた。湊人は「はあ〜?」と言いたそうだが、黎人はニコニコしている。


階段をさらに上がると、高嶺の顔に緊張がます。悠人も懐から何かを取り出して、湊人はいつでも銀が呼び出せるようにした。


(一つじゃないね。)

(大物が、ふた、つ?)

(小物は複数だ。湊人行ける?)

黎人に言われ、湊人がうなづき、陽織の手を振り払った。


三階に近づくと、身体全体が重くなり、空気が一気に澱んだ。その瞬間、陽織は何かに足首を掴まれ、階段を下に引きずられた。


驚きで声が出ない!

黎人の腕を離した途端、一気に引っ張られる!

黎人は、陽織が自ら手を離したと思ったが、そのあと陽織の身体が階段の手すりに打ちつけられる音で慌てて振り向く。


陽織!

黎人に手を伸ばすが届かない。

落ちる!

どこへ?

高嶺も驚いて振り向くが、そこに陽織の姿はなかった。

「陽織!」

「下?」

「でも、そんな!」

兄3人の顔色が変わる。

見落とした!?


「とりあえず、二手に分かれよう!」

悠人は湊人と先に上へ、高嶺と黎人が二階を再度確認することになった。


痛さで目を閉じていたが、気づくと重い扉の内側に閉じ込められていた。

いつ?どうして?どうやって?

薄暗がりの中、上の方に丸いガラスがついた灯りが見える。

どこかで見たことがある。

なんだっけ?

丸い光が6、8つ?


ここがどこかわかった途端、陽織の身体が強張った。

手術、室?

しかも、自分はその台の上に横になっている。


なんとか降りようとするが、身体が動かない。

声も出ない。

涙が出るが、何がどうなっているのか?

どうしたらいいのか?

とにかくわからない!

まるで、サイコキラーに捕まってしまったサスペンスドラマのヒロインだ!


バクバクする心臓を少しでも落ち着けるために、うっと唇を噛む。

そう、わたしはヒロイン、ヒロイン、ヒロイン!

絶対に死なない!


そう心で叫びながらもう一度、よく見回すと、隅にうずくまる黒い塊のようなものが見えた。


「嫌だー。痛いよー。」

塊がそう言って泣き叫んでいるように聞こえる。


ひっ。

もう一度ギュッと目を瞑ったけど、心の中で、また叫ぶ。ヒロインは死なない!ヒロインは大丈夫!


再度、泣いている塊の方を見ると小さな男の子がいた。

「大丈夫、だよ?もう、痛く、ないよ。」

塊の方に話しかけてみる。

ほんとは怖い!怖い!

でも、大丈夫!


少し腕が動く。首も動いた。

「わたしが、いる、よ。」

こんなで良いのかなー?

そう思いながら、陽織は精一杯の声をかける。


あの時、褒められたこと、思い出せ!

地下鉄の時だって、怖かった。

目を背けたかった。

同じ、同じ、同じ!

何度も何度も言い聞かせて、脚をそっと動かしてみる。

降りられる。

音を立てないように、そっと、そっと。


高嶺は医学部生だ。病院の間取りはだいたい同じ!色々な病院を見て来た。一階、二階、どちらでもまだ見落としたもの!なければいけないのに、見てないもの!


高嶺はキュッと顔を上げた。

「オペ室!」

高嶺が叫ぶと同時に黎人は廊下を走った。

「建築基準法第25条、手術室は全体を不浸透室のもので覆い、清潔な手洗い。」

黎人が走り続けた先、突き当たりにその部屋の扉はあった。

「あった!ここだ!」


陽織は男の子の方へ近づく。

「大丈夫?」

声をかけると、男の子が顔をあげた。

男の子の顔にホッとする。普通だ。

うっ!

しかし、そのあと声にならない悲鳴が出た。

「お姉さん、僕ね、お腹の中、取られちゃった。」

そう。その男の子は、身体の中身がなかった。

「お姉さん、痛いよー。」

「病気、だぅた、の?」

陽織は意を決して聞いてみる。


この病院が、もし、そんな悪いことに使われていたなら、怖い。

そう思うと陽織の身体は、また強張ってしまう。

誰か、ミステリーの読みすぎって言って!












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