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陽織、廃病院に行く

夏の山里は都会とは違うカラッとした暑さに包まれていた。蝉の鳴き声はうるさいが、吹き渡る風が涼しい。

高嶺と悠人、陽織と黎人、湊人が並んで歩く。

珍しい組み合わせだ。

高嶺が悠人に

「すまない。陽織のせいで黎人があんなにポンコツになるとは思わなかった。」

と謝る。

それを聞いた陽織と湊人が

ハア?!と、高嶺を睨んだ。


たぶん、睨んだ理由は全く違う。

「黎兄はポンコツではない!」

「なんでわたしのせいなの⁈」

同時に言って、同時に喧嘩になる。

それを黎人が羨ましそうに見ている。

「なんか、仲良い、よね?」

再び、2人からハア?!と言う声。


「どうでもいいけど、俺は黎兄のお嫁さんが、陽織ってのは嫌だ!だいたい、コイツが義姉?になるなんて、考えられない!」

「だから、ならないって言ってるでしょ!わたしだって、湊人が義弟なんて、絶対嫌!」

間に挟まれた黎人は、えー?と言いながらなんとなく嬉しそう。


「そっかー。もう姉弟になるってことを、ちゃんと考えてくれているんだ!」

と、呑気にほわわと言っている。


神月家の長男高嶺は、カタブツで真面目で几帳面。

一方、神代家の長男黎人は穏やかでおっとりしている。どちらも冷静沈着だけれど、キッチリした高嶺、柔らかな黎人は色々と比較されていた。

もっとも黎人は、その分カタブツな面を悠人が補う双子と言う点で、違いが現れていたのだろう。


しかし、そこに神月家がひたすら隠していた陽織という想定外の存在が現れ、冷静沈着で穏やかだった黎人に異変が起きた!

というのが、現在神代家の見方だ。


もしかしたら花嫁ではなく、何かの怪異に当たったのでは?などと湊人は言っているとかなんとか。


それを悠人から聞いて、高嶺はなるほどと思った。陽織には怒られるだろうが。


車を降りて10分ほど歩くと、かつてこの近くの新興住宅を支えた、大病院の姿が見えてきた。


今回、神嶋のところに来たのは、怖いもの見たさで、ここに来た妹と友人が、何日経っても帰ってこない。連絡もつかない。という、都内に住む女性からの失踪届けがきっかけだった。


以前にも、ここに来たあと、友人の様子がおかしい。息子が帰って来ない。先輩がビルから飛び降りた。という、この病院が原因では?と思われる奇妙な出来事や事件は起こっていた。


しかし、なかなか県警が上に回してこなかったため、事件として扱われていなかった。


県警を問い詰めたところ、今回のようなことが複数回あったことから、神嶋がこちらに依頼してきた、ということだった。


元大病院はほとんどボロボロで、廃業したからまだ10年、というのが嘘のようだった。

窓ガラスは割れ、キープアウトのテープがあちらこちらで切れている。ツタが這う壁はどす黒く、異様な匂いもする。

「クチャい。」

陽織が鼻を摘むと、

「お前なー、そういう時はハンカチで押さえろよ!女だろ?」

と湊人が言ったので、また喧嘩になる。と、

「し、静かに!」

と、黎人が今まで聴いたこともないような低い声で、2人を注意した。

その声に湊人が一瞬で青くなる。

(黎兄に怒られた〜!)

陽織も、両手で口を押さえた。


高嶺と悠人が先頭、中に湊人と陽織、一番後ろ

黎人という布陣で中に入る。


高嶺が今度は人差し指を唇に当てて、静かにするよう指示する。

病院の玄関口から、なんとも言えない臭いが漂う。

薬の匂いに混ざって、腐った匂い、死臭、獣のような匂い。


陽織は鼻と口をタオルハンカチで抑え、高嶺の後に続く。緊張で手が強張り、暑くないのに、首筋を汗がつたう。陽織は高嶺から白い手袋を渡され、それをはめた。瓦礫などで、手を切らないようにだろう。


一階はどこの病院でも同じ、広い受付と待合室になっていて、全体が見渡せる。

入って右手が総合受付。真ん中が相談窓口。左手が待合室だ。


真ん中の広い通路の両側にエレベーターがあり、そのさらに奥にガラスの扉が見える。ガラスはヒビが入って、開きっぱなしになっていた。


ガラス扉の向こうに細い通路があり、その並びにはレントゲン室や検査室がある。


さらに通路がいくつかあり、また扉がある。一つは階段前の扉。そして一つは裏口に出る扉だった。


都内の大学病院より、はるかに小ぢんまりしているが、こういった田舎では、かなりの規模の病院だったのだろう。


裏口に出る扉の近くに、女性2人が倒れているのが見えた。高嶺と悠人は、静かに素早く駆け寄ると、首に指を当てた。


弱いが脈がある。

高嶺はすぐにスマホを出すが、圏外の表示。

兄たち2人は、それぞれの女性を抱えて、裏口から外に出ようとしたが、ドアは鍵があいているのに、開かなかった。

(いなくなったのいつだっけ?)

(4日前。)

(ギリギリだな。)

小声で囁きながら、始めに来た玄関口に回る。

























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